私が、良いと言ってくれるので結婚します

あべ鈴峰

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二番目のこぶたが 建てた家

クリスを救出しようとディーンは、ロアンヌと小屋に突入した。しかし、ドレスを着たクリスを見てロアンヌが驚き、その理由を問い詰める。一方ルーカスは 見知らぬ女性がロアンヌ様と親しそうに会話をすることに戸惑っていた。

「そんなドレス、脱いでしまいなさい」
そう言ってロアンヌがクリスに近づこうとすると、ルーカスが 阻止しようと前に進み出る。
「何を言っている。このドレスはロアンヌ様への僕からのプレゼントだ」
「そうだよ。すごく高いんだよ」
「はぁ~、お金の問題じゃないの……。モラルの問題なの!」
クリスの言葉にロアンヌが首を振る。そして、ルーカスを睨みつけながら歯の隙間から文句を言う。相当怒ってるのな。でもなんでだ?
(モラル?……あっ!もう手篭めにされたと思ってるのか)
 一晩一緒で、ドレスに着替えてるからって。 飛躍した解釈に笑いがこみ上げる。本当にそうだったらルーカスと一緒にいない。
「はっ! 何がモラルだ。他の男がいるのに裸にする方がモラルに反する。貞操観念がないのか」
ルーカスが、のしかかるようにロアンヌを見下ろす。しかしロアンヌだって負けてはいない。ルーカスの胸を両手で突き飛ばす。
「あなたこそ恥ずかしくないの。このことを知ったら両親が泣くわよ」
「そうだよルーカス」

「説得する自信がある」
「そんなの無理よ」
ルーカスが自分の胸に手を置いて言う。その顔を見てロアンヌが悲しそうに首を振る。
(随分自信があるな。クリスのやつ、何か調子のいいことを言ったのか?)
「そんなの 言って見なければ分からないだろう」
「絶対無理よ」
「なんだと!」
「二人とも落ち着こう。ねっ、ねっ」
クリスが二人の間に割り込むと双方の顔を見る。 しかし二人とも睨み合ってクリスを見ようともしない。
険悪な雰囲気に止めようとクリスが四苦八苦している。そんな姿をニヤニヤして見ていると、レーベルが小屋の中に入ってきた。

「 どうした?」
おかしな雰囲気にレグールが辺りを見回す。その目がドレス姿のクリスを捉えた。その次の瞬間、吹き出したかと思うと大声で腹を抱えて笑い出した。
「ぷっ! はっ、はっ、はっ、はっ」
「笑い事じゃありません!」
ロアンヌに叱られてもレグールのお笑いが止まらない。
「だって、はっ、はっ……だって、はっ、はっ」
 笑いが治らないレグールが、そう言ってクリスを指差す。

「見ないでー!」
クリスが真っ赤な顔で叫ぶ。
悲痛な声だ。
恋のライバルのレグールに笑われてプライドはズタズタ。 クリスが両手で顔を覆うと、体を左右に揺さぶる。 その事を泣かせたと勘違いしたルーカスが、ギロリとレグールを睨みつける。
「やはり、お前にロアンヌ様はふさわしくない」
クリスを庇うように抱き寄せると、背中をさする。 すると、甘えるようにクリスがルーカスの胸に顔を押し付ける。そのことで気が大きくなったルーカスが、前に出ると抜刀してレグール
剣を向ける 。
 絶対、ロアンヌ様を渡さない」
まさかの事態にロアンヌが近づこうとしたが、手で制する。巻き込まれたら怪我をする。

「やる気か?」
ルーカスの表情が一転して厳しい顔になる。軽口を言ってるようでも、殺気
がビンビン伝わってくる。その殺気に
ルーカスの手の震える。 それでも剣を下ろそうとはしない。
(引く気はないみたいだな)
ロアンヌが俺の手をどかす。
「レグール様。止めて下さい」
穏便に済ませたいロアンヌが止めに入る。原因は、ただの 人違いないのに……。3人と無駄なことに拘って本来の目的を忘れている。
ロアンヌが止めても、 二人とも睨み合ったままで 引くに引けない緊張状態。
そんな空気を引き裂くようにクリスが叫ぶ。

「だ って!……仕方なかったんだよ」
全員の注目を集めたクリスが部屋の隅を指さす。つられるように全員がその指が示す方向を見る。 その先には枝に吊るされた白いドレスシャツが揺れていた。 意味がわからないと、全員がクリスに視線を戻す。
「乾くまでの間だけ!……その間だけ……ドレスを着てようとしてただけだよ……」
泣きそうな顔で、それだけ言うと、俯いてドレスの袖をいじる。
「「「 ……… 」」」
クリスの告白にただ沈黙する。深く考えるタイプじゃないから、どうせ そんなことだろうと思った。

