無題

隅の闇

文字の大きさ
上 下
4 / 5

その頃神達は…

しおりを挟む
ミィムがイクトと集落に向かっている頃。
イクトを襲撃しようとした少女は小さな山の近くの森で倒れていた。

「体力……落ち過ぎ……!」

ミィム達から離れ、少し休み、かなり体力を回復したと判断し特殊な力を使い急いで移動したが…実際はそこまで体力回復しておらず力尽きたのである。

「まさか家の直前で倒れるなんて……」

若干涙目になりつつズリズリと這いずって前進する。

「なんで自分の家に帰るのにこんな苦労を…!」

等と言いつつ進み何とか茂みを抜けるとひらけた場所に出た。
少女の家に通じる道である。

「やっ…と道に…」

息も絶え絶えながらなんとか道に辿り着いた少女は地面に突っ伏した。

「あらあら…こんな所で寝たら襲われちゃうわよ姉さん?」

突っ伏した少女を姉さんと呼ぶ女性の声。
少女が顔を上げると道に それこそ女神と呼ぶに相応しい金髪の美しい女性がいた。

「シエル…?なんでここに…?」

シエルと呼ばれた美しい女性は倒れてる少女を抱き起こしながら少女の疑問に答えた。

「なんでって…私の新作の服を着てくれる約束してたじゃないの姉さん。
だから姉さんの家で待ってたのに中々帰ってこないから迎えに来たの」

ヨイショっと言いながら少女をお姫様抱っこで抱えるシエル。
細腕に見えるのに結構力があるようだ。

「ごめん…色々あって忘れてた…」

「いいのよ姉さん。
ミィムの気配もあったし面倒事でしょう?
それより早く帰りましょ。
服も顔も土で汚れちゃってるわよ?」

少女を抱えたまま歩きだすシエル。
数分程歩くと道の先に木造の家が見えてきた。
周りは森で一軒しか家がないのでこれが少女の家だろう。

「姉さん着いたわよ。
歩ける?」

「ごめん…家の中までお願い…」

「謝らなくていいわ。
とりあえず寝室でいい?」

「寝室はちょっと……。
シエルと寝室は危険過ぎる…」

「危険って何よ~!
ちょ~~~っとだけ夜通し愛でるだけじゃない!!」

ちょっと危険な会話なのである。

「いや…それが危険なんですけど…。
とりあえずリビングに置いてくれたら後は一人でやるから」

「はいはい。
それより姉さん、最近他の子に会いに行ってる?
少し前にエイラが会いに来てくれない…って泣いてたわよ?」

シエルが家のドアに近づくと手も触れていないのにドアが開いた。
そのまま気にした様子もなく家に入る。

「うっ………。
会いに行って無い…。
ちょっと身体の調子が悪かったっていうか…その……」

「どうせまたライブラリに籠もってたんでしょ?
姉さん今度は何作ったの?」

ヨイショと少女をリビングのソファに座らせるシエル。
室内は綺麗に整っている。
しかし生活感がイマイチ感じられない。

「その~…海を任せてる子達がもう少し外洋で漁がしたいって言うから人力の大型漁船を…」

「おバカ!!
転生直後の身体でそんな大仕事したら体力も落ちるわよ!!」

シエルに怒られ「ごめんなさい~~…」と泣く少女。

「それにしても姉さん。
よくそんな事してミー達に止められなかったわね?
下手したらまた崩壊が進むでしょうに……」

「えっと…ミーにはヒューマンの集落を視察してもらってて…。
他の子はそれぞれエルフと獣人族の方に行ってもらってる。
だから今は一人!邪魔が居ないからちょっと無理できる!!」

ふふん!と得意げにしてみせる少女。
「無理しちゃダメでしょ!」とシエルにすぐさま怒られシュン…とする。

「ハァ…。
駄目だこの姉…いっそ私の家で保護するか…?」

めちゃくちゃ真剣な顔で保護とか言っているがこの美人…ただこの少女をめちゃくちゃ愛でたいだけなのである。

「まぁそれはそれとして。
姉さん、言動が身体に引っ張られてるわよ。
いつもみたいに言ってみて"オッサンを着飾って楽しいのか?"って」

「……すまんシエル。
それはそれとして中身オッサンと知ってて可愛い系の服着せるの相当ヤバいと思うぞおじさんは」

今まで普通に喋っていた少女の話し方が変わった。

「今更じゃない?エリアス姉さん。
身体は完全に女の子なんだし中身が元オッサンでも問題無しよ!!
むしろそのオッサンを完全に女の子に目覚めさせたいって気になるわ!!!」

