28 / 58
第2章 アナタに捧ぐ鎮魂歌
4 新緑のブレスレット②*
しおりを挟むコホンと、どちらともなく空咳をして場を元に戻す。
「外れませんかね、これ」
左手首を占領するブレスレットは、圧迫感もなく容易にくるくる回るが、接合部が見えず無理に外そうとすると、神経を針で刺すような壮絶な痛みが走る。まさしく、王道な呪いのアイテムである。
とてもじゃないが、加護が封印された状態で過酷な山登りは自殺行為だ。
さっさとこのブレスレットを外して加護を取り戻さなければ。早く山に入り毒の流出を止めないと、被害が広がる続け深刻化してしまう。
「現状では難しいな。かといって、このままでも君の命に関わるし…」
「そうなんです?」
きょとんする僕に、ベッドから立ち上がり部屋から茶トラ猫を出したギルフィスが当たり前だと渋面を作る。
「君の魔力量は魔族のしかも、俺に匹敵するくらい膨大なんだ。人族に余りある力は本来、その身に収まるどころか、反動で四肢が千切れバラバラになってもおかしくはない。加護のおかげで絶妙に肉体と魔力のバランスが保たれていたんだ。もし、加護がないも同然の今、同じく抑えられている魔力が一方的に暴走したらどうなるか…」
漠然とチートで片付けて、意識したことなかったけど、魔王と同じくらいの能力を人の子の僕が持つって、リスクがあって当然だよね。無条件で大きな力が得られるほど、世の中甘くはないってことだ。怖くないと言えば嘘になるけど、なんか納得した。
納得はするけど、女神様よ、そんな命懸けのチートより平凡な生活を所望したかったです。
「じゃあ、地道に情報を集めるしかないですかね」
分からない時はまず情報収集が基本である。
「自分の命が危険だというのに、妙に冷静なのは君らしいというか、なんというか」
「失礼な。怖いですよ」
拗ねた口調で訴える僕に、ギルフィスは説得力がないと失笑する。
だって、怖いとは思うけど、身体がバラバラになんて経験がないから、実感がなんて湧かないんですよ。あ、経験あったらとっくに死んでいるか。
「ブレスレットだから装飾品店?いや、魔石が使われているから魔法関係の店?もしくはこの幾何学模様を頼りに図書館、か。これは時間がかかりそうだな…」
どこから調べようか真剣に考えを巡らしている僕の様子に、ギルフィスは訝しげに目を瞬かせた。
「それなら、あの鬼畜を使って『影』を動かせばいいんじゃないか?」
その一言に、ヒュッと息を飲んだ。ぐにゃり、自分の中の何が歪んだ気がした。
「……それって、加護がなくなったことをリヒターに話せってこと?」
恐る恐る絞り出した声は、掠れ震える。
「話せも何も、偽装が解けているんだ。すぐにバレるだろう?」
「ダメっ!」
「…アルヴィン?」
ああ、自分はなんてバカなんだろう。そこまで考えが回らなかったなんて。そうだよ、この姿でリヒターを出迎えたらバレるに決まっているじゃないか。しかもアッシュまでいるんだよ。誤魔化せない!
僕は冷たくなった指先を握りしめ、焦燥で真っ白になる思考を押し止めるように、無意識にそれを自身の唇に押し当てる。脈打つの音がやけに大きく耳に響いている。
ダメだ。僕の加護がなくなったなんて、知られたら、ダメだ!!
「アルヴィン、どうしー」
「お願いっ、お願いだから、言わないで!!」
伸びてきた腕にしがみつき、必死なってギルフィスに懇願する。
「知られたくないっ。知られたら、僕は、僕はっーー!!」
その先に続く言葉は、自分にも分からなかった。ただ、とにかく、知られるのが怖くて怖くてたまらない。
お願いと、僕は短い言葉を何度も何度も。うわ言のように繰り返し、目の前の男に縋り付いた。
「……っ、……か」
どれくらい懇願し続けただろうか。ふと、僕の耳を低い唸り声が掠めた。
「っ!」
強い力で右の手首を掴まれ、痛みに小さな悲鳴が上がる。そのまま、頭上に引っ張り上げられ、爪先立ちで吊るされた格好になった、その先にあったのは、激情を秘めた紅玉の瞳だった。僕と視線が絡んだギルフィスは、眉間にしわを寄せ、苦痛に耐えるような痛々しい表情なのに、唇にだけ不似合いな歪な笑みを貼り付けていた。
「外す方法ならある」
「え…?」
抑揚のない声が発する言葉の意味を求め、薄く開いた唇は気づいた時には、すでに奪われていた。生温かく滑ったものが開いた隙間から侵入し、歯列を割り奥に潜む舌をすくい上げ、強引に絡め取る。
「っ…あふっ、ん…」
空気を求め更に唇を開けば 、それさえ許さないと言わんばかりに唇が角度を変え、重なる深さを増し執拗に口腔を犯す。やがて、求め絡み合ったそこから、飲み込みきれない唾液がつぅ、と口端から顎へ濡れた筋をつくる。
「…あぁ…んンっ、…あん…」
ちゅぐちゅぐと耳まで犯す水音と、時折溢れる鼻にかかった声に思考が霞み、掴まれた腕のなすがまま、相手の気がすむまで蹂躙され続けた。
「……んっふぁ…、…ど、うして…?」
漸く解放された、銀糸伝う唇から酸素を取り込み、回り始めた思考が口づけをされた事実を受け止め、驚愕に目を見開く。
その先で、生理的な涙で薄く膜を張った視界に二つの紅が滲んで揺れていた。
「どうして?言っただろ、これが外す方法だと」
鼻先でせせら嗤う、らしくない仕草にどうしていいか分からず、ただ、黙って次の言葉を待つ。
「俺の魔力を君に与えて、それを呼び水にし君の中の封印を刺激し壊す。粗雑で可能性の低い方法だけど、君の侍従に知られるのを考えたら、大したことないだろう?」
「なにを、言って…」
魔力譲渡は触れ合ったところから相手に魔力を流し、与える方法だ。接触面が大きく、または深い程相手に多く分け与えることが出来る。だからと言って、こんな方法はないだろ…。
「…まだ、足りないみたいだな」
「ーっふぐぅ!!」
冷たい声音が降りてきて、再び唇が塞がれた。逃げたくても右腕を掴まれている上、いつの間にか腰に回された腕に身体を固定されて動けない。
細やかな抵抗で、逃げようとした舌先を強引に奪い吸われ、口腔の粘膜を思う存分嬲られる。
(…なんで?)
