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第5章 ランドバルク王国王女イグレーヌ

イグレーヌ20

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「では、わしの魔道具や薬品を積み込んでおいた。
 役立ててくれ」
「お前たちに合わせた武器だ。
 たぶん、役にたつだろう。もってけ」
 ブラックウッドさんとホルスさんが旅立つわたしたちにプレゼントをしてくれる。

「これも持って行ってください」
 グリフレッドさんが重い革袋をくれる。
 これは金貨だ。それもかなりの金額。

「足りなければ、いつでも言ってください。
 それからアッシュくんにも手紙を出しておきました。
 ミリアちゃんといっしょに駆けつけてくれるでしょう」

「彼らは関係ありません。
 わたしたちだけで…」

「違います。イグレーヌさんたちはドラの町の仲間です。
 だから、わたしたちは全力でバックアップします」

「ありがとうございます」
 
 町の門には、子供たちも集まっている。

「俺たちも戦うんだけどな」
「力を試す機会なんだけどな」
 子供たちは自分たちも連れていけという。
 ランスロットとブラックウッドさんに鍛えられた子供たちは、下手な兵士より役にたつだろう。
 しかし、これは私たち自身の戦いだ。
 子供たちを巻き込むわけにはいかない。

 わたしたちはみんなに別れ。
 いや、違う。
 わたしたちは悪魔を倒してまた会うんだ。

「行ってきます。
 すぐに戻ってきます」
 わたしはみんなに向かって笑顔で叫ぶ。

「またね!」
 みんなはそれにこう返してくれる。
 これがドラの町だ。

 これで、心置きなく行ける。
 いや、ひとつ心の残りがある。
 それは、最後にドラちゃんに会えなかったこと。
 今朝からどこを探してもいないんだ。
 もともと、神出鬼没な猫なんだけど、一日に一度は顔を見せてくれていた。
 それなのに、今日だけは。
 みんなに聞いたけど、みんな見なかったって言う。
 ドラちゃんに限って何かあったって考えにくい。
 たぶん、これもわたしたちに対するメッセージなのかも。
 猫って案外深いこと考えてそうだしね。
 またドラちゃんに会いに帰ってくればいいだけの話だ。
 わたしたちはみんなに手を振って馬車を動かす。

「にゃん」
 どこかでドラちゃんの声が聞こえたような気がした。
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