少女の名はエリアス。
身体は女の子、精神はオッサンと主張する神の友である。

「うへぇ…。
シエルのそういう所がイマイチ理解できんのよねおじさん。
それより新作の服だっけ?
どうせ着替えなきゃいけないし今着てみようか?」

「そうねぇ…。
着てほしくはあるけどミィムが降りてきた事の方が気になるわ。
何があったの?」

そう聞きながらエリアスの対面の椅子に座るシエル。
艶めかしいとでも言うのか雰囲気のある所作である。
残念な性格を知っていなければ魅了される男が多そうだ。

「特殊事案が発生したって所かな。
この世界の時空を歪ませて転移者が来た。」

「あ~。
あの変な感じは時空の歪みだったのね。
私のテリトリーじゃないし気付けなかったわ」

「まぁここでは力の制限もあるし仕方ないさ。
で、時空が歪むとか異常だぞ!?って思って様子を見に行ったらミィムが降りてきたって感じ」

「………姉さんなんか端折ってない?」

「何が?何も端折ってないよ?」

怪しむシエル、めちゃくちゃ露骨に何か隠してますって態度のエリアス。

「絶対端折ってる!顔にそう書いてる!!
そもそも姉さんが自分のテリトリーの異常を放置して帰宅するはずが無い!
我が子みたいにテリトリー内の子を愛してる姉さんが!
さっさと白状なさい!」

若干怒り気味に問い詰めるシエル。
たじろぎ、諦めたようにため息をしてエリアスは答えた。

「実は…転移者を殺そうとしてミィムに邪魔された。
なんかミィムのお客さんって言ってたね。
テリトリーで悪さするならミィムが処理するとか言ってたから帰ってきた感じ…。
歪みまで急いで移動したから割りと限界で…ミィムと喧嘩する余裕もなく引き下がったわけ……」

「……ミィムのお客ってのが気になるけどアレが処理を約束したなら問題無い…かな?
それより姉さんの事よ。」

「おじさんの事?
何も問題無いけど?」

軽く説明を終えてシエルがちょっと考えてる間にソファでグデ~となってたエリアス。
唐突に自分の事と言われ目を丸くしている。

「転生直後で大仕事して体力落ちてるって言ったって移動と隠密、初級の魔法でミィムと喧嘩する余裕が無くなるって…。
姉さん……ボディの転生に失敗したんじゃないの?
言いたくないけど…それ"あの事件"の後の状態とほぼ同じよ…?」

あの事件 と言われた途端にエリアスの顔が曇る。

「姉さん…今回の身体の転生までの50年大人しく家に居た方が良いわ。
大規模なクラフトもダメ。
今回は本当に無理できない状態よそれ。
無理すればせっかく治りかけてきた崩壊がまた再発しちゃう」

真剣な顔でシエルは警告をする。
エリアスは俯き表情を見せないようにしている。

「でも…私が作らないと皆の生活が……」

先程までおじさんと言っていたのに一人称が私になっている。
また身体に言動が寄っているのだろうか?

「姉さんは十分このテリトリーの子達の世話をしてきたじゃないの。
姉さんが手を出さなくても生きていけるだけの環境もある、無理しなくていいのよ」

そう言うとシエルは立ち上がりエリアスの隣に座り抱き寄せた。

「姉さんはテリトリーの子達を愛し過ぎる、優し過ぎる…。
私達はあの子達と生きる時間が違い過ぎるから…割り切らないと姉さんが壊れちゃう…。
私は姉さんに壊れてほしくないよ…」

