身代わり花嫁は妖精です!

あべ鈴峰

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渉猟

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また夜は続いている。
しかし、アルフォンは 隣で眠っているフィアナを起こさないように、床に足をつける。
すると、フィアナが引き留めようと身を寄せてくる。そんな、寝ぼけているフィアナの仕草に微笑みを浮かべる。

私たちは本物の夫婦になった。今は遅れてきた新婚気分を満喫している。
身も心も許しあったことで満たされ何事も寛容になった。しかし、この幸せは期限付きだ。
そうフィアナから言われた時、やっぱりと思った。事が上手くいきすぎている。そう思っていた。代わりの花嫁が見つかって、その花嫁が妖精から人間になった。そして、花嫁から好きだと告白された。どこから見ても都合が良すぎる。
(そういう時に限って足元をすくわれるものだ)
だからと言って、私は このまま何もせずに運命を受け入れる気はない。
その日が来るまで抗ってみせる。

 何としても寿命伸ばす方法を探し出す。まだ時間はある。ありとあらゆる手段を講じてフィアナを死なせない。アルフォンは約束するようにフィアナ
の額にキスをするとガウンを着る。

その足で、もう一つの執務室に向かう。この場所を知っているのは、ほんの数人。誰にも邪魔されずに調べ物ができる。ドアを開けると ランプに灯をともす。乱雑に積まれた本で部屋が埋め尽くされている。妖精、魔法、伝説、そういった話が載っている本を 睡眠時間を削って読み漁っている。
絵本から専門書まで、手当たり次第買い占めていた。だが、まだ見つかってない。どの本もふわふわした内容ばかりだ。餅屋は餅屋。と、言う。
(専門家を訪ねた方が良いかもしれない)
アルフォンは今日届いたばかりの木箱の蓋を開けると、一番上の本から読み
始めた。 今夜こそは、そう思って本を開く。

*****

ビビアンはドランドル伯爵の屋根から降り始めた雪を見ていた。既に季節は冬だ。知らぬ間に時間が過ぎている。
(あの日から何日経っただろう……)
泣き濡れたフィアナの顔を思い出すたび、自分も泣きたくなる。

フィアナを探して、こっそりアルフォン家に行ったが テラスにフィアナの姿は無かった。
そのことにがっかりしたのに、安堵している自分もいた。
綺麗な六角形の雪の結晶の一つが頭にぶつかって手のひらに落ちて来た。
繊細な美しくさがフィアナを、連想させる。

アルフォンと上手く行っているだろうか? 死の宣告をした私を許してくれるだろうか? まだ好きでいてくれるだろうか? 花のような笑顔で迎えてくれるだろうか? 私の話を微笑みながら聞いてくれるだろうか?
いくら考えても正解は分からない。
フィアナが私を見てどんな反応をするのか考えると、どうしてもマイナスのことばからり想像してしまう。
だから、家の中に入ってまで会い行く勇気はない。

「はぁ~」
結局、行き場が無くて、妖精王の家で寝泊まりしている。
「お前は 一体、何時まで ここに居るきだ!」
「 ……… 」
猫に乗った妖精王が下から怒鳴っている。流石にずっと居座り続けてるから、妖精王が怒るのは もっともだ。
でも、ここを追い出されたら 他に行くところが無いのだから仕方ない。 
どんなに妖精王が 騒ごうとも テコでも動かない。腕組みして開き直る。
「いい加減、私の話を聞け」
「 ……… 」
妖精王の言葉を無視して、ぷいと横を向く。この件に関しては譲る気はない。すると、呆れたように妖精王が首を振った後、話しかけてきた。
「……フィアナがお前に会いたがってる」
「えっ?」
驚いて顔を向けると、妖精王が大きく頷いた。

*****

 テラスに出たフィアナは、その寒さに手に息を吐く。日が差さない今日みたいな天気のときは、外で飲むお茶は美味しくない。 お茶はすぐ冷めるし、デザートが硬くなる。
(早くビビアンが来てくれるといいけど……)
それまでは、外で来るのを待つしかない。 心配かけたから報告かったのに、
お母さんのところに居なかった。
(一体どこに居るんだろう。元気ならいいけど……)
「失礼します」
 お茶の準備を整えたロージーが、そう言って去っていく。その後ろ姿が消えたのを確かめると、両手を腰に当ててのけぞる。
「う~ん」
こうすると痛みが和らいで気持ちいい。何が悪いのか、このところ毎朝、腰が凝っている。
(寝違えているのかしら?)
そんな事を考えていると、
「フィアナーーー!!!」
遠くから私の名前を呼ぶ声に振り向く。その先に光の速さで飛んでくるビビアンが見えた。 
 やっと会えた。片手を挙げて合図を送ろうとしたが、その前にビビアンが顔に張り付いた。 
「ビビ」
「ずっと会いたかったのよー」
しがみついているビビアンの背中を、私も会いたかったよと指でやさしくなでる。

