妻を寝取ったパーティーメンバーに刺殺された俺はもう死にたくない。〜二度目の俺。最悪から最高の人生へ〜

橋本 悠

文字の大きさ
15 / 49
第1章

第13話 救助

しおりを挟む
「どうして……来ちゃったの?」

 その言葉に俺は驚愕した。あたかも来て欲しくなかったかのように。

 見てはいけないものを見せてしまったかのように。

「どうしてって……そんなの後だよ!  中に人は!?  お母さんは!?」

「私以外……みんないるよ……」

 泣き崩れ、見たこともない表情をした彼女を見て、俺は何をすればいいか分からなかった。

 思考が追いつかない。何故彼女だけ外にいるのか。

 でも、身体は勝手に動いていた。

 目的無しに燃え盛る炎の元へと走っていった。

 熱い熱い……目も開けてられねぇ……くっそ!

 俺は玄関のドアを蹴り飛ばした。燃えていたおかげか、軽く吹っ飛び、中の様子が見えた。

 家の中も炎でいっぱいだった。

「勢いで来ちまったけど……こんなとこ入れねえ……そうだ」

 身体中に神経を集中させた。血液の流れに。
 俺は流れるところになら魔力を流せる。だったら……

「身体中に魔力を……流せ!」

 この行動は普通の人なら恐らくすぐ動けなくなるだろう。

 でも、俺ならできる。俺の魔力量なら。唯一人より優れているこの点で。

「これならまだ熱いけど……耐えられる!」

 俺は家の中へと走って入っていった。ポケットから、いつから入っているか分からないハンカチを取りだし口を抑え、間取りも分からない家を走り回った。

「うわっ!  人……なのか?」

 なにかに躓き、転びそうになった身体を何とか立て直した。

 振り返り、床を見てみると、ほぼ原型をとどめてない人が倒れていた。

 途端に気分が悪くなる。

 これ……お母さんとかじゃ……ないよな……

 メイドか何かだろうか。もうなにかも分からない。

 この調子じゃ恐らく誰も生きていられていない。
 その時だった。

 ……!

 魔力だ。魔力を感じる。多分1階から2つ……2階に1つだ。

 これが人の魔力なら……行く価値あり。

「熱いけど……もし、本当にもし、これがケイトのせいだって言うなら……」

 被害は最小限にだ。これが俺に出来る最大の助け。まだ信じていない。でも、本当に彼女だとしたら。

 罪は償わなければいけない。今俺のやってる行為はただの私情だ。この街の人からしたら反逆者だ。

 でも……でも。俺は信じるって決めたんだ。

「あっちぃなぁーー!  こんにゃろ!」

 俺は1階の魔力を感じる部屋へと走って行った。

 その部屋の前まで着くと、やけにこの部屋のドアだけ綺麗に保たれていた。

 ドアに……魔力?

 ドアには魔力が流れており、結界のようになっていた。
 恐らく内側から開けられないようになっている。

 俺は急いでドアを開けた。

「お、おい!  助けが来たぞ!」

「……た!  助けてください!」

 そこに居たのは見覚えのある男と、見覚えのない女だった。

 その男はまさにケイトのお父さんであった。
 でも、その姿に目を疑った。部屋の中には火の手はまだわずかであった。

 恐らく、結界のおかげで中まで火が回っていないのだろう。
 内側から開けられないって言うのは少し疑問だ。

 でも、お父さんは上半身裸。女は全裸で、俺が入ってきた途端、毛布をくるみ、身体を隠した。

 俺にはそこの女がケイトのお母さんには思えなかった。

「……怪我はないですか」

「あぁ!  ないから早く助けてくれ! 火傷で体が痛いんだ!」

 俺は溢れ出す感情を抑え、ハンカチをくわえ、2人を抱えて部屋を出た。

 そこから1番近い窓を突き破り、外へと出た。そこから、ケイトの方へと走り、抱えていた2人を投げ捨てるように少し荒く手放した。

「ケイト。これだけ教えてくれ。そこの女の人は君のお母さんか?」

 そう聞くと、ケイトは小さく震えながら首を横に振った。

 俺はまた走り出す。さっき感じたもうひとつの魔力の所へと。

 階段を駆け上がり、その部屋までたどり着いた。

 ここも魔力の結界が……誰がこんなこと……

 急いでドアを開ける。するとそこには一人の女性がベッドの上に座っていた。

 その様子は、焦りでなく、ただ、死を待つだけの装いだった。

「大丈夫ですか!?」

「……誰?  助けに来たなら私はいいから……他に行ってちょうだい……」

「もうあなた以外助けましたし死にました」

「……そう」

 ベッドの女性へと駆け寄り、俺は抱えようとした。

「本当に私はいいから」

「良くないです!  早く!」

 俺を拒絶する女性は本当に生きる気力を無くしていた。まさに、寝取られた時の俺のようだった。

「どうしてそんなに助けようとするの?  いいって言ってる人を」

「じゃあ……!  これだけ教えてください!」

 さっきの部屋と同じ様に、結界のおかげで、まだ火の手は大きくは広がっていなかった。

 そのため部屋の原型もまだあった。
 俺の目線の先には1つ、額縁があり、そこに入っていた写真に写っていた人を見て、ある質問を決心した。

「あなたには……1人でも大切な人がいますか!!」

「……!」

 その質問を聞いた瞬間、女性は俺がさっき見た写真の方へと目を向ける。

 その写真に写っているのは、紛れもなく、この女性とケイトのツーショットであった。

 写真を見て、女性は涙を流す。
 そして、女性は小さく頷いた。

「だったら今回くらい死ぬこと諦めてください!!!」

 こうして俺は女性を担ぎ、部屋を出た。

「あっつ!!」

 魔力を纏っていても耐えられないくらいに火の手は回っていた。

 階段を降りてる暇は無い。こうなったら。

「おーーりゃーーー!」

 俺は窓を突き破り、2階から飛び降りた。

 足に魔力足に魔力足に魔力!!

 ドンっ!!!

「痛ってぇ……けど行ける!」

 着地に成功した俺はもう一度、ケイトの元へと向かった。

 女性は気を失っており、俺は優しく安全な石の道へと寝転ばせた。

 今ここにいるのは、俺、ケイト、ケイトのお父さん、裸の女、そして、最後に助けた女性だ。

 パチンっ!

「おい!  お前がやったのかと聞いているんだ!」

 戻ってきた時に起きていたのは、家族喧嘩だった。

「……」

 ビンタされても何も言わないケイトが俺に気が付く。

「一旦……待ってくださいお父さん」

「君には関係ないだろ!  これは家族の話だ!」

「俺はあなたを助けた!  その事くらいは分かってください!」

「その話は後だ!  今は違う話を……」

「だったら尚更静かにしろよ!!!!」

「……!」

 何が尚更だ。今更家族ぶるなよ……俺。
 俺の叫びで、場が静まりかえる。

「消防です!  怪我人は!」

「あっ……この3人だけです。みんな軽傷なんで。後はもう……」

「……分かりました。先に消火活動を行います」

 複数人の消防隊員が魔法で水を発生させ、消火活動を始めた。

 俺は会話を再開させる。

「ケイト。この女性は……?」

「私の……お母さん……」

「お前……!」

 また話しを遮ろうとしたお父さんに睨みを聞かせ、最後にもうひとつ質問をした。

「……この火事。ケイトがやったのかな」

「……」

 長い沈黙が続く。そして、やっとケイトが口を開いた。

「ごめんなさい……私が……私がやりました……」

 考えうる中で一番最悪で、一番可能性の高かった回答が返ってきてしまった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

勇者の隣に住んでいただけの村人の話。

カモミール
ファンタジー
とある村に住んでいた英雄にあこがれて勇者を目指すレオという少年がいた。 だが、勇者に選ばれたのはレオの幼馴染である少女ソフィだった。 その事実にレオは打ちのめされ、自堕落な生活を送ることになる。 だがそんなある日、勇者となったソフィが死んだという知らせが届き…? 才能のない村びとである少年が、幼馴染で、好きな人でもあった勇者の少女を救うために勇気を出す物語。

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

処理中です...