「でも…やくそく…まもるっで…」

シエルに抱かれたまま顔を見せず泣くエリアス。
肉体年齢以上に幼児退行が進んでいる様にみえる。

「姉さんが壊れたら"あの子"が悲しむし約束も守れなくなる…。
せめて今日だけは何も考えずに休んで…」

そう言うとシエルはエリアスに向かってフッと息をかけた。
息をかけられたエリアスは「ぁ…まだ…」と言うと糸が切れた人形の様に脱力しそのまま眠ってしまった。

「姉さん…、ヒューマン相手に使う低級の睡眠スキルで抵抗もなく…。
やっぱり転生失敗としか思えない。
ミィムの馬鹿と早急に話し合わないと駄目そうね」

眠ったエリアスをソファに寝かせ指で涙を拭いながら「あのストーカーどうやって捕まえようか…」なんて考えるシエルなのだった。

---------------------------------------------

時は少し進み夕暮れ時。
眠ったエリアスに毛布代わりに持参した服を掛け、対面の椅子に座り何やら本に絵を真剣に描き込んでいるシエル。

「……遅いわね。
異常を察知してるならもう帰ってくる頃のはずだけど…。」

と呟くと絵を描く手を止め立ち上がり、窓から家に続く道の様子を伺った。
すると道の先から土煙が迫ってくるのが見て取れた。

「また埃にまみれる走り方して…」

ハァ…とため息をつきシエルは外に出て土煙の主を出迎える事にした。

外に出るとドドドドドド!とスゴイ音を立てて土煙が迫って来ていた。

「まったく…もう少し静かに帰ってきなさい!」

そう言うとシエルは土煙の方に向け手を突き出した。
するとシエルが突き出した手の方向に強い風が吹き土煙の主を制止した。
かなり強い風なのにシエルの後方、家にはまったく風が行っていない。
シエルの腕を中心に風が発生してる様だ。

「ぶわわわわ!ななな何するるるにににニャ、シエル様あああ!」

と土煙の主、ミーが抗議する。
今にも飛ばされそうである。

「静かにしなさいアホ猫。
アンタの御主人が寝てるのよ」

そう言うとシエルは腕を下げ風を止めた。
風と睡眠がシエルのスキルなのだろうか?

「ふぅ…寝てるとは思わなかったんニャ。
止めてくれてありがとうですニャ、シエル様」

額の汗を拭う仕草をしつつ、ミーは御礼を言った。
内心(もっと優しい止め方あったと思うけどニャ…)なんて思ってはいたが言わなかった。

「それよりシエル様?
なんでこんな時間までウチに居るニャ?
いつもは夕暮れ前に帰るのに…」

ミーの疑問、主人が転移者に付き添ってなかった事も含め少し嫌な予感がしている。

「私の事はいいのよ。
それよりミー、アナタ…姉さんの身体の転生時に付き添ってたりしてないの?」

「???
いや、付き添ってないニャ。
いつも通りに御主人が一人でライブラリの奥に行って、ストーカー神が用意したモノで転生したはずニャ。
その間に家の掃除したりして…」

ミーがそう言うとハァ~~~…と長いため息をついたシエル。

「アンタ達何の為に姉さんの御付きしてんのよ…。
ミー、アンタ転生後の姉さんに何か変な所なかった?」

眉間にシワを寄せてミーは考える。

「変な所と言われても…。
前の転生より背が伸びるのが早い気がするニャ?
後は…おじさんって言わなくなったかニャ?」

「それだ……」

ミーが挙げた変な所に思い当たる節があるといった感じのシエル。

「ミー…アンタの御主人ね。
身体の転生失敗してるわよソレ。」

「ニャ!?」

驚愕するミー。
微塵も失敗するものとは思ってなかったのだろう。

「身体の成長が早いのはたぶん姉さんのせいかな…。
少しでも早くスキルを使うためにミィムの調整をイジって改造したんでしょ。
おじさんって言わなくなったのは改造の弊害かな。
身体に精神が引っ張られてるのね…」

「な、なんでそんニャ…」

「姉さんがこんな事する理由なんて決まってるでしょ!
この小さいテリトリーに居る子供達のため…それ以外ないでしょ…」

シエルは苛立ちを見せ爪を噛み、ミーは信じられないといった顔をしている。

「た、たしかに御主人はみんなに優しいけど身体を改造する程なんて…」

「ミー、改造にショックを受けてる場合じゃないわよ。
姉さんたぶん崩壊が再発しかけてる。
身体の成長につり合わない低体力と低過ぎる魔法抵抗…。
これって崩壊を止めるために今の身体のオリジナルを創った時と同じ状態よ。
早くあのストーカーを捕まえて無理にでも再調整しないと……」

