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受付のいない図書館
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その休日は、予定が何もなかった。
珍しく仕事の連絡も入らず、時計の針だけが進んでいく。何かをしなければと思いながら、結局思いついたのは、街の図書館に行くことだった。
普段、図書館を利用することはほとんどない。静かすぎる場所は、少し落ち着かない。それでも今日は、誰にも急かされず、時間をやり過ごせる場所が必要だった。
昼過ぎ、久しぶりに訪れた図書館は、外観こそ記憶と変わらなかったが、中に入った瞬間、微妙な違和感を覚えた。
――静かすぎる。
空調の音と、遠くで紙が擦れる気配だけがある。入口正面のカウンターに目を向けて、足が止まった。
受付に、人がいない。
代わりに置かれているのは、大きなディスプレイと無機質な操作端末だった。〈ご利用の方はこちら〉という文字が淡々と表示されている。
周囲を見渡すと、利用者たちは迷いなく端末にカードをかざし、本を手にして通り過ぎていく。誰一人、受付を気に留めていない。この街では、これが当たり前なのだろう。
時代が変わっただけだ。そう自分に言い聞かせ、主人公は館内へ足を踏み入れた。
読みたい本は決まっていた。だが、検索端末はどれも使用中で、空く気配がない。立ち尽くしていると、不意に背後から声をかけられた。
「何か、お探しですか?」
振り返ると、知らない女性が立っていた。三十代くらいだろうか。図書館の職員のようにも見えるが、名札はつけていない。
「本の場所が分からなくて」
そう答えると、女性は少しだけ微笑んだ。
「どんな本ですか?」
タイトルを告げると、女性は迷うことなく歩き出した。その足取りがあまりに自然で、主人公は半歩遅れて後を追う。
書架の間を進むあいだ、女性はほとんど何も話さない。ただ、棚番号を一瞥し、曲がり角ではさりげなく速度を落とす。その様子を見て、ふと疑問が浮かんだ。
「……この図書館で、働いている方ですか?」
一瞬、女性の歩みが止まった気がした。だがすぐに、首を横に振る。
「いいえ。たまに来るだけです。ボランティアみたいなものですね」
その言い方が、なぜか胸に引っかかった。
目的の本はすぐに見つかった。女性は棚から一冊を抜き取り、差し出す。
「これです」
「ありがとうございます」
礼を言うと、女性は軽く会釈をして、そのまま別の書架へと離れていった。
本を手にしたまま、その背中を見送る。
たまに来るだけの人が、なぜここまで詳しいのだろう。
ふと、視界の端に「郷土史」と書かれた棚が目に入った。きちんと揃えられた本の列の中で、一冊だけが不自然に斜めになっている。
なぜか、それが妙に気になった。
読みたい本を抱えたまま、郷土史の棚へと足を向ける。
珍しく仕事の連絡も入らず、時計の針だけが進んでいく。何かをしなければと思いながら、結局思いついたのは、街の図書館に行くことだった。
普段、図書館を利用することはほとんどない。静かすぎる場所は、少し落ち着かない。それでも今日は、誰にも急かされず、時間をやり過ごせる場所が必要だった。
昼過ぎ、久しぶりに訪れた図書館は、外観こそ記憶と変わらなかったが、中に入った瞬間、微妙な違和感を覚えた。
――静かすぎる。
空調の音と、遠くで紙が擦れる気配だけがある。入口正面のカウンターに目を向けて、足が止まった。
受付に、人がいない。
代わりに置かれているのは、大きなディスプレイと無機質な操作端末だった。〈ご利用の方はこちら〉という文字が淡々と表示されている。
周囲を見渡すと、利用者たちは迷いなく端末にカードをかざし、本を手にして通り過ぎていく。誰一人、受付を気に留めていない。この街では、これが当たり前なのだろう。
時代が変わっただけだ。そう自分に言い聞かせ、主人公は館内へ足を踏み入れた。
読みたい本は決まっていた。だが、検索端末はどれも使用中で、空く気配がない。立ち尽くしていると、不意に背後から声をかけられた。
「何か、お探しですか?」
振り返ると、知らない女性が立っていた。三十代くらいだろうか。図書館の職員のようにも見えるが、名札はつけていない。
「本の場所が分からなくて」
そう答えると、女性は少しだけ微笑んだ。
「どんな本ですか?」
タイトルを告げると、女性は迷うことなく歩き出した。その足取りがあまりに自然で、主人公は半歩遅れて後を追う。
書架の間を進むあいだ、女性はほとんど何も話さない。ただ、棚番号を一瞥し、曲がり角ではさりげなく速度を落とす。その様子を見て、ふと疑問が浮かんだ。
「……この図書館で、働いている方ですか?」
一瞬、女性の歩みが止まった気がした。だがすぐに、首を横に振る。
「いいえ。たまに来るだけです。ボランティアみたいなものですね」
その言い方が、なぜか胸に引っかかった。
目的の本はすぐに見つかった。女性は棚から一冊を抜き取り、差し出す。
「これです」
「ありがとうございます」
礼を言うと、女性は軽く会釈をして、そのまま別の書架へと離れていった。
本を手にしたまま、その背中を見送る。
たまに来るだけの人が、なぜここまで詳しいのだろう。
ふと、視界の端に「郷土史」と書かれた棚が目に入った。きちんと揃えられた本の列の中で、一冊だけが不自然に斜めになっている。
なぜか、それが妙に気になった。
読みたい本を抱えたまま、郷土史の棚へと足を向ける。
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