【本編完結】ブーゲンビリアの花束を

戌依 寝子 (旧いろあす)

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アナザーストーリー

花屋の店主

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 風呂上がりに、タオルで髪を乾かしながらソファに座ってビールを飲んでいると、妻がニコニコしながら隣に座った。
 こういう時は大体、何かいいことがあって、それを俺に伝えたい時だ。
 結婚して、30年。未だにこういう顔を見せてくれる妻が凄く可愛い。
「どうしたの?」
 そう問いかけると、妻は「うふっ」と笑ってビールを持つ俺の手に両手を乗せて顔を覗き込んできた。そのうきうき弾んだ声も可愛い。
「あの、ディスプレイの花しか買わない男の人いるでしょ?背の高い、ちょっとオタクっぽい」
 言われてすぐに思い浮かぶ。
 テナントの上に住んでいる、彼のことだろう。
「うん、わかるよ。それで?」
 先を促すと、彼女はきゅうっと腕を握る手に力を込めて、嬉しくて嬉しくて仕方ない、という風に顔を綻ばせた。
「好きな人に花を贈りたい、ですって!」
 正直、意外だった。彼は、申し訳ないけどその風体ではとても恋愛事に関わることはなさそうで。
 素直に顔に出して「へぇっ」と驚いた声を上げると、妻はまだ話したそうににんまりとこちらを見上げている。
「それで?どんな花を買っていったの?」
 先を促すと、妻は「うふっ」といたずらっぽく笑った。
「詳しくはないだろうから、色々聞いて、リナリアを勧めたわ」
 そこで俺はちょっと首を傾げた。リナリア。ヒメキンギョソウ。確かに可愛らしい花だが、彼女がここまで興奮するようなことでもない気がする。
 困惑した顔を浮かべると、妻は「もう!」と声を上げてちょっと怒ったふうに眉をしかめた。
「花屋でしょ!花言葉くらい覚えてなくちゃ!」
 言われてやっと思い至る。
 花屋をやってると、花に幻想を抱けなくなってくることも多いけど、彼女はいまでもロマンチストだ。
『この恋に気付いて』
 なるほど、たしかにピッタリだ。
 彼の恋はうまく行くだろうか。うちで買った花がその一助になることを願った。


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