ギリッと歯が鳴るほどシエルは歯を食いしばった。
シエルには再調整とやらができないのだろう。

(でもおかしい…。
いくら姉さんが保護してる子達を愛してるって言ってもこんな自滅的な改造をしてまで子に尽くすとは思えない…。
まさか……)

考え込むシエル、その時ミーは「あっ!」と声を上げた。

「忘れてたニャ!
シエル様!
ストーカー神が明日ここ!この場所に来るニャ!!
なんか御主人に重要な話があるって!!」

「此処に?アイツが?」

マジ?といった顔でミーを見るシエル。

「マジニャ!昼に来るって!」

「昼か…。
飛んで行った方角は分かる?
方角が分かれば私が捕まえて来るわ。
昼まで待ってられないしね」

「たしか…かなり上まで上がって南に飛んでったと思ったけど…。
正直自信ないニャ…。
視えるギリギリの高さだったから……」

南の方を指差しながらミーは答えた。
自信がないからなのか耳がペショ…と倒れてる。

「何となくでも視えてれば上等よ。
南ね。
……なら浮遊城〈ふゆうじょう〉に帰ったのね。
今からなら朝には戻れるかしら?」

暗くなりつつある空を見つめた後シエルはミーに向かって指を差し言った。

「とりあえず行ってくるから姉さんの事頼んだわよ。
姉さん顔と服が汚れてるから起こさないように拭いて着替えさせてベッドに運びなさい。
絶対に起こすんじゃないわよ!絶対に!!」

「了解ですニャ!!」

ミーはシエルの指示に敬礼の様なポーズで答えた。
それを見てシエルは頷き、軽く地を蹴り風を纏って宙に浮き飛んで行ってしまった。

「……今日は色々起き過ぎニャ」

シエルが飛んで行くのを見送ったミーはどうしたらいいのか…といった顔でため息をつき頭を掻いた。

「とりあえず御主人を運んで着替えかニャ…。
一緒にいたのに崩壊の悪化に気づかないとは不覚ニャ…」

自分の不甲斐無さに落ち込みつつ、ミーは家に入るのだった。

---------------------------------------------

「なんだいありゃ……ボクが頼んでたのはあんなイレギュラーじゃないぞ…!」

ミィムはイクトと別れた後自分の家とも言える空中に浮かぶ城のような建物へと帰っていた。
城の中央、王が座ってそうな玉座が設置されている広間に苛立ちながらズカズカと入り、玉座に勢いよく座った。

「だいたい317って何だ…!
ボクが助けを求められるのは同じ316シリーズしかいないぞ!
いったい何がどうなってるんだ……」

天井を見上げ、どうすべきかと考える。

(何者かは知らないけど世界に干渉してるならボク達の様な構成エネルギーに関与できる存在か。
あのイレギュラーを送ってきたって事は少なくともこの世界の事は知ってるワケだ。
そしてボクに対して知らない型式番号でよろしくと…。
これは試されてる気がするな)

天井を見上げるのを止めハァ…と息を吐く。

「考えるよりとりあえずコンタクトするか。
害意ある者でも味方でも話をしないと何も始まらないし」

そう言うとミィムは静かに目を閉じた。

「コンタクト先は転移の残滓から解っている。
イレギュラーを送ってきた理由を聞かせてもらおうか!」

そう言うとミィムは眠った様に動かなくなってしまった。
肉体を離れ、エネルギー体の様なモノとなり世界の枠を越え、世界を構成するエネルギーの本流へと向かったのである。

エネルギーの本流は記録データの様なモノで様々な世界の様子が見て取れた。
本来形のないモノだがミィムが「これは本の様なモノだ」と定義づけすることで世界ごとにPCのウィンドウ画面の様に視認する事ができている。
その中からミィムはとある星をメインとした記録へと向かった。
その星とはイクトの居た地球である。

