願えば初恋

わいあーる

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◇嘘つきはどっち?◇

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「フンッ!何よっ!いったい誰の仕事をしてあげてると思ってんのよ!ちょっとした冗談じゃん。あんなに怒らなくったっていいのにさっ」

私も大人気なかったが、あっちだって充分大人気なかっただろう。

台車を押しながらもブツブツブツブツ私の文句は止まらないが、仕事は放棄する訳にはいかない。

「鍵を持って行かなくちゃ」

1階と2階にある倉庫は、常に施錠されている。

管理職達はそれぞれ倉庫の鍵を持っているが、一般社員の私達は毎回事務所に鍵を借りにいき、貸出中が分かるように持ち出し台帳にも自分の印を押さなければならず。

面倒くさいけど、万が一の盗難を防止する為の措置だからこれは致し方ない事だ。管理するにはルールを設けないといけないのも理解は出来る。

私は事務所から鍵を借り、1階の倉庫の奥にある搬入口付近に配達分の荷物を下ろし終え、。

エレベーターで2階へと戻ろうとしている途中、私は従業員専用の扉から入ってきた岸川店長に出くわし、呼び止められた。


「ここにおったんだ。ちょうどよかった。甘味くん、今日の売上ゼロなんだけど」

はぁ?と、砂東フロア長への怒りに任せて、タバコ休憩に行ってたであろうほんのり残り香が漂う岸川店長に向かって発しなかった私を誰か褒めてほしい。

「お言葉を返すようですが、出勤してから今まで砂東フロア長のフォローをずっとさせられてるんですけど??そのせいで、いまだにご飯にも行ってないんですよ?!売上売上って言うなら、先に砂東フロア長に私を解放するように言って下さい!」

店長相手でも言いたい事は言わないと、好き勝手にこき使われてばかりじゃ割に合わない。

「まぁまぁ、落ち着いて。彼は二日目やし、勝手がわからんで同じ売り場の君に頼っとるんだろう。それに、昨日からずっと接客しとるで、後方作業まで手が回らないんだよ。まぁそれも、長う続く訳でもないし今は堪えてよ」

昨日から、あのハイペースでずっと接客していたというおぞましい事実に哀れむ気持ちは芽生えるけど、それとこれとは話が別。

「だったら私の売上はどーでもいいんですか?今日を落としたら今月の個人別達成だって危ういんですけど」

電球一個だって電池一個だって自分で会計をして少しでも数字を上げようとしている私には、本来なら他人の仕事を手伝っている暇はないのだ。

「どーでもええ訳じゃないけど、その分砂東フロア長が売っとるでね~。トータルで見たらいつもより売上ええし。かと言って売り場担当の甘味くんの売上がゼロじゃマズイんだわ。少額でもええで、ちょちょっと数字を上げてきてよ~。甘味くんなら大丈夫でしょ?」

岸川店長が言った通り、私は売り場担当の一般社員だ。

このお店の人員構成は、通常の直営店とは異なり特殊だ。

通常店舗なら店長の下に副店長の役職が設けられているが、大型店のうちのお店は、店長を筆頭にその直属の部下としてフロア長達が配置されていて、そのフロア長が各コーナーのリーダーとして一般社員の私達やパート・アルバイト・嘱託社員を管理している。

フロア長達は担当の商品を持たずに徹底的に売上重視。どこのコーナーにも垣根を越え販売に行ける先鋭メンバー。

そして、売り場の主要商品は基本的には社員が担当し、電球や電池といった小物商品はパートが担当している。

アルバイトは本社から配信されてくるPOPの裁断だったり、毎日入荷してくる商品を売り場に補充したりと、私達の手が回らない所をフォローしてくれていてパートやアルバイトがいないとお店は成り立たず。

その中でも私達社員には、フロア長ほどではないが毎月売上目標が設定されており、

特に売り場担当の人達は、レジ者やサポートコーナーの社員に比べ売上目標が高く設定されていて、その売上目標を達成すべく日々努めている。

「それじゃあ、レジ前のお菓子でもいいですか?」

「それはあかん」

岸川店長の非情な一言に、私は「えー!!」と抗議して。

「少額でもいいって言ったじゃないですかぁ~!」

「せっかくなら家電を売ってよぉ。まだお客様が店内にいるでよ」

「でもー!店長ぉ!」

閉店まではあと2時間。

やらないといけない事はまだあるし、やりたかった事だってまだたくさんある。

仕事の優先順位を考えるけど、まずはご飯の時間は確実に確保したい。

「甘味くんなら大丈夫だって!ま、そういう事だからよろしゅうね!」

笑顔で誤魔化し岸川店長は、私の前から逃げるように去って行った。


「もーー限界だ…」

29年間生きてきた中で、こんなに空腹を感じた事なんてあっただろうか。

さすがにそれは言い過ぎだけど、売り場と倉庫を何往復もしていた私はもうフラフラで、売上よりも何よりも、やっぱりまず先に自分の欲を満たすことを全タスクの最優先事項に掲げ。

19時ジャスト。

もう誰も入ってくるはずもない静かな休憩室で、1人やっとのご飯にありつく。

「おいしいーー!けど、なんか彩りがな…」

ふと思い浮かべる砂東フロア長のお弁当。

中身は、定番の卵焼きにちゃんとネギなんか散らしちゃったりして、きんぴらひじき煮ブロッコリーと健康的な副菜なんかも入れちゃったりと、絶妙なバランスで仕上げられていた。

あの"砂東くん"に彼女。

「フッ」

もの好きもいるもんだな。

中学の頃なんか、1時間目の授業は殆ど居眠りしててしょっちゅう先生に怒られてたのに、そのくせ休み時間になると人一倍はしゃぎ回って早めにご飯食べちゃって。

昼は昼で売店で買ったパンだけじゃ足りず、いっつも私の弁当のおかずを狙ってたっけ。

本当、いい思い出なんて1つもない。
そんなアイツに彼女?

「ププ!おかしー!今度写真見せてもらお~♪」

「先輩?どうしたんですかぁ?」

私のニヤけた顔を見て、15分休憩に来たのであろう遠藤ちゃんが不思議そうに首を傾げている。


「遠藤ちゃん居たのっ?!」

「はい。来たのは今ですけどぉ」
 
「あ、そうなんだ。今日は休憩遅いんだね」

「そうなんですよぉ。砂東フロア長が持ってくる入金金額が半端なくて、事務所の金庫に預け入れしないとすぐにレジのドロアが一杯になっちゃってぇ…。砂東フロア長は今事務所にいるみたいだし、レジにはアルバイトの子達がいるから今のうちにって」

「そりゃ、大変だね」なんて口では言いながら私は携帯をいじりだす。

「はい。でも、砂東フロア長の為なら私の休憩が遅くなるくらいへっちゃらですぅ」

「そっか、そっか。なら、よかった」

「なんならぁ、砂東フロア長が先輩に頼んでる仕事も私に言ってくれればいいのに~。先輩はずーっと砂東フロア長とおしゃべり出来てずるいですぅー。」

「え……あーー。そうでもないけど。ま、仕事だからねー」

遠藤ちゃんは、すっかりアイツの手の中だ。
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