贖罪の篝火

ねりうむ

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第六話

◆1/憎しみの澱

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「あは~! かがり、頑張ってるね~」
 商業ビルの屋上から、夕霧ゆうぎりが眼下の地獄を眺めている。自ら作り出した光景は、思いのほか彼女の心を高揚させていた。
「このまま全部、ぜ~~~~んぶ! 壊れちゃえばいいのにな~」
 両手を広げ、くるくると踊るように回る夕霧。向日葵色の髪が、炎に照らされ闇夜に浮かぶ。軽やかに動く足元からは、花弁が一枚ずつ散るように、ゆっくりと瘴気が拡散していた。

 瘴気は憎しみの澱。
 収まりきらないほど大きく育った憎しみは、体から黒い瘴気となってあふれ出す。そして、湧き出る憎しみは、人を鬼へと変える。

「だからぁ、逆に注ぎ込めば~。当然――」
 夕霧が顔の前に上げた右手を、ゆっくりと握り込んでいく。
 その動きに合わせ、地面を這う瘴気が、逃げることに疲れて座り込んでいた男を襲う。驚きの声を上げながらもがいていたが、その抵抗もすぐに消えていく。闇のようなもやにつつまれ、男の姿が消える。


「鬼の出来上がり~」


 夕霧は腹を抱え、体を折り曲げて笑う。彼女の足元で、また一体、鬼が生まれていた。

「お兄さん格好良くなったよ~。そのまま目に付くもの全部、ぶっ壊しちゃおう!」
 まるでチアの応援のように、右手を高々と上げる。その顔は弾けるような笑顔に彩られていた。
 生まれたばかりの鬼は、その声が聞こえていたかは定かではないが、短く吠えてから町へと消えていった。

「なんてね……。適当に暴れて、適当に死んじゃってよ」
 表情の消えた夕霧が、心底つまらなさそうに呟く。彼女の心の奥底には、ドロリとした憎しみが深く根を張っていた。

 しばらく視線を地上の景色の上に滑らせると、くるりと振り返り、屋上の中央へと向かう。
 そこで両手を広げ、口で大きく息を吸った。

 それは酸素ではなく、この混乱によって人々が吐きだした負の感情を吸い込んでいた。 
『なんでなんでなんで!? なんで俺が死ぬんだよ!』
『痛い……痛いよぉ……』
『もう……駄目だ。逃げられない……』
『くそっ! こっちくんなよ!』
 頭の中でざわめくように、たくさんの声が響く。舌に触る感情の味は、腐臭を放つ金属のようだった。

「まっず……」
 舌を出しえずきながら、吐き捨てるように呟く。ひどく不愉快に顔を歪め、右手で口元をぬぐった。

 彼女は器。夕霧の中に根付いたものを育てるための器だった。それはある日を境に夕霧の中に住み着き、彼女を憎悪の谷底へと導いてきた。

 夕霧は思い返す。
 一番幸せで、最も苦しかったあの頃を――。
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