31 / 58
第2章 アナタに捧ぐ鎮魂歌
7 新緑のブレスレット ⑤
しおりを挟むお届けものって。ここ、何気なく選んだ、なんの所縁もない宿屋なんですけど。どうやってここに泊まっているって知ったの?それに探し当てたんだとしても、こんな時間に直接部屋まで来ないでしょう!?
コケた勢いで、危うく壁に頭を打ち付けそうになったのを、持ち前の運動神経で回避し、改めて扉の向こうにいるであろう、宅配屋さん(?)と対峙する。
「あのう。失礼ですが、部屋をお間違えじゃありませんか?」
「え?ここって、王子なアルヴィン君のお部屋じゃないの!?」
「いえ、その通りです…」
見えないけど、扉一枚隔てた先で、宅配屋さんがオーバーリアクションとってる気がする。
僕がこの街にいるのを知り、なおかつ僕の正体を知っているってことは、城でも神殿でも限られた極一部のみ。声からして若い女性みたいだけど、該当する人物は…、ダメだ、思いつかない。
「ああ、よかった。なら、早く開けて開けて。開けてくれなきゃ、イタズラするぞ☆」
「………」
どうしよう。凄く、開けたくない。
…そうだ、回避ルート。どなたかお客様の中に、回避ルートをご存知のお客様はいらっしゃいませんかー!!(風邪熱のせいで、混乱が当社比一.五倍になっております)
「アルヴィン君ー?」
「あ、あのっ。僕今、風邪ひいちゃってて。移したら悪いんで、荷物は扉の前に置いててください」
よっし。咄嗟にしては上出来な断り文句だぞ、自分。病人相手なら向こうもおとなしく引き下がるだろう。内心ガッツポーズをかますが、敵は自分の予想の遥か斜め上を反応な示す。
「え?風邪!?上気した頬と潤んだ瞳で荒い息!?開けて、是非とも開けてー!!」
なんか知らんが、食い付きました。
… 何、この人。新手のホラーなキャラですか?やめてっ、ドアノブをガチャガチャするのやめてーー!!
結局、精神力をゴリゴリ削られた僕は扉を開けてしまいました。
「お邪魔しまーす」
そして、入ってきたのは飴色の髪と瞳のお姉さんでした。外見は実の兄と同じくらい。吊り上がった瞳が悪役令嬢っぽい、すらっとした美人さんです。黙っていればとても扉越しにハッスルしていた方と、同一人物とは思えません。
「きゃー!念願の生王子ー!」
おい。生ってなんだ、生って。点をつけたら生玉子になるぞ。本当に黙っててくれないかなぁ…。
瞳をキラッキラさせて、シェイクハンドを求めるお姉さんのなんてパワフルなこと。忘れているみたいだから主張しよう、僕は病人です。
「すいま、せんっ、具合、わるい、んで」
「そうよね。風邪を引いているのよね。ごめんなさいね、私ったらはしゃいじゃって。はい、じゃあベッドに行きましょう」
「ええっ!?」
荷物渡して、はいさようならだと思っていたぼくは、お姉さんに部屋の奥へと引きずられていく。
本当に、なんなんだこの人は!?
「ささっ、ベッドに入って入って。薬飲んだ?吐き気は?食欲あるの?んー、ちょっと顔が赤いわね」
たじろぐ僕を問答無用にベッドに突っ込む、お姉さんの勢いは弾丸そのもの。簡易テーブルにリヒターが用意してくれた果物を見つけ、上機嫌で果物ナイフと一緒に手にする。
「お姉さんが果物を剥いてあげよう♪」
「あのー」
「ん?ウサギさんのカタチにする?」
「いえ、結構です。それよりも、貴女は一体、どこのどなたなんですか?」
漸く、尋ねることが出来た。これを聞くのにどれだけ労力をかけてんだか…。
お姉さんは果物を剥くのを止めて、きょとんとした顔をした。次にあらやだと、口元を押さえ、わざとらしいお嬢様笑いをする。
「アルヴィン君に直に会えるたのが嬉しくて、お姉さん舞い上がっちゃってたわ。…初めまして、私は魔王であるギルフィス様の側近が一人で、名はノワールよ。気安くノワさんて呼んで頂戴」
茶目っ気たっぷりにそう、ノワールさんはウィンクした。
「ギルフィス、さんの部下」
ということは、この人も魔族なのか。
「そうよ。いつも魔王様がお世話になってます」
「ギルフィスさんは、魔族の国に帰ったんですよね?」
僕の問いかけに、ノワールさんはあっさり首を横に振る。
「いやねぇ。討伐が終わってないんだから、帰るわけないじゃない。目的も達成してないのに帰ってきたら、盛大に失恋パーティー開いてやるわよ」
「………」
側近なんですよね、貴女。物言いがサバサバし過ぎてて、上に対する敬意がほぼ皆無な気がするんですが。リヒターが陰でこんな調子で僕のこと言ってたら、凹むなぁ。
「じゃあ、ギルフィスさんはどこに?」
魔族の国に帰ってないなら、どこに行方をくらましたんだ?
「んー、実はね…」
僕の疑問に、ノワールさんは眉尻を下げ、困ったような笑みを浮かべて説明をしてくれた。
ちなみに、説明を終えた彼女は、本当に果物をウサギの形にカットしてくれました。果物の皮でうさ耳を模したヤツではなく、ガチのリアルなウサギで。食べるのを拒否したら、残念そうに自分で頭からかじってました…。
0
あなたにおすすめの小説
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新!
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新!
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
メインキャラ達の様子がおかしい件について
白鳩 唯斗
BL
前世で遊んでいた乙女ゲームの世界に転生した。
サポートキャラとして、攻略対象キャラたちと過ごしていたフィンレーだが・・・・・・。
どうも攻略対象キャラ達の様子がおかしい。
ヒロインが登場しても、興味を示されないのだ。
世界を救うためにも、僕としては皆さん仲良くされて欲しいのですが・・・。
どうして僕の周りにメインキャラ達が集まるんですかっ!!
主人公が老若男女問わず好かれる話です。
登場キャラは全員闇を抱えています。
精神的に重めの描写、残酷な描写などがあります。
BL作品ですが、舞台が乙女ゲームなので、女性キャラも登場します。
恋愛というよりも、執着や依存といった重めの感情を主人公が向けられる作品となっております。
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした
リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。
仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!
原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!
だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。
「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」
死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?
原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に!
見どころ
・転生
・主従
・推しである原作悪役に溺愛される
・前世の経験と知識を活かす
・政治的な駆け引きとバトル要素(少し)
・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程)
・黒猫もふもふ
番外編では。
・もふもふ獣人化
・切ない裏側
・少年時代
などなど
最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
-----------------------------------------
0時,6時,12時,18時に2話ずつ更新
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる