妻を寝取ったパーティーメンバーに刺殺された俺はもう死にたくない。〜二度目の俺。最悪から最高の人生へ〜

橋本 悠

文字の大きさ
22 / 49
第2章

第20話 戦いのその後

しおりを挟む
「勝った……のか……?」

 ゴブリンから吹き出した青黒い血を浴びた俺は、その場に立ち尽くしていた。

 剣を持っている右手がジリジリと痺れる。
 眉間から真っ二つに切り裂かれたゴブリンは目の前に倒れていた。

 ……久しぶりに死体見たな。もう慣れちまったと思ってたけど……そうでも無いみたいだ。

 シュナさんを外に連れていかなきゃ。あと、ストローグさんは大丈夫かな。

 いや、きっと大丈夫だ。ストローグさんは強い。俺が心配していいような人じゃ……あれ?

 シュナさんが倒れているところに1歩踏み出そうとした時だ。足が動かない。と、言うよりも動かした瞬間倒れてしまいそうだった。

 やばい……後先考えず魔力使っちまった……倒れる……いや、倒れるな……!

 フラフラとシュナさんの所へと向かう。
 ほんの数メートル。その数メートルが何百メートルかと思えるくらい、視界は歪んでいた。

 くっそ!  馬鹿野郎!  何回目だよこの馬鹿野郎!!

 目の前の敵を倒すことで精一杯になってた俺は、完全にキャパオーバーしてしまっていた。

 せめて……彼女を……外に……!

 1歩1歩俺は進んだ。何分経っただろうか。やっとの思いでシュナさんの目の前まで辿り着いた。

 視界はまだ揺らぐ。

 外に……連れていかなきゃ……

 俺が屈み、シュナさんを持ち上げようとしたその時だった。

 トンっ

「わ、わぁ……」

「おつかれさん」

 その声を聞いた瞬間、安心したのか、本能的に気を失ってしまった。

 ──────

「……わっ!!!」

 俺は飛び起きた。やばいやばい……どれくらい寝てたんだ……

「おぉ。意外と起きるの早かったな」

 そこには身体中に包帯を巻いたストローグさんがいた。

 そして、ここはストローグさんの家のベッドであった。服を貸した俺は、ブカブカのストローグさんの服を着させられていた。

「ストローグさん……ってか、大丈夫ですか!?」

「俺の心配なんてすんなバカ。お前の方こそ動けんのか」

 俺は手足を動かし、寝ていたベッドから出て立ち上がった。

「意外と行けますね……」

「なら良かった。んで、お前。あの力使ったのか?」

「は、はい……」

 ストローグさんはソファから立ち上がり、こちらに無言で近づいてきた。

 ごめんなさいごめんなさい!  元気だからって殴るのは……

「……!」

「アホ! ビビりすぎだ」

 ストローグさんの手は、俺の頭をわしゃわしゃと撫でていた。

「……よくやった。シュナちゃんは村長さんの治癒魔法のおかげで、安静にすれば命に別状は無いみたいだぞ」

「よかった……!」

 もし、あの時、ストローグさんが間に合っていなかったら。恐らく俺とシュナさんの命はなかっただろう。

 そして、この人がここまで強くなかったら。みんな死んでいただろう。

「でも、もっと使い方を考えろ。出し惜しみしなさすぎだ。魔力ゼロだったぞ」

「すいません……」

「今後も俺の前以外では使うの禁止だ。いいな?」

「はい……」

 コンコン

「ストローグよ。入るぞ」

「あ、村長さん。どうぞ」

 村長が玄関のドアを開け、中に入ってきた。
 俺は小さく会釈をし、会話を始めた。

「今回の件は本当に助かったぞ。ストローグ、バッド。ありがとう」

 俺の名前覚えてる……意外と出来てる人なんだな……

「いえいえ、シュナさんを助けたのは彼なんで。俺は簡単なモンスター討伐しただけっすよ」

「ほっほっほっ。わしが頼んだのはモンスター討伐だけじゃよ。にしても、その怪我もう一度見せろ。魔法かけ直しとくからのう」

 そう言われたストローグさんは、包帯をクルクルと解き始めた。

 包帯が解かれれば解かれるほど、俺は目を疑った。

「……血?」

 包帯が真っ赤に染っていた。ストローグさんの血で。

「ストローグさん!  本当に……大丈夫なんですか!?」

「あーうるさいって!  久しぶりにあのレベルのモンスターと対峙したから身体がなまってたんだよ」

 包帯が全て解けると、肩や腕、胸からお腹にかけてなど、たくさんの傷跡があった。

「ほれ、こっちに来い」

 ストローグさんは村長さんの所へと歩いていき、治癒魔法を受けた。

 村長さんが伸ばした両手から、小さい光が傷跡に入り込み、血がみるみるうちに止まっていく。

 そういえば、ケイトに治してもらった時もこんな感じだったな。

「ほれ、もう大丈夫そうじゃ。2回魔法かけてるから安静にしとけば傷口はもう開かん」

「ありがとうございます村長さん」

「じゃ、わしはもう行くぞい。今回は本当に2人ともありがとうな」

「い、いえ!  俺の方こそ……足でまといになっちゃってて……ストローグさんにも負担かけちゃって……俺……もっと強くなります!!」

「ほっほっほっ。そんなこと聞いてないぞ?  あと、リュナの所に顔だしてからかえってやれ。お礼がしたいと」

 リュナさんとは確か、シュナさんのお母さんだ。

「そういうことなら、俺がこいつ家まで届けるんでその途中にでも」

「ほな」

 そう言って村長さんは家を出ていった。

「家までなんて……大丈夫ですよ?」

「いーやだめだ。俺がお前を連れてって危険な目に遭わせてんだ。少しくらい話させろ」

 ストローグさんは意外としっかりしてる人なのかもしれない。なんだか勘違いしてたな。

「バッド。歩けるか?」

「はい。大丈夫です」

「そりゃそうだよ。村長さんがお前もさっき治癒してたんだからな。ははははは!」

「そ、そんな笑わなくてもいいじゃないですか!」

 俺はストローグさんのところまで走っていき、傷跡を殴るふりをした。

「ちょ、お前あぶねぇだろ!!」

「今の俺は……負けませんよ……!」

「うるせぇ。行くぞ」

 ポコン、と頭をぶたれた俺は、首根っこを掴まれ、外へと運ばれた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

勇者の隣に住んでいただけの村人の話。

カモミール
ファンタジー
とある村に住んでいた英雄にあこがれて勇者を目指すレオという少年がいた。 だが、勇者に選ばれたのはレオの幼馴染である少女ソフィだった。 その事実にレオは打ちのめされ、自堕落な生活を送ることになる。 だがそんなある日、勇者となったソフィが死んだという知らせが届き…? 才能のない村びとである少年が、幼馴染で、好きな人でもあった勇者の少女を救うために勇気を出す物語。

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

処理中です...