だから王子は静かに暮らしたい。

天(ソラ)

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第1章王子の多忙な日々

17 一方その頃城では(宰相視点)

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 第二王子が城を出た後。王の執務室にて、王と第一王子がしてやったりとにやにやしていた。精悍なガタイのいい大の男二人のヤニ下がった笑顔は、はっきりいって気持ち悪い。

「ヴィンセント嬉しそうだな」

「そういう王こそ」

 どこぞの悪役大臣とその手下のようなセリフをかまして、二人でまたふふふっ、と不気味に笑い合う。第二王子が出立してからずっとこの調子だ。
 この親子にあそばー、…愛されている第二王子はつくづく不憫だと思う。
 すっかり一人旅だと信じ込んで意気揚々と出かけて行った、第二王子が今頃どうなっているのか…。考えただけで背筋が寒くなる。

 どうか遠距離魔法で執務室が凍結、もしくは破壊されませんように。一人ひっそり祈っていると、執務室にこだましていた不気味な笑い声がピタリとやんだ。

「…彼奴はなぁ、小さい頃から一人で抱え込み過ぎる」

 急に真顔になった王が困ったものだと、肩を竦め息を吐く。第一王子もそれに神妙に頷き同意の意を示す。憂いる表情は威厳ある一国の王のものではなく、一人の子を持つ親のそれである。

 しかし、王の心配も分からないでもない。第二王子は優秀過ぎる分、昔から一人でやろうとするきらいがあるのだ。
 今回の討伐の経緯もそうだ。第二王子自身が城下に直接足を運び情報を経て、調査も自身が先導し、原因を解決するために旅立った。こちらの付け入る隙などまるでない。

「そう、ですね。それでもあの子に頼らなければならない、己の無力さが恨めしいです」

 先日の会議で不本意ながら、弟に問題を押し付ける発言をしたことを思い出したのだろう。自嘲気味に笑う第一王子は、普段とは違う苦々しい口調で自身の腕を強く握りしめる。

 きっと、こんな気弱な第一王子の姿は王と自分しか知らないはずだ。

 あの場でいくら勇者が適任だと分かっていても、第二王子が勇者と知る臣下の誰もが躊躇い、口にすることは出来なかった。唯一、皆の総意を発言出来たのは、決定権を持つ王を除けば第一王子のみ。自身を責めるべきではない。
 同行者の件だってそうだ。騎士団内部における貴族間の利権争いに、神殿という後ろ盾を持つ勇者が巻き込まれないよう、第一王子は影で日々身を削っている。さすがに完全にとはいかず、小物は何も知らない第二王子に任せてしまっているが。それだって第一王子は表立ってはみせないが、内心、心苦しく思っている。

 以前、いっそ第二王子に全てを話し、協力して貰った方がいいのでは、と進言したことがあった。その際もこれ以上弟に負担を増やしたくないと首を横に振られ、話は打ち切られてしまった。

今回の人選に至るまでも、水面下でかなり根回したことだろう。

 兄弟共々苦労性である。

 せめてもの救いは、神殿からの同行者の心配がいらなくなったことだろうか…。

「無力なのは余も同じだ。あまりに気に病むな。…して、新たな同行の者はお主から見てどうだ?」

 タイムリーに同行者の話になったようだ。無言のまま、聞き耳を立てる。こういう時、影が薄いと便利だ。

 王の一言に、第一王子の表情ににやり悪い笑みが浮かぶ。

「模擬戦での戦いぶりを見ましたが、あの聖騎士は道中の戦力として充分役に立つでしょう。さすが中央神殿の人選です。それに何より、勇者を気に入ったみたいですしね」

「ほぉ~」

 第一王子の含みある物言いに、王が興味深そうに感嘆の声を上げる。

 その声につられ、勇者姿の第二王子が自分の脳裏に浮かぶ。パッと見地味な見た目だが、純朴な青年といった雰囲気と小顔に大きな黒縁眼鏡という、アンバランスさが堪らないと一部の関係者が騒いでいたのを思い出した。
 仮にも自国の王子をそんな疚しい目で見るなんて。不敬罪で牢にぶち込んでやろうかと密かにリストを作成したら、どこから聞きつけたのか、第二王子の侍従が別の案件の重要情報をやるから、代わりにリストをくれと言われた。あの渡したリストに載っていた者はどうなったのだろうかーー、

はっ、いかんいかん。遠い場所に意識を飛ばしてしまった。聞き耳を立てねば。

「もう一人の、うちの騎士はどうなんだ?」

「問題はないですよ。こちらも戦力充分でに対して好意的な者を選びました」

 王の質問に第一王子は何故か肩を震わせ、笑いを噛み殺し答える。 一体何がそんなに面白いのだろうか。
 確か、第一王子に直接談判にきたのは、赤い長髪のやたら顔が整った若い男だったか。あんなに目立つ容貌の騎士がうちにいたとは。城勤が長く城の者の顔は覚えていると自負していたが、自分もまだまだである。

「あの二人なら、可愛い弟のいい虫除けにもなるでしょう。あの子の恋愛嫌いも改善されるかもしれません」

「だといいが。いっそ、その二人のうち、どちらかとくっついてくれればいいんだかなぁ」

「そうですねぇ」

「ついでに子を産んでくれればのう~」

 おい。

「あの子の遺伝子を持つ子供なら将来有望間違いなしですしねぇ」

 何突拍子のないことを言っているんだ。

「だろ?お前もそう思うだろう?」

 どうして、この親子は真面目な話が続かないんだ!?

 話の流れがおかしな方向に流れていくのを突っ込むべきか、巻き込まれないよう、このまま聞き流すべきか…。
 
 親子の間で空気に徹し、黙々と書類の山を片付けていた宰相はしばらくの間、懊悩おうのうし続けたのであった。










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☆手直ししたものをお読み頂き、本当に有難うございますm(_ _)m
今回で1章は終了となります。
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