「まさか送り主も地球にいるとはね。
誘っているのか雑に送ったのか、何にせよ痕跡が残ってるねぇ」

その記録からは微かに靄の様な流れが出ていた。
ミィムが記録に触れると視界が暗転し真っ暗な世界になってしまった。

「世界の隙間に自分用の空間を用意してるとはスゴイじゃないか317!
これはボクですらできなかったぜ?
何者だキミは?」

ミィムは特に驚いたように見せるでもなく暗い空間に響くように喋った。
すると「フフッ」と何処からともなく声が聞こえてきた。

「ヤーヤーはじめましてミィム。
話すのも姿を見せ合うのも本当に初めてだ。
嬉しいね、こうして同じ様な存在に会えるのは」

何もない暗い空間から白いワンピースを着た美少年とも美少女とも見える姿の子供が現れた。
声の感じは少女寄りではある。

「ふ~~ん?
キミの身体カッコイイじゃん…。
いいなぁ、そういうボディを想像できる子を見つけられて」

謎の子供はミィムをジロジロと眺めて「いいなぁいいなぁ」と言っている。
ミィムはやれやれ…といった感じで話し始めた。

「ボディの事なら自分で解決できるだろうに。
ボクより上手くエネルギー干渉できる様だし成長させたり整形したり色々やれるだろう?
それこそキミが送ってきたイレギュラー、イクトの妄想からサンプルは幾らでも出せるだろ」

「え、それ無理。
結構解析したんだけどさぁ…。
イクトくん、小さい子の妄想が多くてマジでサンプル少ないんだもん」

イクト、知らぬ間にロリコンショタコン疑惑をバラされる。

「……まぁそれはいいや」

自分の世界に若干ヤバイ奴放置してきたかも知れないなんて思いながらミィムは話を進めた。

「それで?
なんであんなイレギュラーを送ってきた?
そもそも何故同シリーズにしかヘルプコールしてないのにボクの存在を知っている?」

ミィムはイクトを送ってきた理由と自分の存在を何故知っているのか質問をした。
本来、世界を観察し続けている存在と言えどもエネルギーの本流は観測できない。
余程のイレギュラー、上位存在への進化等が無ければ分からないのである。
そうミィムは認識していた。

「そうだね~。
じゃあキミを知ってた理由から。
イクトくんを送る際に317を名乗った訳だけど、実際は317なんて型番じゃあ無い。
ボクはキミ達、観察機器を管理する存在の内の一機だ。
正式な型番は長すぎるから名乗るのはやめとこう。
キミを地球の観察から外した後、その任を引き継いだキミの同シリーズ機にメッセージが来てるのを見つけてね…それで知った訳。」

「ボク達にリーダー格が居るのは分かっていたがキミだったのか…」

ミィムは驚きが隠せなかった。
自分より上位のモノが居るのは分かっていたが不具合の様に発生する自我の獲得を上のモノまで発生させているとは思わなかったのである。

「まぁ、キミ達末端に自我が発生するのに更に高密度の情報を管理するボク達が自我を獲得しない訳がないよねぇ。
キミが世界を作る前には既に獲得してたよ」

胡座をかいてふよふよと宙に浮く317。
実際は地面も何も無い空間なので常に宙に浮いてる様なものだが。

「しかし参ったな…同シリーズ専用のメッセージなら現役のヤツに送ってもリーダー格にはバレないし面倒に巻き込まないで済むと思ったんだが…。
めちゃくちゃバレてるじゃないか…。」

ミィムは頭を掻いた。
自分のせいで関係無いモノまで巻き込んでしまっているかも知れないとなると自分の浅慮が恨めしくなる。

「まぁまぁ、現状ボクにしかバレてないし大丈夫だって。
元気出しなよミィム」

317はミィムに近づくと頭をポンポンと叩いた。

「いやいや…キミにバレた時点でダメでしょ。
他の上位格にバレるのも時間の問題だろうに」

「だから大丈夫だってば。
"この"地球の担当はボクだけだから。
余程の異常事態にならない限りは此処に他の奴らが来る事は無いって」

317は大丈夫だと言ったが気になることも言っていた。

「……"この"地球ってどういう意味だい?
他にも地球があるってのかい?」

「あぁ、あるね。
そもそもキミが世界を作れてるんだよ?
他に無いって考える方がオカシイだろ?
地球をメインとした世界が作られてても不思議はないさ」

ミィムは苦虫を噛み潰したような顔をした。
今まで地球とは違う星をメインとした世界しか見てこなかったので、他に地球があるという考えをしてこなかったのである。
この地球だけが異常で、ここだけを観察していたと思っていたのだ。

