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ノハナナの星
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満天だった。赤、青、緑の大小の光が空の端から端まで広がっている。今までにみたことのない圧巻な景色だ。瑞樹は足元後方を見たが、さっきまで登ってきたはずの階段も穴もなかった。ごつごつとした岩でできた地表は、所々から煙が噴き出している。急に不安が押し寄せて来たかと思うと、息が苦しくなり意識を失った。
「気づいたみたい。」
女の子の声がして目が覚めた。瑞樹はいつの間にか、ベットの中にいて、顔には透明のボールが被されていた。
「お父さん、来てー。」
女の子は、父を呼ぶと、瑞樹の顔を見て尋ねた。
「ねえ、名前は。いくつ。」
「瑞樹。九歳。」
「そう、じゃあ、私のほうが年上ね。私はノワナ。十一歳。」
女の子は満面の笑みで、瑞樹を眺めている。
「どれどれ、体調はどうかな。」
と、女の子の後ろから、眼鏡をかけた四十代前半の男が顔を出した。瑞樹は顔に被さっている透明のボールを脱ごうとしたが、その男は、待て待てと唇を動かし、首を横に振った。そして優しく語りかけた。
「君がどこから来たのかはわからない。でも、この星の人間じゃないみたいだね。さっき、君の息を調べさせてもらったよ。君の住む星とここでは空気の成分が違うんだ。でも、大丈夫。あと二、三時間こうしていれば、その器なしでも動けるから。」
そして、ノワナの方を向いて、
「ちょうどいい。二、三時間もしたら夜が明ける。そしたら、この街を案内してあげなさい。」
と、言った。
ノハナナと呼ばれるこの星の街は、頭上にびっしりとランタンがぶら下がっていて、その隙間からは、つらら石が顔を出していた。屋台が軒を並べ、賑やかさがあふれる坂を抜けると住宅街に出た。ここでも、待ちの明かりはランタンである。家には煙突があり、その煙突はランタンを通り越して上方へ抜けていた。街を一周して公園に着くと、ブランコに腰をかけて、ノワナが言った。
「ねえ、うちの子にならない。お父さんに頼んであげる。」
瑞樹は首を横に振った。
「ぼく、おうちに帰らないと。」
瑞樹はこの街が嫌いではなかったが、地球に戻れないのも困る。
「そう。」
と、ノワナは残念そうにつぶやくと、ブランコをこぎ始めた。二人は公園で遊んだ。ブランコをこげば、可愛い音楽が流れ、シーソーに乗ればトランポリンで跳ねるように体が浮いた。滑り台をすべると、ジェットコースターのように上り下りし、降りようとするまで永久的に滑っていられた。ジャングルジムに登れば、どこまでも街を見渡せた。
ランタンの明かりが弱くなってきた。これが夕方の合図である。二人は家に戻ると、お母さんが夕ご飯を用意してくれていた。
「少し寂しい話がある。」
と、お父さんは切り出した。
「君がここに居たいのなら問題はないのだか、帰りたいのならダメだ。ずっとここにいては、君の体はどんどんこの星に順応して、いつか自分の星のことを忘れてしまう。」
ノワナは泣き出しそうな顔で、お父さんをにらんでいたが、お父さんはお構い無くつづけた。
「神秘的な話なんだが、この星のどこかにナナマスの木が生えている。その木の実を食べれば会いたい人のもとに帰れるって言い伝えがあるんだよ。どこに生えて、いつ実がなるのか、誰も知らないが、君がその実を食べて、家族に会いたいと願えば帰れるかもしれないね。」
お父さんは優しい眼差しをしていた。
「ぼく、探してみます。」
と、言うと、ノワナはとうとう泣き出した。
「そうかい、それじゃ早いほうがいいね。今晩にも発ったほうがいい。」
お父さんが目配りをすると、お母さんは「はいはい。」と台所に消えていった。ご飯を食べ終わると、二人は屋根裏部屋から続く階段を登って地表に出た。ノハナナの街は地中にあったのだ。溢れ落ちそうな星をみながら、瑞樹は「ぼくの星は地球って言うんだ。」と言った。ノワナは小さくうなずいた。宙と地表の間はすっからかんとしていて、無音の空気までもが星までの遠さを際立てている。あの星たちの中に地球もあるのだろうか。今はただ隣にいるノワナの温もりだけが心地よかった。お母さんが、アーモンドバターをたっぷり浸みこませたバケットを布に包んで階段を上がってきた。さよならの時、
