天才魔術師様はかぁいい使い魔(♂)に萌え萌えですっ

阿月杏

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4. ただでさえ顔がいいのにおめかししたらそりゃもう

4-9 魔力調整

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 握った手がそっと振りほどかれたかと思うと……おれの首筋に、優しく触れられる。熱い手。大きな手。

「あ」

 反射的に、小さく声を上げてしまって。
 ……でも、『そういうこと』だと分かって、おれは頷いた。ついでにぎゅっと目を瞑る。

「……メグム」

 名前を呼ぶ声が、いつもよりずっと近くに聞こえて。
 次の瞬間――熱を持った唇が、そうっと触れる。

「ん……」

 アッシュ様の唇は少しかさついていて、でも、柔らかい。
 ……この世界でのファーストキス。まさかこんな場所で捧げるなんて、思いもしなかったなぁ。
 そんなことを思っているうちに、ぬるりと舌が侵入してきた。

(わわ……!)

 そうだよね、粘膜接触って話だもんね。ただ触れるだけじゃないんだよね……!
 触れ合わせた舌の先から、じわりと温もりが伝わってくる。魔力を受け取ってる……ってことなのかな。

「っ……」

 ぴくりと肩が震える。唾液を、こくんと飲み込む。
 ああ、あたたかい。
 やわらかい。
 ふわふわする。

(……気持ちいい……)

 アッシュ様のための『魔力調整』なのに、おれも頭がぼんやりしてきた。
 ぷは、と息を継いで――また唇が重ねられる。
 今度は、口の中をゆっくりと舐めるように。

(ひえぇ……!)

 な、なんか、本当に変な気分になっちゃうってこれ。心臓がバクバク鳴ってる。受け渡される魔力を飲み下すのに精一杯で、つい舌を引っ込めてしまう。
 すると、おれの体が強張っているのに気付いたのか、

「……」

 アッシュ様の手が伸びてきて、優しく頭を撫でられた。
 やっぱりおれのこと、ペットだと思ってるみたい。……まあ、ペットとはこんなことしないけど。
 だけどそれは、今のおれにとっては、とても安心する感触だった。

「ん、っ……」

 勇気を出して、おれからも舌を絡める。溢れ出す魔力を受け取って、口に含んで、嚥下して……。
 誰も来ない廊下に、おれたちが交わす口付けの音が、かすかに響いていた。


 あまりに長く感じるキスが続いた後に――ようやく、唇が離される。

「あ……」

 何だか名残惜しさを感じてしまって、いやいやそんなわけ、と否定する。もう十分だよ! 数年分はキスしたって!
 というかそれ以上に気にしなければならないのは、アッシュ様の状態だ。そうっと手を取ってみると……まだ少し温かめだけど、平熱程度になっている。

「……落ち着いた?」
「ああ、とりあえずは……」

 声も苦しくはなさそうだ。まだ万全とは言えなさそうだけど……。
 すると、アッシュ様は立ち上がろうとして――ふらりと壁に肩をつく。

「あーっもう、無理しないで! ほら、おれが支えてあげるから」
「……すまないな」

 前も見たぞ、このパターン。アッシュ様、あまりにも他人に頼るのが下手すぎるって。
 アッシュ様に肩を貸して、一歩ずつ歩き始める。
 でも、おれの頭の中はまだ、さっきまでの時間のことでいっぱいだった。

(……ご主人様と、キスしちゃったぁ……)

 しかも、かなり濃厚なやつ。
 何だか現実味がないんですけど、夢じゃないんですよね……まだ唇に温かい感触が残っている気がしますもの……。
 今さら湧いてくる羞恥心をぎゅうぎゅうと押さえ込みながら、隣のアッシュ様の顔をちらりと窺ってみる。
 いつも通りっぽく見える……けど。この人、表情筋が動かなさすぎなんだよなぁ。

(でも……顔、ちょっと赤い?)

 うーん、誤差程度かな。まだちょっとだけ熱っぽかったし、そのせいかも。
 ……ご主人様は、どんな気持ちでおれとキスしてたんだろうな。おればっかり意識してたら恥ずかしいんだけど……ちょっとくらいドキドキしてくれたのかな……。
 まだくらくらする頭でそんなことを考えながら、おれたち二人は、ひんやりした廊下を進んでいったのだった。
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