「なんてこった…。
余りにも考え無しで想像力皆無だボクは…」

ミィムは顔を手で覆い上を見上げた。
黒い空間なのでどこを向いても変わりはないが…。

「仕方ないんじゃな~い?
キミはまだ人を学んでるところ何だろ?
そもそもボクら人じゃないし。
人をマネてるだけ。
人と同じ様に想像力を培うにはまだまだ時間と学びが足りないって事さ」

寝そべるようなポーズで317はミィムの前をふよふよと移動している。

「ハァ……それで?
イレギュラーを送ってきた理由は?
なんだいアレ…"世界を構成するエネルギーを壊す"力って。
危ないにも程がある。
下手したらボクらの世界が崩壊してしまう。」

ミィムは真剣な顔で317に向き合った。

「おや?
キミはイクトくんにブラックボックスになってて見れないって言ってなかったかい?
嘘をつくとは悪い子だな~」

ヘラヘラと笑いながら317はミィムを指差し茶化した。

「あんな危険なスキルを自覚させて発動されたら大問題だし、あそこはボクの最も大切な友の土地だ。
破壊されるわけにはいかない。
それでなくともあの地にはこれまで創り上げたモノ達のサンプルを保存してある、せめてサンプルの移動が終わるまでは絶対にスキルを使わせない!」

真剣に話すミィムを見て317は茶化すのをやめた。

「悪いね。
そこまで大事にしてるとは思ってなくてね…。
世界を壊すなんて面白い力だ。
地球に居てはどうせ力なんて使えないし、キミの所と縁ができてたから送ってどんな人生を送るか観てみたかったんだ」

「道楽で送ってきたのかあんな危険物を!?
今すぐ回収してくれ!」

「それはできないね。
こちらに戻す際に次元が歪んだら他の所の観察者が面白い事例と思い飛んでくる。
キミ達の事がバレる。
バレると今以上に面倒だよ?
キミからヘルプコールを貰ったモノは排除されたりするだろうなぁ」

軽く言っているが317の目が笑っていない。

「………脅しかい?」

「事実さ」

チッとミィムは舌打ちをして答えた。

「しょうがない、あれは預かろう。
ただし条件がある」

「条件?」

317は「はて?」と考えるポーズをしてみせた。

「条件はボクがヘルプコールに書いた依頼通りだ。
ボクの友、エリアスの崩壊を止める為の方法、もしくは補強する為のある程度適正のある人物データの提供だ」

「人物データって…魂を送れって事かい?」

「その通りさ。
もうボクでは誰かを犠牲にしなければ崩壊を止められない…。
どうせエネルギーとして消えていく魂だ、その前に使っても問題無い。
エリアスには怒られそうだがね…」

ハハ…と悲しげに笑ってみせるミィム。

「ずいぶんと気に入ってるんだねぇその子。
しかし崩壊を止める方法…ね。
ぶっちゃけ知らないなぁ。
そもそも何であんな事になってるの?
エネルギーに還ることもなく崩れた部分が消えてるじゃんアレ」

「色々あってね…。
エリアスは何故かボクも知らない物を創り出し、その効果に巻き込まれた結果ああなった。
作った物を調べて対策を考えようとしたけど…その道具も崩壊してしまって調べられなかった」

「何それ。
ご都合展開のアニメか何かかい?」

「なんとでも言ってくれ。
事実は変わらない。
今もエリアスの"魂"は崩壊寸前だ。
なるべく早く治してあげたい」

317は腕を組み「う~~ん……」と唸るとこう告げた。

「とりあえずこれ以上壊したくないなら…その魂を入れてる器をイジったらいいよ。
成長みたいな人間に寄せた機能を停めな。
そうすれば現状維持は可能だろうさ。
あと警告ね、聞かないだろうけど。
魂で魂を補うのはリスクが高すぎる…やめといた方がいいよ」

