だから王子は静かに暮らしたい。

天(ソラ)

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第2章 アナタに捧ぐ鎮魂歌

21夢の残骸とその行先

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  蒼い炎を身に纏い、大樹がその身をゆっくりと灰燼に帰していく。洞窟内は蒼い浄化の炎で満たされ、中でも一際激しく燃える魔物の姿を僕は黙って見つめていた。

 すぐ目の前で燃えているはずなのに熱を感じず火の粉に触れても火傷1つ負うこともない。
 こういう時、普通の火じゃないんだなとしみじみと思い知らされる。

 誘うよう揺らめく炎に、初めてこの蒼い炎を見た時、あまりの美しさに思わず見惚れてしまったことを思い出す。
 当時の僕は自分には決して手が届かない魔法に少しでも心を奪われたことが許せなくて、初対面のギルフィスに随分と失礼な態度を取ってしまった。それでも嫌なを顔せず、むしろ笑って許してくれたギルフィスは思えばあの時からすでに僕に対して甘かったんだよね。

 やっぱり顔、なのかな。見た目の良し悪しって結構大きいもんなぁ。…うん。あまり考えると虚しくなるからやめよう。閑話休題である。

 目の前のことに話を戻すが、勇者としていくつもの混沌の吹き溜まりを目の当たりにしてきた僕でも、今回の件はかーなーり胸くそが悪い。まだ腐ったお貴族様の掃除のがちょこっとだけマシな気がするって、相当だ。

 もし、二人の人生を狂わせた元凶が今も生きていたのなら、今すぐに捕まえて一生僕の魔法の研究材料にしてやったのに。自分が被験者になる苦しみを味わえってんだ。どこかにうっかり仮死状態で埋まってたりなんかしてないかなぁー。

「なんじゃ若いの彼の一族の魂をお望みか?なら、出来んこともないぞ」

「え?本当に!?」

「こら犬、アルヴィンに何吹き込んでやがるっ。いくら勇者でも冥界の理に触れるのは禁忌だからな」

「ほっほっほ。魔王よ、本気に取るでない。かるぅーい冗談じゃて」

「なぁんだ、冗談かー」

 ちょっとだけ期待して…いませんよぉぉ?や、本気で全然全くしてませんから、また残念な目で人を見るのはやめて下さい。痛い、魔王様の視線が地味に突き刺さって痛いっ。

「全く、君ってヤツは…。まあ、いい。ところで身体の調子はどうだ?」

「おかげ様で今のところ魔法を展開しても身体に問題はありません。威力が落ちる分は集中力でカバーすれば大丈夫です」

 展開に必要な魔力を要するのに些か時間は掛かるが、それ以外は特に問題はない。気遣うギルフィスの言葉に僕は左手の魔力の流れを確認してからそう答えた。

 ノリでやっちゃって下さいと言ったものの、流石にギルフィスにばかり負担をかけるのは申し訳なくて。自分にも何か手伝えないかと尋ねたら、僕が魔法に関する加護を封印されているのを知らなかった幻獣から、なら青年の魂の安全のために結界魔法の展開をと頼まれてしまった。なので正直にことの経緯を踏まえ、今は使えないのだと説明したところ、なんと加護の封印をさらっと解いてくれたのだ。
 解いたと言っても、完全にではなく身体と魂の繋がりに差し支えないごく一部だけではあるが、それでも全く使えないよりか100倍もマシである。

「当然じゃろ。儂は冥界No. 1の魂のスペシャリストなんじゃからな。お主に出来んかったかったことを儂が出来たんじゃ。素直に褒め讃えてもいいんじゃぞ?」

 黒わんこめ、またそんな分かり易い挑発を…って、あああああ。これまたギルフィスから分かり易い不機嫌オーラがっ。
 魔王ともあろうお方がなんで簡単に挑発にのるかな。王様って普通もっと懐が広いもんなんじゃないの!?

 今から小一時間程前。僕が青年がいる場所に結界を張り、ギルフィスが浄化の炎で大樹を弱体化させた隙に幻獣が青年の魂を救出するという、見事な連携プレーをやってのけたというのに。
 目の前で仲良くいがみ合いを始めた一人と一匹に、あの息が合った姿は夢だったじゃないかと疑いたくなってしまう。

 …まあ、夢なら今あの光景はないんだけどね。

 始まった舌戦はスルーして、自分たちとは少し離れた場所に視線を向ける。そこには炎の灯りで揺らめきながらも確りと重なり合う2つの影があって、それを見た僕は口元に淡い微笑を浮かべた。
 
