無題

隅の闇

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それは突然に

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睡眠時に見る夢は自分の記憶、経験から作られる物と言われているけれど…
その夢はどれだけ考えても経験にも記憶にも無いもので
それでいて余りにも生々しく、凄惨な光景だった。
木造家屋だったと思われる焼け跡、赤黒い水溜まりに横たわる人だった物…
戦争に巻き込まれたファンタジー世界の村といったところだろうか。
今にも焼けた匂いがしてきそうな程リアルに感じる。
そんな焼けた村の外れでその人は泣いていた…
青緑色の髪をした綺麗な少女だった。
俺はその人に声を掛けようとして…その夢から目覚めた。

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「……今の夢は何だったんだ?」
不思議な夢を見たせいだろうか、目覚ましのアラームが鳴る前に起きてしまった。
「無駄にリアルな夢だったな…気分ワリぃ…」
とりあえず気分を変える為にもと布団から起き浴室にむかった。

そんな俺は「苗木 育斗(ナエギ イクト)」絶賛就活中の一般男性、漫画やアニメのモブキャラの様に面白みのない人生を生きる者だ。
高校を卒業し大学進学に失敗、就職を目指して足掻いてはいるが今のところ採用されそうな手応えは無い…
「今日も面接かぁ…いい加減雇用されないと…」
そんな事をボヤきつつ顔を洗う。

今は実家から離れて一人暮らしをしているが家賃も食費も仕送りに頼っている状態なのである。
それ故にいい加減就職しなければ実家に帰らねばならず、今の自由気ままな生活ができなくなってしまうのである。

(帰ったら確実に親父にネチネチ言われるしなぁ…)
歯を磨きつつ親父に嫌味を言われる想像をする。
地獄のような光景だ…
俺には出来の良い弟がいるわけだが昔からなんでも比較されてきた。
実際アイツは凄いやつだ俺なんかが近くに居ては邪魔になってしまうかもしれない。
「優秀な弟の邪魔になる兄にだけはなりたくないからな…今度こそ就活成功させて一人暮らし継続すんぞ!!」
そう意気込み 顔をバチッ!っと叩き気合を入れて朝食を作りに向かった。

目玉焼きとソーセージ、カットトマトにレンジで温めたレトルトご飯…いつもの作り慣れた朝食だ。
1人寂しくモソモソと食べながら朝の通勤や通学で生じる喧騒を楽しむ。
我ながら爺さんみたいな変な趣味だなと思う。
進学と就職に失敗したからこその楽しみとも言えるものだが…就職できればこの変な趣味ともおさらばかもしれない。
新しく見つけた就活先の面接はお昼からでまだ時間には余裕がある。
「掃除でもして早めに面接場所に向かえばいいかぁ」
食器を片付け掃除をする事にした。
広い部屋ではないし細かく掃除したところでそんなに時間は掛からないだろうと思う。

そんなダメ男特有のガバガバな時間計算での行動で予定通りに事が運ぶわけもなく…
掃除をしたら思いのほか ココも、あそこもと掃除したくなり気づけば面接予定時間に間に合うギリギリの時間に家を出るはめに。
「やっちまったぁぁぁぁぁぁ!」
と叫びながら全力疾走で近所の人達からアブナイ者を見る目で見られつつ面接場所へ向かった。

なんとか目的の面接場所まで残り半分の地点まで到達。
運動部に所属していたわけでもなく一般平均よりやや低めな位の体力でよく走ったと思う。
近くにあった道路標識にもたれ掛かり息を整える。
「ゴプぇ……き、きつい…しかしこれならなんとか間に合う…!!」
皆さん多少察しているだろうが…
何故電車やバス、自転車を使わないのかと言うと…
金が!無いのである!!
そう!金が無い!!
なんでかって?
もちろん仕送りに交通費も入れてもらっている…
なのに何故金が無いか!
そう!交通費を削って浮いた金で色々趣味嗜好品を買っていたのである!!

