天才魔術師様はかぁいい使い魔(♂)に萌え萌えですっ

阿月杏

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8. 二人を繋ぐまごころハート

8-2 ごほうび

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 ローレル様や魔術連盟の人に後のことを頼んで、おれたちはお屋敷に移動してきた。連絡を受けていたメイドさんたちにも手伝ってもらい、何とかアッシュ様を寝室に連れてきたところだ。
 思えば、仕事部屋は何度も訪ねていたけれど、寝室に入るのは初めてのこと。ベッドが大きくてふっかふかだぁ……流石はこのお屋敷のご主人様。

「よーし……それじゃ、しっかり体を休めてね。アッシュ様」
「……ああ、待て」

 アッシュ様はベッドに寝転んだまま、ぽんぽん、と布団を軽く叩くと。

「お前も休んで行け」
「えっ」

 おれはベッドを目の前にして固まる。
 一緒に寝るって、子どもじゃあるまいし……いやでも、家族みたいなものではあるか。ってか恋人じゃんね。恋人が同じベッドで寝るのは……それはそれでなんか……。
 しばらくそのまま、逡巡してみたけれど。

「じゃ、お邪魔しまぁす……」

 ふかふかベッドの魅力には抗えないのでした。
 もぞもぞとアッシュ様の隣に体を収める。大きなベッドは、成人男性二人でも余裕で受け止めてくれる。わー、これは快適……!

「んふふー……」

 ああ、一気に体の力が抜けてく感じ。今まで張り詰めていたものが、ようやく緩んだ気分だ。今日、色々あって大変だったもんなぁ……。
 そんなふわふわ心地の中で、おれはふと思いつく。

「そういえば。魔力不足ってことは、魔力調整した方がいいよね?」
「ああ、確かに」

 これは伝家の宝刀・萌えチャージの出番ですかね。いや、寝たままやるのは、お作法的に良くないか?
 なんて悩んでいると……ずいっと、アッシュ様の顔が近付く。

「わわっ! アッシュさ――むぐっ」

 ――気付いた時には、もう唇を奪われていた。
 舌がちゅるんとおれの口の中を舐めて、そして出ていく。短いけれど、濃厚なキスだった。
 おれはつい、口元を手で覆ってしまう。

「……びっくりした……」
「悪い、つい……同意も取らずに」

 アッシュ様はばつが悪そうな顔をしている。本当に衝動的に、という感じだったんだろう。普段はたいへん紳士的に、おれの気持ちを確かめてくれるのにね。
 ……アッシュ様にもこういう時、あるんだなぁ。
 おれはたまらなくなって……その唇に、ちゅっと口付ける。

「ん、っ」

 恥ずかしいから、一瞬だけに留めたけど。

「……!」
「もっと、していいよ」

 そう、アッシュ様に向けて囁いた。
 すぐに唇が重ねられる。最初は軽くついばむように、だけどだんだん喰らいつくように。

「んん……」

 舌をぬるりと絡ませる。あの日以来の魔力調整……あの日以来のキス、だ。
 ほんのり熱い感覚が、舌を伝って流れていく。

「んむぅ……っ」

 やっぱり、気持ちいい。
 魔力だけじゃなくて、心までとろけて……溶け合っているみたいだ。
 おれが目を閉じて、うっとりと恋人らしいキスに浸っていると……そろりと、腰に手が回された。

(あれっ……!?)

 アッシュ様の手は、おれの尻尾の上の辺りを優しく撫でる。……いや、優しいには優しいけど。これって。
 魔力調整を目的としたキスで、そんな場所を触る必要はないと思うんですけど……!?

(うわわわわ……!)

 ぴく、ぴくと腰が震える。布団の中の尻尾が揺れる。
 どうしよう、これって。これってさぁ……! おれも何か応えるべき? でも何すればいいの?
 けれどおれが混乱を極めている間に、アッシュ様の手つきは徐々に緩んで……やがて止まってしまった。

「……ん?」

 おそるおそる唇を離し、目を開けてみると……アッシュ様の瞼は、ぴったりと閉じられていた。

(って、そこで寝ちゃうんかーい)

 ベッドの中じゃなかったら、盛大にずっこけていたかもしれない。
 何だよもう。変な気分になっちゃったじゃんか……。うう、まだ尻尾がぞわぞわする。

(でも、そっか……おれ、アッシュ様の恋人だもんね……)

 アッシュ様にも性欲があったことに驚きなんだけど(いや人間なんだから当たり前ではあるけど)……いつかは本当に、そういうことをする時も来るのかな?
 ……や、止めとこう。具体的に想像するのは、おれにはまだちょっと早いかも。成人男性だってのに、思春期に戻ったみたいだぜ……。
 まあ、今は。

「……おやすみ、アッシュ様」

 ゆっくり休んでほしいな。
 今日すっごく頑張った、おれの自慢のご主人様。
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