「………機能制限か。
したくはなかったが…やむを得ないか…。
警告については…聞かなかった事にする。
ボクには選べる手段が他にないんだ」

真剣な顔で言葉を返すミィムに317は「そうかい…」と言うだけだった。

「さて、ミィム。
話はそろそろ終わりみたいだ」

317がそう言うと何処かの映像が映し出されたウィンドウが現れた。
映像には玉座に座り眠った様になっているミィムが見える。

「これは…ボクの家だね?317」

「そう、キミの家。
定期的にこんな感じでキミの世界を覗かせてもらってるのさ。」

「覗き魔め…」

ジト目で317を見るミィム。

「ストーカーのキミに言われたくないなぁ?
まぁそれはいい。
それよりキミの家にお客さんだ。
そろそろ帰った方がいい」

そう言って映像を指差す317。
映像には確かにミィムの他に人影が映し出されていた。

「確かに来客だね…。
仕方ない、ボクは帰るよ。
覗き見できるんだから世界を超えて会話もできるんだろう?
何かあったら連絡してくれ」

ミィムは映像で来客を確認すると317に背を向け帰ろうとした。

「ちょっと待ってくれよミィム。」

呼び止められミィムはめんどくさそうに振り返った。

「なんだい?
客がいるから急いでるんだが?」

「そんなめんどくさそうにしないでくれよ。
大丈夫時間は掛からない。
ただボクの呼び名を付けて欲しい、それだけさ。
数字で呼ばれるのは味気無い」

「ボクに名付けを頼むとか正気かい?
ボクはまだ人間ほど発想力豊かじゃないんだぞ?」

名付けを拒否しようとするミィム。

「発想力が無くてもいいさ。
名前がある、それだけで嬉しいと思わないかい?」

そんな感じに317に言われては拒否しづらい。
ミィムとて元は名などなく数字で呼ばれてたのだから。

「気に入らなくても文句は言わないでくれよ?
ボクの名と同じ感じで…キミはミィナだ!」

「……割りと即決だったね。
ちゃんと考えてくれたぁ?」

不服そうなミィナ。
熟考せず決めた事が気に入らない様だ。

「文句言うなって言ったでしょうが。
ボクこれでも急いでるんだぜ?」

若干イラつきながらも返答するミィム。
正直さっさと帰りたいのだ。

「急いでるからって流石に……。
まぁいいや!今からボクはミィナって事で!!
じゃあ次からは名前で呼んでくれよミィム?」

「はいはい。
それじゃあねミィナ。
何か情報があったら報せてくれよ?」

疲れたと言わんばかりの態度で去ろうとするミィム。

「あぁ、報せるとも。
……面白い事になる可能があるならね。」

ミィナの最後の言葉がミィムの耳に入る事は無かった。

---------------------------------------------

ミィムの城、大広間にツカツカとヒールの音を響かせながら入ってくる人影が一つ。
その人影は玉座に眠った様に座るミィムの前で立ち止まり、ミィムを一瞥するとため息をついた。
ため息を聞いてか偶然か、ミィムが目を覚ました。

「………やぁやぁ、久しぶりだねシエル」

起きてすぐに目の前の人物を確認。
事前に分かっていたがミィナが出した映像が信用できなかったので目の前に本当にシエルが居るのか確認する必要があった。
結果、マジでシエルが居たので映像に偽りは無かった訳だが。

「挨拶はいいのよミィム。
それよりアンタ、姉さんの状態どうなってるのよ?
崩壊進んでるじゃない」

シエルは平静を装っているが怒っていると察せられる。
腕を組み、指を忙しなくトントンと動かしている。
エリアスの崩壊が進んでるのがバレてしまったらしい。
久しぶりの対面でこんなピリピリした雰囲気になるのは悲しいが自分で蒔いた種だ仕方ない。