一時は恨んだけど、今は雨降って地固まる。の結果に感謝している。
「すごく心配したんだから。本当のことを伝えたけど、そのことを後悔したの。さらに苦しめたんじゃないかって。 許してくれる? 私の怒ってない? 」
ビビアンの怒涛の言い訳に耳を傾けながら、クスリと笑う。
(この感じ懐かしい)

*****

ビビアンは、いつものようにテラスで、フィアナとお茶を飲めることが嬉しかった。可もなく不可もないのお茶がおいしく感じられるほどだ。
フィアナもそうなのか 寒さにカップで指を温めているが、その顔が楽しそうだ。
「それじゃあ、それも良いって言ってくれたの」
「ええ、ありがたいことだわ」
そう言って目を細めるフィアナの瞳が輝いている。嘘ではない。
(意外だ)
結婚に無関心だと思ってたのに……。こんなに情が深いとは思わなかった。
私の身代わりとして結婚したから、離婚まではいかなくても距離を取ると思っていた。
( ……… )
ふと、アルフォンとの結婚式までのやり取りを思い出した。

結婚まで半年間。
二人で、どこかへ出かけたり、お茶を飲んだり、そんな事さえなかった。
会ったのは結婚式の打ち合わせのたった三回。その三回も、『忙しい』『時間が無い』『好きにやって構わない』と言って途中で帰って、何一つ相談できなかった。そんな薄情な男だ。
結局、結婚式の手配の全ては私と母でやった。

それなのにフィアナには、お金と時間を惜しまず自分で選んだドレスをプレゼントしている。どう考えても私と対応が違う。ひいきだ。
「フィアナのこたが好きなのね」
「私もアルフォンが好きよ」
 半分羨んで言った皮肉だったのに、返ってきた言葉に 二人が互いに思い合ってることを知らされた。
(これが政略結婚と恋愛結婚の差?)
私も誰かと恋に落ちてみたい。そう思って目を閉じると、妖精王の顔が浮かんだ。
えっ? 何で? と、その顔を手で払う。あんな小言の多い男と結婚したら毎日が地獄だ。
「ところでビビアンは 今までどこにいたの?」
「えっ、ああ、 妖精王の所よ」
フィアナが目を見開いて両手で口を覆う。急にどうしたのかと見るとフィアナの目が三日月を描く。
「王妃になったのね」
「へっ? 違う。違う。勘違いしないで」
誤解を解こうと両手を振って否定する。
「だったら、どうして一緒に暮らしてるの?」
「そう言うのじゃないから」

その 表現は間違っている。
同じ敷地に住んでるけど、妖精王は朝から晩まで、出かけてたし、私はフィアナが心配で話し掛けられも無視していた。
「ふふっ、 恥ずかしがることないわ」
フィアナには悪いがロマンチックな関係じゃない。違うと首を振る。
「ない。ない。人間に戻るつもりだから、 例えプロポーズされても断るわ」

そんな素振りは見せなかった。それどころか、事あるごとに出て行けと言われ続けた。フィアナが思うような優しい男じゃない。
「ふ~ん。じゃあどんな話をしたの」
「べつに……普通の事よ」
フィアナが 残念そうに唇を尖らせる。
そもそも、まともに話をしなかった。
出て行けとしか言われなかった し、傲慢でいつも私を下に見ている。一度でいいからギャフンと言わせたいものだ。

フィアナが、おかわりのお茶入れると私の前に置く。 すかさず立ち上ると、湯気で暖をとる。
「入れ替わりの件については、話さなかったの?」
「っ!」
フィアナの質問にあっと口を開ける。忘れてた。時間はたっぷりあったのに、ちゃんと聞いておけばよかった。
ガクッとしたが気を取り直す。教会に帰ろうと思っていたけど、帰りによって聞いてみよう。


***

ビビアンは フィアナとの楽しいおしゃべりをして気分よく空を飛んでいた。
(幸せそうで良かった)
後は私が人間に戻るだけだ。
 人間に戻るのに フィアナの羽が必要だと妖精王が、言ってたけど本当だろうか?
嘘はついてないと思うけど 鵜呑みにするのはまずい気がする。


ドランドル伯爵家に、着くとナポレオンに乗った妖精王を見つけて急降下する。
妖精王を発見!

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