私が、良いと言ってくれるので結婚します

あべ鈴峰

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秘密をつかんだら どうする?

ディーンは 拐われたクリスがいる小屋らしき建物を呆然と見ていた。
「 ……… 」
材木置き場たと言っていたが、 これはそんな言葉じゃ足りない。 薄っぺらい板で四方を囲っているだけだ。 屋根があるから、かろうじて小屋に見える。

しかし、どんなに辺りを探しても他にそれらしいモノがない。
( ……… )
考えても仕方ない。そう切り替えると 
ディーンは木から木へと移りながら小屋に近付く。
そう近づかなくても打ち付けてある板と板の隙間が広いせいで中が丸見えだ。小屋もそう大きくない。 
(ドアがないから、こっちは裏だな)
足音を立てないように、そっと歩く。見張りがいるかどうか確かめようと、 入口を探す。 すると、積んである木箱に目がとまる。
( 何の箱だ?)
 中身を確かめようと近づくと、見張りの男がいた。さっと隠れる。 ルーカスじゃない。 ルーカスはどこだ? 小屋の中か? それに、もう一人の犯人もいない。小屋をぐるりと一周したが、やはり人影はない 。クリスは中だ。 
逸る気持ちをなだめる。ここからが、一番重要だ。

しゃがんで身を低くして更に近づく。 壁にぴったりと体を押し付けて覗き込む 。材木置き場だから、明り取りの窓も無い。しかし、隙間からの光が差し込んでいて、中の様子を見るには十分な明るさだ。
藁の上にシーツを掛けただけのベッドらしき物。木箱で作られたテーブルの上には 食事を取った後が目に入る。
一応キチンとした待遇を受けていると知ってホッとした。
クリスは何処に居るのかと 見る角度を変えると帯刀した騎士風の若い男が、
(アイツがルーカスか? どう見ても子供だ)
青いもこもこしたドレスを着ている女の子の手をとって話している。 相手の女に、嫌がる素振りはない。

ディーンは衝撃的な光景に心の中で絶叫する。
( 嘘だろう!)
何で他の女が、ここに居るんだ?
クリスじゃ飽き足らず、他の令嬢まで拐らったのか? じゃあクリスは別の小屋に居るのか?
予想外の事態に混乱する。

みんなで一生懸命探したのに、居たのは別人だなんて、やりきれない。
このまま乗り込んでルーカスの胸ぐらを掴んでしまいたい。
そんな怒りがこみ上げる。そして、クリスの居場所を吐かせたい。
『何が助けてあげるだ!』
ただの女好きの腐った野郎だ。 
貴族だからって 好き勝手していいと思うのか!
いったい何人の女を泣かせたんだ。
しかし、その気持ちを押し殺すしかない。貴族の前では市井の者はゴミと同じだ。感情に飲み込まれたら、それで負けだ。 爪が食い込むほど拳に力を入れる。 とにかく、レグール様に頼まれたことをやろう。 クリスを助けるためにもルーカスは捕まえないと。

深呼吸して気持ちを落ち着かせると、 もう一人の犯人の位置を確かめようと別の場所に移動した。
(ここから見えるな)
覗き込む落とした時 
「ルーカスは料理上手なんだね」
「そんなことありませんよ」
 中から確かにクリスの声がした。
ショックで膝から崩れ落ちそうになる。聞き間違いじゃない。
それをなんとか踏ん張って中を見る。青いドレスを着ていたのはクリスだった。
( なんで?)
女に間違われるのを死ぬほど嫌がるのに、自ら着るとは考えられない。クリスの性格からして、そんなことをするだろうか? 嫌なものは嫌だと駄々をこねるのに……。
分からない。 クリスの理解できない行動に途方に暮れる。
犯人に男だとバレないようにとか?

こうして目の当たりにしても信じられない。ルーカスは 完全にクリスの事を伯爵令嬢だと信じてる。
うっとりと、クリスを見ているルーカスの目 には喜びが浮かんでいる。
思い込みほど 恐ろしいものはない。

確かにクリスはよく女に間違われるが、幾らなんでも素肌に触れているのに気づかないなんて事があるのか? 
骨格とか見れば気付きそうなものなのに……。今はドレスだけど誘拐した時はズボンだった。その事を不思議に思わないんだろうか?
間抜けなのか、それともクリスの女子力が半端ないのか。俺には分からない。
( ……… )
まあ、何はともあれ無事なようで安心した。ルーカスの 様子を見るに酷いことはされないだろう。
少し離れてもう一人の用心棒が、その様子を眺めている。
こっちの男も特徴が無い。しいて言うなら背の小さい。
それ以外の人間の気配はしない。