「バレてしまったか…。
じゃあ隠してもしょうがない。
全て答えるさ、何でも聞いてくれ」

なんとか落ち着いてもらえないかと思い、両腕を広げ何も隠してませんよと戯けてみせる。
それが気に入らなかったのかシエルは更にイラついてしまった様子だ。

「じゃあ聞くけど。
姉さんのあの状態、今回の転生失敗だけが原因じゃあないでしょ?
………いつから崩壊再発してたの?」

全て話さねば殺すと言わんばかりに睨みつけてくるシエル。
まぁ死なないんだけどね、ボク。

「そうだねぇ…。
崩壊の再発は成長するボディを使ってからだね。
数百年に一回位の頻度でエリアスの望みで作ってたんだけど…。
成長するボディの時だけ何故か崩壊が再発していた。
理由は不明。
大きく成長した姿のボディ時も、小さい姿のボディの時も崩壊はしなかった。
人間と同じ様な機能をボディに付与した時だけ崩れているようだね。
何故こんな事になったやら…」

はぁ…とため息をつき目を閉じる。
本当に何故 人間と同じ機能を付けただけで違いが発生してしまうのかが解らない。

「それじゃあ何?
私達が気づかなかっただけで何度か崩壊が再発してたって事?
ありえないでしょ。
今回みたいな分かりやすい幼児退行だとかほとんど無かったのよ?」

シエルは眉をひそめながら返答を待った。
正直ミィムの言葉が信じきれてないのだ。
するとミィムはフフッと笑い。

「キミ達が偶に会いに来て少し話しただけでボクの友達がボロを出すとでも?
あの子はボクと出会うまで自分自身すら騙し続けて生きてきた嘘つきだぜ?」

そこまで言うとミィムは手で顔を覆った。

「キミ達に心配させない様に、もしくは折れそうな心を守る為に、無意識に何事もない頃のエリアスを演じてたんだろうさ。
仮面を被らなくていい世界を創ると約束したはずなんだけどなぁ…」

手で顔を覆っているので表情は見えないが泣いているように見えなくもない。
しかしシエルはまだ眉をひそめている。

「……仮に姉さんが心配させない様にしてたとして、何で今になってそれが出来なくなったわけ?
今回ほど酷くはないけど過去にも何回か似た様な状態を目撃してる。
本当にボロが出ただけ…?」

シエルの疑問、それを聞いてミィムは顔を覆うのをやめシエルと向き合った。

「過去に何回か目撃してるって言ったけど、それ転生直後じゃないかい?
転生直後は記憶が混濁する、そんな状態じゃ嘘もつけなくなるさ。
今回のは転生から少し時間が経過してる訳だが…これは状態が悪化して、幼児退行が進んで、自制が効かない感じになったんじゃないかなと思うね。
早めに処置しないとヤバイね……」

真剣な顔でシエルに告げる。
イクト襲撃を阻止してからエリアスを見守る事ができていない。
その後に悪化したのであれば痛恨の極みだ。

話を聞いている間もシエルはしかめっ面だった。
きっと対処法を知りながらソレを実行してこなかった事に怒っているのだろう。
しかし怒ってはいてもシエルは目的は忘れていない。
エリアスの崩壊を止めたい、だから今は怒りを抑え会話する。

「早めに処置しないとって言うなら今すぐ姉さんの所に行くわよ。
急げば夜明け前に到着するはず…」

「シエル、ナメてもらっちゃ困る。
夜明け前?
そんなには掛からないさ。
3分だ」

シエルの夜明け前着との考えをスッパリ否定し3分で到着すると告げる。
「何バカ言ってんのこの神…」なんて言われているがそこはそれ、世界を作った存在を過小評価し過ぎるのはどうかと思う。

「じゃあ行こうか。
朝までに終わらせて皆でご飯でも食べよう!」

言うが早いか玉座から立ち上がりシエルの手を取ると、宙に浮きそのまま飛んで大広間を出た。

「ちょっと!
一人で飛べるから離してよ!」

とシエルから抗議されても離さず。

「いいからいいから。
ぶっちゃけキミの飛ぶ速度に合わせたら遅すぎるから…このまま行こう!」

なんて言ってゴリ押した。
「バカにすんじゃないわよ!」とか言われつつ城の外に出てシエルを抱えると、目にも止まらぬ速さとしか言えない速度で夜空に向かって飛んでいった。

しおりを挟む

処理中です...