妻を寝取ったパーティーメンバーに刺殺された俺はもう死にたくない。〜二度目の俺。最悪から最高の人生へ〜

橋本 悠

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第1章

番外編 ケイト

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「バッド君。ちょっと入ってきてくれる」

 私はバッド君を呼んだ。きっと普段よりも暗い声になっていたと思う。

 恐る恐る入るバッド君。

「あ、あの!  け、ケイト、ち、違うんだ……」

「バッド君ってさ……私といる時……どんな風に思ってるの?」

 私は何も考えずに質問をしてしまった。
 本当の私を伝えるべきなのか。でも、もしこのことを伝えて嫌われたりしたら。

「ど、どんな風にって……?」

「私はね。バッド君といるとすごく楽しいし、安心するの」

 嘘偽りのない事を言う。でも、私が伝えなきゃ行けないことはこれじゃない。

「だからさ。もし、今私が……」

 その時私は無意識に脱ごうとしていた。バッド君とやりたい。そういう考えで脱ごうとしたわけじゃなかった。

 実際、やりたいと言われたらやってしまうかもしれない。

 でも、私は初めてじゃない。これが一番バッド君に伝えなければいけないことなのに。

 だからと言って、大切な人としたことがあるかと言われたら。
 答えはノー。

 今、バッド君にしている行為は、私が押し付けられた当たり前が、本当に当たり前なのか確認したい、いや、当たり前じゃないと言って欲しかった。

「待って待って!」

「今……脱いであなたを誘ったら……どうするの……?」

 止めてくれたバッド君の声はとても優しかった。

「何もしないし、すぐ服着させるよ」

 私の初めては呆気なく奪われてしまった。
 今でも思い出す。あの嫌な思い出を。

 そして、今も続く最悪を。

「だから、どうにかして欲しい時はちゃんと教えて欲しい」

 私は後ろから抱きしめられた。
 暖かい腕が私を包み込む。

 初めてだった。人の手がこんなにも暖かくて、優しくて、安心するものだと感じることが。

 無意識に私は腕を掴んでいた。

「バッド君って本当に……優しいんだね」

「優しいとかの問題じゃない。俺は君を大切にしたいだけだよ」

 バッド君に助けを求めていいのだろうか。
 今、バッド君に伝えていいのだろうか。

 今日じゃないかもしれない。また今度、しっかり聞いてもらおう。

 いや、しっかり聞いてもらいたい。
 ただ助けを求めてちゃダメなんだ。私も頑張らなきゃ。

「ふふ、ありがとう。こんな私を大切にしてくれて」

「会ってまだ日は浅いけどな」

 私たちは仲良く笑った。

「でも、本当に私が脱ぎ始めたら押し倒しちゃうんじゃない?」

「そんなことするってことはケイトの方が押し倒されたいんじゃないのか?」

 そんな事ない!  って自信を持って言えない私がダサかった。

「嫌だってわけじゃないけど……まだ早いって言うか……だめ!  やっぱダメー!」

「ダメって俺は何もダメなんて言わせること言ってないぞ?」

 何やってるの私!  あーもう恥ずかしい……

「まぁ……もうちょっと大人になったら。またそう言う話しましょ」

 私は誤魔化すように顔を隠し、これからもよろしくね、と言うことを遠回しに伝えた。

「じゃ、忘れずにな」

「ふふ、忘れちゃうかもね。ベッド座っていい?」

 私は彼のことが好きなのだろうか。まだ分からない。好きとか嫌いとかじゃなくて、なんだか一緒にいると安心出来る。

 きっと彼は優しいから。優しすぎるから。私なんかが好きになっちゃダメだってわかってる。

 でも、きっと、いつか。いや、絶対その日は来ちゃうんだろう。

 今はどちらかと言えば好きかな。

 ──────

 夕飯をご馳走になり、私が帰る前に彼がトイレに行っている間。

「今日は本当にありがとうございました。夜ご飯もすごく美味しかったです」

「いやいや、いいのよ」

「バッドも男らしくなったって事なのかなぁ」

 両親もとてもいい人たちで、バッド君もこの人たちににて育ったのかな、とか思ったりした。

 加えて思ったのは、バッド君をとても大切にしているんだな、ということだ。

 ちゃんと親から愛を受けて育つ。それが当たり前。でも、当たり前じゃない家庭だってある。

 ……何考えてるんだろう私。もし、私がこの家に生まれて、バッド君と兄弟で……

 もうやめよう。よそはよそうちはうちだ。

 そんなこと考えいると、お母さんがこっちに近付いて来た。

「もし、何かあったら教えてちょうだいね。あと……バッドの事よろしくね」

 私は何故か溢れ出てしまいそうな涙をグッ、とこらえた。

「はい。私で良かったら任せてください」

「ふふ。頼もしいわ~。こんなに可愛い子が」

 少し話をし、私は1人玄関で待っていた。
 その時やっとバッド君が帰ってきた。

「ごめん待たせた」

「全然大丈夫だし、本当に家まで送ってくれなくて大丈夫だよ」

「じゃ、隣町にだけでも」

 頑なに送ろうとする彼に、私は申し訳ないと思い意地を張っていた。

 本当は一緒に帰りたい。送って欲しいのに。

「また、いつでも遊びに来てね~。ご馳走するから~」

「バッドが変なことしたら……教えてくれよ……」

「はい!  今日は本当にありがとうございました!」

 深く頭を下げ、家を出る。外へ出た私は無言を貫いた。

「まぁ、ケイトが嫌ならここでバイバイだな」

「……嫌じゃない」

「ん?」

「じゃ、隣町まで送ってくれる?」

「あぁ。もちろんだよ」

 やっぱりダメだった……欲望には抗えない……
 でも、バッド君も送るって言ってくれてたし?  これはまだマイナス点じゃないかな?


 帰り道の30分。とても短く感じた。
 とくに楽しい話を沢山してた訳でもない。でも、何故だろう。疲れは無い。

「それじゃ……またね」

「おう。またな」

 ここで終わっちゃう。そんなのは嫌だ。

「次は来週ね」

 私はバッド君の耳元に近付き、小さな声でそう言った。
 驚いた表情のバッド君を見た私は、勝った、と思いすぐさまUターンして、手を振った。

「じゃ!  またね!!」

 私の友達はとても優しくて、安心出来る、最高の友達なんだ。

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