 長い間拗れていたものが解消されるにはまだまだたくさんの時間がかかるだろう。けれど、あの様子なら大丈夫。二人一緒ならきっと乗り越えていけるだろう。成り行きとはいえ、愛とか恋なんて信じていないここまで僕が力を貸してやったんだ。そうでなくては困る。

「アル、あの二人が気になるのか?」

「アルって呼ぶな。幻獣との舌戦はどうしたんです?まだ決着が着くには早いでしょう」

「浄化が完了したからやめた。今回は人為的な吹き溜まりだったせいか、核を無くした魔物はいつもより早く浄化が出来たからな」

 言われあたりを見回せば、炎は下火どころかほとんど鎮火し、地面の所々で小さな火が燻っているだけになっていた。大樹も跡形もなく燃え尽き、心なし、広くなった洞窟は空気も軽くなったような気がする。

「こちらもひと段落じゃ」

 それから幻獣が鼻先に乗せ連れてきたのは、赤みかがった黄色と新緑色のソフトボールくらいの球状の光。あたりを照らす程強くはないけれど、確かにそこにある温かな光は見ているとなんだか泣きそうになってしまう。これってもしかしなくてもーー、

「二人の魂?」

「そうじゃ。新緑色に陰りが見えんじゃろ。人格が安定している証拠じゃ。これを今から冥界に持って行き分離作業に入る」

 この状態なら時間をかけ根気強く作業すれば、魂は元の人格に戻り、また転生させられるだろうと。

「他の人格はどうなるんです?」

  気になったから聞いてみた。魂が混ざっているってことなら、混ざっているのも元は別の魂だったってことだよね。

「安心せい。多少の歪みは矯正せにゃならんだろうが、分離した後はきちんと洗浄・転生コースにまわされるじゃろうて。ついでに麓の不死者の魂も後から運んでやるからの」

 それを聞いて僕はホッと胸を撫で下ろした。

 彼等も元々は実験の被害者で、あんな誰彼構わず不幸しようとする性格じゃなかったはずだから。分離して消滅だなんてあんまりだ。

「若いのは優しいのう」

 「いえ。ただ消滅しちゃったら後味悪いなと思っただけです」

 聞いただけで優しいと判断されるなら、今頃世界はラブアンドピースで魔王も勇者も入りませんて。

「いやいや。少なくとも、この魂たちはそう思っておるようじゃよ。この姿では話は出来んがー、若いのこの魂に左手で触れて見てくれんかの」

「こう、ですか?」

 恐る恐る新緑の魂に触れてみる。
 浄化の炎と同じで熱くはなく魂に触れた途端、パンと小さな破裂音とともにブレスレットが砕け散った。

「儂の一時しのぎではなくて、これで本来の力が使えるようになるじゃう。…この魂たちもこの世にもう未練はあるまい。さて、召喚主さんや。もう儂は帰っても良かろ?お陰さまでやらないけないことがたーんと、出来てしまったからのう」

「嫌味な犬はとっとと帰れ」

「ほんに老いぼれをちーとも敬わんヤツじゃのう。若いのお前さんは目上の者をしっかりと敬うんじゃぞ」

「はい。色々お世話になりました」

「では達者でな。魔王のセクハラには気をつけるんじゃぞ~」

「帰れ!!」

「ほーっほっほっほ」

 黒わんこは最後の最後までギルフィスにケンカを売りながら、魂とともに空気に溶けるように消えていった。

 全く、どこまでも茶目っ気溢れる冥界の番犬さんである。

「本当仲良いですよねぇ」

「どこをどう見たらその感想に行き着くのか。是非教えてもらえないだろうか」

 だって、なんだかんだ言って舌戦を繰り広げる姿は楽しそうだったし。どうでもいいなら一々相手にしないでしょ。

「良いコンビだと思いますよ?」

「冗談でもやめてくれ。俺は犬より猫派なんだ」

 成る程、魔王様は猫スキーでしたか。確かに宿での猫の扱いは手慣れた感がありましたもんね。

「1番懐いて欲しい猫には中々懐いて貰えないけどな」

 知らんがな。そんなこと恨めしそうに言われても僕には頑張れとしか返せません。

 拗ねてしまった魔王様は放っておくとして、まずは麓まで転移してアッシュたちと合流しますかね。リヒターもきっと首を長くして待っているはずだから、早めに街に戻らないと。

 あそこの宿の猫元気にしているかなぁなんて、そんな他愛のないことを考えながら、解放されたばかりの加護でいつも通り転移魔法の構成を編もうとしたら、

「え?」

 僕の身体から急に力が抜け地面へと崩れ落ちた。







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☆忘れた頃に更新ですいません。
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