俺はコレといった定まった趣味がない。
だがその代わり広く浅く色々な物に手を出してきた。
手芸だったり運動だったりと色々やった全部長続きしなかったが…
何かを始める時まず格好から入るのが俺だ。
故に趣味嗜好品に金が相当掛かる。
しかし現状仕送りに依存してるわけで…その中で削っても大丈夫と思われる所を削って資金を作っていた訳だ。
傍から見れば屑である!
そんなこんなで金が無いのだ。

「自業自得とは言え…マジで移動しんどいな……」
そんな訳で徒歩で面接に向かう俺。
車通りの多い通りに出た。
「ここまで来ればあと少しだなぁ。」
そんな事を呟きながら進んでいると後方から けたたましい音がなった。
それがブレーキ音だったと気づいたのは後方を振り返った時。
振り返ってまず見えたのは交差点に侵入する黒い乗用車、そしてブレーキ音の発生源のトラック。
まさにぶつかる寸前!そんな光景だった。

振り返り見た光景、次の瞬間ドガシャァァァ!と凄いクラッシュ音を響かせぶつかる乗用車とトラック。
ここまでなら「事故現場に遭遇した!やべぇ!」と思うだけだったろうに 予想外な事は起こるもので…
ぶつかった乗用車とトラックの破損したパーツがまさか自分に向かって飛んでくるとは思わない訳で…
そこで俺の視界はブラックアウトした。

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死んだー…
確実に死んだー…
視界消えてますやん。
なんか飛んできてましたやん。
俺…何かしましたっけ神様…
いやまぁろくにバイトもせず仕送りで遊んでましたけど…
死ぬほどですか…?

なんて色々思った訳だが…
おかしい、何故思考できている?
漫画やアニメ、ファンタジーのように魂があって考える事だけはできるって事か?
それにしては身体の感覚がある気がする。
手を握れてる感覚がある、脚を動かす感覚もある。
「死んで…ない?」
声が出た!
どうやら死んでない様だが視界が無い。
真っ暗な空間にいるのか失明しているのか。
「生きているならまだ舞える!神様ありがとう!!」
なんて心にもない神への感謝を口にしてみる。

「いやいや感謝は入らんよ~」
どこからともなく声が響いてきた…!
「ちょっとやって欲しいことがあって拐っただけだから~」
子供とも大人とも判別のつきにくい声で物騒な事を言われた。
拐ったと…
「拐った!?どゆこと!?てかアンタ誰!?ここ何処よ!暗いんだけど!?」
軽くパニックである。
いやパニクるでしょ普通。
拐ったとか言われてんですよ?
こんな一般人拐って何になるのさ!
「まぁ落ち着きなって。
別に危害を加える気はないよ」
そんな事言われてもね!
「落ち着ける訳ないじゃん!?アンタの姿すら見えてないし自分の状態も分からないんだぞ!?」
「うるさいなぁ…別に身体に損傷は無いってば、姿はちょっと待ってよ今ボディ作ってるから」
ボディを…作る…?
「ボディを作るってどういう…」
どういう事かと聞こうとしたが言葉は途中で止まってしまった。
何故か?
それは急に目の前に美少年とも美少女とも見える綺麗な子が全裸で現れたからだ…!
体格は小柄、茶髪のショートカットで翠の瞳が印象的だ。
「即席で作ってみたんだけど、このボディどう?」
なんて言われたが…
「服を着ろぉぉぉ!」
という言葉しか出なかった。
当たり前だろうが!
こちとら健全?な男だぞ!
目のやり場に困るわ!!
「なんだよ~君の好みに合わせて作ったんだぞぉ…喜べよぉ…」
不貞腐れた様に文句を言う謎の少年?少女?はどこからか白のワンピースの様な服を取り出し着始めた。

しかし不思議だ…
この謎の少年?少女?はハッキリと見えているのに周りは真っ暗闇だ。
夢なんだろうか?
そんな事を考えてると謎の子が服を着終えた様だ。
「これで問題ないだろ?」
そう問い掛けてきた。
あまりにもドストライクか見た目してやがる…
「お、おぉ…OKだ…」
正直状況を忘れて見惚れそうだ。
「よし、じゃあ色々と説明した方がいい事だらけなんだけど…イクト君には異世界転移してもらいます!拍手!」
ゎ~~と目の前で拍手する謎の子、状況が分からず呆ける俺!
何がなんだか状況が分からないままに流されていく…そんな予感がしてくるのだった。
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