「この星は、太陽の光が強すぎて、昼間は地表に出られない。空が明るくなってきたら、近くの家に泊めてもらいなさい。優しい人ばかりだから、きっと大丈夫だよ。」
と、お父さんが説明してくれた。
「気づいたみたい。」
女の子の声がして目が覚めた。瑞樹はいつの間にか、ベットの中にいて、顔には透明のボールが被されていた。
「お父さん、来てー。」
女の子は、父を呼ぶと、瑞樹の顔を見て尋ねた。
「ねえ、名前は。いくつ。」
「瑞樹。九歳。」
「そう、じゃあ、私のほうが年上ね。私はノワナ。十一歳。」
女の子は満面の笑みで、瑞樹を眺めている。
「どれどれ、体調はどうかな。」
と、女の子の後ろから、眼鏡をかけた四十代前半の男が顔を出した。瑞樹は顔に被さっている透明のボールを脱ごうとしたが、その男は、待て待てと唇を動かし、首を横に振った。そして優しく語りかけた。
「君がどこから来たのかはわからない。でも、この星の人間じゃないみたいだね。さっき、君の息を調べさせてもらったよ。君の住む星とここでは空気の成分が違うんだ。でも、大丈夫。あと二、三時間こうしていれば、その器なしでも動けるから。」
そして、ノワナの方を向いて、
「ちょうどいい。二、三時間もしたら夜が明ける。そしたら、この街を案内してあげなさい。」
と、言った。
ノハナナと呼ばれるこの星の街は、頭上にびっしりとランタンがぶら下がっていて、その隙間からは、つらら石が顔を出していた。屋台が軒を並べ、賑やかさがあふれる坂を抜けると住宅街に出た。ここでも、待ちの明かりはランタンである。家には煙突があり、その煙突はランタンを通り越して上方へ抜けていた。街を一周して公園に着くと、ブランコに腰をかけて、ノワナが言った。
「ねえ、うちの子にならない。お父さんに頼んであげる。」
瑞樹は首を横に振った。
「ぼく、おうちに帰らないと。」
瑞樹はこの街が嫌いではなかったが、地球に戻れないのも困る。
「そう。」
と、ノワナは残念そうにつぶやくと、ブランコをこぎ始めた。二人は公園で遊んだ。ブランコをこげば、可愛い音楽が流れ、シーソーに乗ればトランポリンで跳ねるように体が浮いた。滑り台をすべると、ジェットコースターのように上り下りし、降りようとするまで永久的に滑っていられた。ジャングルジムに登れば、どこまでも街を見渡せた。
ランタンの明かりが弱くなってきた。これが夕方の合図である。二人は家に戻ると、お母さんが夕ご飯を用意してくれていた。
「少し寂しい話がある。」
と、お父さんは切り出した。
「君がここに居たいのなら問題はないのだか、帰りたいのならダメだ。ずっとここにいては、君の体はどんどんこの星に順応して、いつか自分の星のことを忘れてしまう。」
ノワナは泣き出しそうな顔で、お父さんをにらんでいたが、お父さんはお構い無くつづけた。
「神秘的な話なんだが、この星のどこかにナナマスの木が生えている。その木の実を食べれば会いたい人のもとに帰れるって言い伝えがあるんだよ。どこに生えて、いつ実がなるのか、誰も知らないが、君がその実を食べて、家族に会いたいと願えば帰れるかもしれないね。」
お父さんは優しい眼差しをしていた。
「ぼく、探してみます。」
と、言うと、ノワナはとうとう泣き出した。
「そうかい、それじゃ早いほうがいいね。今晩にも発ったほうがいい。」
お父さんが目配りをすると、お母さんは「はいはい。」と台所に消えていった。ご飯を食べ終わると、二人は屋根裏部屋から続く階段を登って地表に出た。ノハナナの街は地中にあったのだ。溢れ落ちそうな星をみながら、瑞樹は「ぼくの星は地球って言うんだ。」と言った。ノワナは小さくうなずいた。宙と地表の間はすっからかんとしていて、無音の空気までもが星までの遠さを際立てている。あの星たちの中に地球もあるのだろうか。今はただ隣にいるノワナの温もりだけが心地よかった。お母さんが、アーモンドバターをたっぷり浸みこませたバケットを布に包んで階段を上がってきた。さよならの時、
「この星は、太陽の光が強すぎて、昼間は地表に出られない。空が明るくなってきたら、近くの家に泊めてもらいなさい。優しい人ばかりだから、きっと大丈夫だよ。」
と、お父さんが説明してくれた。
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