願えば初恋

わいあーる

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◇私になくてアイツにあるもの◇

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「こんな時間にごめんなさいね~!」

そう言う桑原様の身なりは、今日もまたそれはそれは煌びやかで、今日の香水は爽やかな柑橘系だ。

「あらっ!甘味さんもいらしたのね。昨日はありがとう」

「いえいえ、どうも~」

にこやかに笑う桑原様に、砂東フロア長の後ろからペコッと頭を下げ挨拶した。

今日の役割はお手伝いだから気楽なもんだ。


「それでは桑原様、早速よろしいですか?」

「そうね、それじゃあ……」

これと、これと、あっちもいいわね。と、まるでお歳暮でも選んでいる感覚で、次々と大小さまざまな家電を選んでいく桑原様の後ろを砂東フロア長と2人でついて行く。


「甘味、じゃあコレとコレとコレ。先に包装お願い。俺はまた、桑原様の所に行ってくるから」

その場で在庫を受け取ると私はレジへ。

砂東フロア長はレジで包装し始めた私と、商品を選んでいる桑原様の間を行ったり来たりだ。

「これで最後だ。会計してくるから、それが終わったら俺も手伝うよ」

「手伝うじゃないでしょ。これは砂東フロア長の仕事ですよね??」

「だなっ」

ニコッ!じゃないのよ!!

これだからポジティブ人間は嫌いだ。
このポジティブさにしつこさまで加わると、結局は今回みたいに最後は私が折れるしかないんだ。


「はぁ、終わりが見えない」

私の周りは商品だらけ。
ようやく1/3終わった所って感じだ。

長袖のワイシャツの袖が邪魔だと腕まくりして私が黙々と作業をこなしている横で、どうやら会計も済み、砂東フロア長は桑原様を駐車場までお見送りに行き、

その後はレジ締めを終えた斎藤さんを加えた3人で、誰もいなくなった店内で黙々と作業をつづけるが、


「すいません、私そろそろ予定が…。本当は最後までお手伝いしたいんですが、どうしても外せない予定があって」

やっと道連れを確保したかと思いきや、20分足らずで斎藤さんのまさかの離脱。

「斎藤さん?!裏切るんですか…。まだこんなにありますけど…」

私が視線を移した先にはまだまだ包装されていない商品の山。それを見て斎藤さんも苦笑いだが、帰る意思は変わらない様で。

「人聞きの悪い事言わないでよ。砂東フロア長もいるんだからコレくらい大丈夫でしょ!2人とも若いんだからパッパッと片付けちゃいなさい」

長い黒髪を綺麗にお団子にして可愛いシュシュで束ねていて、いかにも綺麗系のおねぇさん風な雰囲気を醸し出しているが、実は斎藤さんは体育会系だ。

包装に年齢なんて関係ないだろうに、ただの根性論を押し付けてきた斎藤さんは、トランシーバーすら外して帰る準備は万端で。

「用事があるのにこんな時間までありがとうございました。後は甘味と2人で出来るので」

砂東フロア長は恐縮そうに「お疲れ様でした!」と頭を下げる。

「申し訳ないです。甘味もごめんね!あとよろしく!」

用事があるなら仕方ない。
無理矢理引き止める訳にもいかないし。

「はーい。お疲れ様でーす」と私が返事を返すと、相当大事な用事だったんだろう。斎藤さんは小走りで私達のもとを去っていった。


そして、再び静かになった店内。

カサカサカサカサと商品を包装紙で包む音だけがしている。

「こうやってお前と2人きりだと、あの頃を思い出すな」

「は?そんな遠い記憶なんて忘れちゃったわよ。気持ち悪い事言ってないで早く包装してよね。こっちは、一分一秒でも早く帰りたいんだからね」

砂東フロア長の顔すら見ずに、私は包装に没頭する。

私だってあの頃の記憶はもちろんあるが、それを一言でも口にしたら、営業中でも無駄に話しかけてくるコイツのおしゃべりはますます止まらなくなるだろう。

だから、砂東フロア長と昔を懐かしむ事なんてしたくない。


「甘味、腹減ったな」

「こうなってんのはアンタのせいでしょ?!その張本人が何言ってんのよ?!」

「そうだけどさぁ。なぁ?この後さ、一緒に飯行かね?」

ニコニコと微笑みながら私の顔を覗きこむ砂東フロア長だが、そんな暇があるならその止めている手を動かして欲しい。

「行くわけないでしょ?!休憩室での事はまだ許してないんだからね!」

恩を仇で返された恨みは深く。
思い出しただけでも、まだ少し恥ずかしい。

「ちょっとした冗談じゃん。それを言うならお前のこの前の嘘も大概だからな?!」

「もーー!口はいいから早く手を動かしてよ!」

そう、無駄におしゃべりしている暇なんてない。
小物は順調に片付いたものの、最後に大物が控えているのだ。

「このサイズはどうやって包もうかなー。ねぇ甘味。こっちも手伝ってよ」

案の定、その大物の前で頭をひねっている砂東フロア長。もう少し自分で考えればいいものを、すぐ私に頼る所は何ら成長の兆しを見せないが、今は愚痴っていても仕方ない。

早く作業を終わらせなければ、私達の結の時間は決まっているのだ。

「はいはい。じゃあ、とりあえず包装紙を下に敷かなきゃだから2人で持ち上げよ」

最後の20個目のオーブンレンジを包装し始めた頃には22時40分になっていて。


「終わったー!これで全部ね!」

包んだ商品が汚れないようにと外装紙までつけ終え、砂東フロア長とオーブンレンジを台車に乗せればこれで一段落。

「そうだな。マジ助かったよ。お前がいなかったら間に合わなかった」

「もーいいから。じゃあ、私は先に事務所に行きますよ。後は自分で持っていけるでしょ」

「おう!」

最後の最後まで、ニカッと爽やかな笑顔。

「私はそんなんじゃ落ちないですよ。じゃあね、砂東フロア長」

私も最後ぐらいは大人の余裕でクルッと踵を返し、砂東フロア長の前を颯爽と歩き事務所へと向かう。

〈砂東フロア長~〉

もう必要ないだろうと外しかけたトランシーバーのイヤホンから岸川店長の声が漏れている。

〈砂東フロア長、そろそろ終わりそうかい?〉

〈えーと、後は倉庫に持っていくだけなんで20分くらいで終わります〉

〈そっかー。悪いんだけど、警備会社の関係があるで出来るだけ23時までには出たいんだよね~。甘味くん、最後まで手伝ってあげてね〉

抜かりない岸川店長の事だから、監視カメラで様子を伺っていたんだろう。

じゃないと、こんなタイミングよくトランシーバーは鳴らせない。

事務所に向かっていた足を止め、私はその場で肩を落とす。

「甘味ーー!店長がーー!!」

だいぶ先まで離れていた私に、フロア中に響き渡る砂東フロア長の大きな声。

「聞こえてるわよっ!!!」

私は再び踵を返し、砂東フロア長の元へと駆け足で戻っていった。
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