分からなくもないが、俺だったら死んでも着ないと首を振る。 
自分の意思で、自分で着替えたんだと知って、ロアンヌがホッとしたように胸に手を当てる。レグールは、やれやれと肩をすくめる 。
そんな中、一人だけその沈黙の意味を知らないルーカスが、突然、クリスに向かって跪いた。行ったにないをするんだと見ていると、
「大丈夫です。この身にかけてロアンヌ様を、あの男たちに渡しません」
ルーカスが自分の胸に手を当てて誓いをたてだした。
「えっ?まっ、待って、まさか一人で戦うつもりなの?」
クリスが引き留めようと腕を掴むが、ルーカスが引きはがして、もう一度 剣を構えた。
「覚悟の上です」
目が真剣だ。
やる気満々だな。
剣に手をかけてルーカスの出方を待つ。緊張にゴクリと唾を飲み込む。
(こうなったら、戦うしかないのか?)
そう思ったとき、背後でレグールが大袈裟に溜め息をついた。
「この期に及んで、一体に何をしたいんだ?」
確かに。俺たちを倒す気なら、わざわざクリスにカッコつける必要はない。

「僕だって、ロアンヌ様が幸せならこんな事をしなかった……。でも、昨夜号泣しているお姿を見て 助けなければと思ったんだ」
ルーカスは鼻息が荒く剣を握り返すと、レグールに向かって自分のした事の正当性を言い出した。
( 確かに泣いてた。ただ理由は、結婚が嫌じゃなくて失恋だけど……)
「クリス。泣いたの?」
ロアンヌに確かめられると、違うとクリスが首を振る。
「泣いてない。泣いてない。ルーカスの見間違いだよ」

だがこれで、ルーカスが強硬手段に出た理由が分かった。好きな女が泣いていたら、助けてあげたいと思うものだ。
「ロアンヌ様、我慢しないでください」
「してない。してないよ」
 ルーカスがクリスに向かって、全て分かっていますと頷く。

これじゃあ俺たちが人の恋路を邪魔する悪者だ。どうしたものかと困っていると急にルーカスがレグールに胡乱な目を向けた。
「もとはと言えば、お前のせいだ」
「はっ?」
「自分の歳を考えろ! 年甲斐も無く若い娘に手を出して恥を知れ!」
「はっ、恥!」
ルーカスの挑発にレグールが、むきになって言い返すのを見て、気にしてるんだと改めて思った。
「何とでも言え。 成人もしてない子供くせに」
「十歳離れているより、ひとつ年下の僕の方がお似合いだよ」
「9歳差だ。間違えるな」
あれ? と思ってロアンヌを見ると小さく肩をすくめる。
「レヌール様の誕生日がくる4ヶ月だけ、9歳差です」
ディーンは吹き出しそうになる口に拳を当てて堪える。

「今どきバスターソードなんて古いんだよ。これだからおじさんは」
「なっ」
言い争いをしていたかと思った次の瞬間、俺達の隣に居たはずなのにレグールがルーカスの喉元に刃を当てていた。素早い動きにルーカスが、あわあわと剣を見て冷や汗をかいている。
俺もロアンヌも電光石火の攻撃に驚き
固まったままレグールの姿を見ていた。
(何も見えなかった……)
気付いたら背後にいたレグールが抜刀してルーカスの首に剣を押し当てていた。圧倒的な強さ。それをまざまざと見せつけられた。 そのことに、全員が絶句される。一度でも剣術を習った者ならば、そのすごさが分かる。レグール・スペンサー。英雄と呼ばれた男。


「わっ、 分かった」
降参したとルーカスが剣を手放す。それを見てレグールも剣を収めた。
「おとなしくしてろ」
レグールの攻撃を間近で見ていたクリスが、腰を抜かしてドンと尻もちを着く。
「ディーン!助けて。こっ、殺される」
そうだ。クリスを助けなくては。
クリスがハイハイしながら此方へ向かっている。手を貸そうとクリスに近づいたとき、ルーカスが剣を拾って薙ぎはらう。足元すれすれに刃先が通り過ぎる。後ろに飛び乗りて攻撃を凌ぐ。
レグールが、ロアンヌを抱えて身を翻す。
「止めて!」
頭を抱えてクリスが踞る。そこをルーカスが、クリスの首根っこを掴んで引きずるように自分の元に連れて行く。
 
ディーンは抜刀すると立ち上がったルーカスに剣を向ける。
「不意打ち は卑怯な」
「これもロアンヌ様の為だ」
そう言って剣を振り回して俺達と距離を取ろうとする。
クリスを人質に取られて睨みあう形で対峙しあう。ルーカスが動けば、俺達も動く。じりじりと距離が縮み、もうすぐ壁にぶつかって逃げ場が無くなる。 小屋の入り口はこっち側だ 。
そうなれば、こっちのもんだと思っていると

ズサッ!

建物に何かがぶつかった音がした。
何事かと全員が動きを止めて 辺りを見回すとルーカスの剣が壁に刺さっていた。 ルーカスの舌打ちして剣を引き抜く。すると、そこから板壁に亀裂が入る。ミシミシと木の裂ける音がしたかと思うと、音がどんどん続いて亀裂が床や屋根まで広がって行く。パラパラと屋根から破片も落ちてきた。
建物が壊れる。
「危ない!」
レグールが叫び、 身をていしてロアンヌの頭を抱える。 ルーカスがクリスを守ろうと、その上に 覆いかぶさるとする。
「クリスー!こっちだ」
だが、ディーンは  そうはさせまいとクリスの腕を掴んで引き寄せた。


バリバリ、メリメリと大きな音をたてて、小屋が崩壊した。


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