最後に何か見落としが無いか、中の様子を再確認してその場を後にした。
この事をロアンヌが知ったらびっくりするな。いや、ドレスを着ているのをロアンヌに見られたクリスが慌てふためく姿を見るほうが面白いな。そんな場面を想像すると笑いがこみ上げる。



ロアンヌはレグールと手を取り合って脇道を歩いていたが、途中から 藪の中に 入った。レグールの迷いのない足取りに何故と聞くと、草が折れていると教えてくれた。
「足下に気を付けて。この辺りは手つかずだから歩きにくいはずだ。 一列になって歩こう」
「分かりました」
ロアンヌは言われた通りレグールの後ろを歩く。暫くして、レグールから足音かしないことに気付いた。
履いている靴のせいかと思ったが、私が履いているものと何も変わらない。
そうか、歩き方だ。
こう言うところに、経験の差を感じる。

レグールの歩き方をまねながら足下により一層 気を付けて歩いて行くとレグールが 片手を挙げて止まれと合図を送って来た。
犯人かと物陰に隠れて見ていると、ディーンが此方へ向かって来るのが見えた。しかし、考え事をしているのか、こんなに近くなのに私たちに気付いてない。
「ディーン」
声を掛けるとハッとした様に立ち止まった。
「何かあったのか?」
「いえ、別に」
何かを隠しているような態度に問いただそうとしたが、その前にディーンが報告を始めた。
「犯人は三人です。クリスの正体は、ばれていない様で……特別待遇を受けています」
(特別待遇?)
ディーンは嫌味を言う人間ではない。と言うことは、本当に大切にされてるということになる。それは嬉しいことだけど……。どんな特別待遇なんだろう?

「まだ、クリスの事をロアンヌだと勘違いしているんだな」
良かったと、胸を撫で下ろす。
これで最悪な結果を回避することが出来た。一番心配していたのは犯人たちにクリスの正体がバレてしまう事だ。もし、人違いだと分かれば、身代金もパーになるから、騙されたと犯人たきちが怒りだす。そうなれば口封じに殺されてしまう知れない。
「犯人たちは、全員帯刀していました。ルーカス以外に中年の男か二人です。一人は、外で見張り。もう一人は小屋の中にいました。 風体からして用心棒じゃないかと思います」
「 用心棒か……」
レグールが顎に 手をやって考えを巡らせている。お金で雇ったのだろう。 
とい言うとは、それだけ実力があるはずだ。無事救出できればいいけれど……。
「それでクリスの様子は?」
身を乗り出してディーンの返事を待つ。 
(泣いてないといいけど……)
それが一番心配だ。人違いだとバレないように神経をすり減らしてるはずだ。誘拐犯と 一晩も過ごしたなんて……。早く助けに行かないと。
「クリスは 小屋の中でルーカスと、もう一人の用心棒と一緒です」
「他にはないか?」
「その建物ですが……ボロボロで中の様子を見るのは簡単でした。ですから……」

*****

レグールはディーンの 報告にどうしたものかと考える。 身代金をかすめ取ろうとしているのは 用心棒の二人だと考えて良い。 ある程度は予想していた。 ちらりとディーンとロアンヌを見る。 二人とも実践経験はなさそうだ。
騎士として冷静な目で見ると、この二人に何とかできるとは思わない。腕が立つかどうかより、経験があるかどうかの方が重要だ。 経験がないと、どうして行動が後手になってしまう。 問題はそれだけじゃない。
「……ですから」
「こちらの様子も分かりやすいと言う事か」
「はい」
場所を選ばないと 気付かれない様に近づくのは難しい。

3人の力量がどの程度か分からないし、 4人中、クリスを含めて3人が小屋の中にいるというのも厄介だ。 
確実に1人、1人、おびき出して捕まえていくのがベストだろう。用心棒を倒して、 ルーカスと2人きりになったところを隙を見て救出するか。
最悪建物を壊すと言う選択肢もある。 大騒ぎになるが、大きな怪我はしないだろう。 パニックになると無防備になるから 倒すのも簡単だ。

「よし 決めた」
レグールはそう言うと手近に生えている枝を 4本切り落として、二本づつ二人に渡して自分の分も用意する。何に使うのかと二人が問うように私を見る。
レグールは、 二人に向かってニッコリと笑うと 枝を顔の両側で持つ。
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