右腕を離し自由になった手がシャツの裾から侵入し、素肌をいやらしく撫で上げていく。更に手は下方に移動し、反応し始めたそこを、すりっと撫で上げられた途端、肩が跳ね上がった。
(嘘、だろ)
こちらの反応を楽しむかのように往復する指先に、意思に反し揺れてしまう自身の身体が恨めしい。
しかし、快楽を与えられ熱が集まる身体とは逆に、心は急激に冷えていくのが自分でも分かる。
(ーっ、こんなの、嫌だ!)
愛なんていらない。欲しくない。でも、愛のない、こんな行為はもっといらない!!
ドンッ。
「ーーや、めろ!」
両手で思い切りギルフィスの胸を突き飛ばした。突き飛ばしたと言っても、腰を固定され至近距離からの力ではせいぜい身体の間に、相手を顔を見上げる隙間が出来る程度。それでも、されるがままになっているより何百倍もマシだ。
バシンッ!!
「ふっざけんなっ!何なんだよっ、なんなんだお前は!!」
こちらの心など全く顧みることのない、身勝手な行為に、平手を食らわし、感情のまま怒鳴りつける。昂ぶる気持ちのせいで涙がぼろぼろと溢れてくるのが、悔しいし情けないけど、それ以上に、今は目の前のバカな男に力の限りこの怒りをぶつけたい。
以降、思い付く限りの罵詈雑言をぶつけ続けた僕に対し、ギルフィスは黒曜の瞳を伏せ終始無言で、ただ、黙ってそれを聞いていた。
0
あなたにおすすめの小説
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新!
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新!
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
メインキャラ達の様子がおかしい件について
白鳩 唯斗
BL
前世で遊んでいた乙女ゲームの世界に転生した。
サポートキャラとして、攻略対象キャラたちと過ごしていたフィンレーだが・・・・・・。
どうも攻略対象キャラ達の様子がおかしい。
ヒロインが登場しても、興味を示されないのだ。
世界を救うためにも、僕としては皆さん仲良くされて欲しいのですが・・・。
どうして僕の周りにメインキャラ達が集まるんですかっ!!
主人公が老若男女問わず好かれる話です。
登場キャラは全員闇を抱えています。
精神的に重めの描写、残酷な描写などがあります。
BL作品ですが、舞台が乙女ゲームなので、女性キャラも登場します。
恋愛というよりも、執着や依存といった重めの感情を主人公が向けられる作品となっております。
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした
リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。
仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!
原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!
だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。
「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」
死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?
原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に!
見どころ
・転生
・主従
・推しである原作悪役に溺愛される
・前世の経験と知識を活かす
・政治的な駆け引きとバトル要素(少し)
・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程)
・黒猫もふもふ
番外編では。
・もふもふ獣人化
・切ない裏側
・少年時代
などなど
最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
【本編完結】処刑台の元婚約者は無実でした~聖女に騙された元王太子が幸せになるまで~
TOY
BL
【本編完結・後日譚更新中】
公開処刑のその日、王太子メルドは元婚約者で“稀代の悪女”とされたレイチェルの最期を見届けようとしていた。
しかし「最後のお別れの挨拶」で現婚約者候補の“聖女”アリアの裏の顔を、偶然にも暴いてしまい……!?
王位継承権、婚約、信頼、すべてを失った王子のもとに残ったのは、幼馴染であり護衛騎士のケイ。
これは、聖女に騙され全てを失った王子と、その護衛騎士のちょっとズレた恋の物語。
※別で投稿している作品、
『物語によくいる「ざまぁされる王子」に転生したら』の全年齢版です。
設定と後半の展開が少し変わっています。
※後日譚を追加しました。
後日譚① レイチェル視点→メルド視点
後日譚② 王弟→王→ケイ視点
後日譚③ メルド視点
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる