完璧地球人は魔法無しで異世界を救う

前方に瓜

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第1章 幸せの終了と召喚

第二話『神との邂逅〜幸せの終了〜』

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夜、布団に潜り込むと、心地よい疲れが全身を包み込んだ。
自然と意識が沈んでいき、気づけば真っ白な空間に立っていた。

どこまでも広がる白。上下もわからないその中で、不意に声が響く。

 「――来たか」 声が響いた。だが姿は見えない。

いや、声ではなく心に直接語りかけられているような感覚だった。 

「私は神と呼ばれる者だ。神谷ハルト。お前に頼みがある」

 ハルトは思わず声を上げた。 「……神? 俺に頼み?」 

「そうだ。今からお前を異世界へ送る。その世界の来たる瞬間を……救ってほしい」 

いきなり何を言ってるんだ、この人。いや、“神”だとか言ってるけど。 「世界を救う? はは……いやいや、ちょっと待ってくれ。夢だろ? これは」 思わず笑って誤魔化す。こんなの信じろって方が無理だ。

 神は俺の反応に揺らぐことなく、淡々と言った。 「信じるも信じないも好きにすればいい。だが――お前がその世界へ行くことは、もう変わらない」

 突拍子もない言葉に、ハルトは思わず声を荒げた。 「仮にその話しが本当だとして無理ですよ!できるわけないじゃないですか!」 心臓が早鐘を打つ。

突然“異世界”だの“救え”だの言われて、はい分かりましたと頷けるはずがない。 「すみません、俺、普通に今の生活が幸せなんです。家族も友達もいて、やりたいこともあるんです。だから……断ります」 きっぱりと言い切った。

だが、返ってきたのは淡々とした声だった。 「……断ることは不可能だ」 

「……え?」 

「これはお前に課せられた運命だ。拒否権は存在しない」

 呆然とする主人公に、神は言葉を続ける。 「異世界に行くにあたってお前には特別な“力”を授ける。名を――『森羅万象ジ・オールマイティ』」

 耳慣れないその名に、思わず息を呑む。 「お前の肉体は、人間が出せる限界値にまで研ぎ澄まされている。速度も、力も、反射神経も、持久力も人間という種の到達点そのものだ。加えて、その頭脳もまた、同じく極限に達している。理解力、判断力、発想力……すべてが人間の最高峰にある」 淡々とした声が響く。

 「さらに、お前は地球上で人間が知り得たほぼすべての知識を持っている。そしてその知識を一切失わず、瞬時に取り出せる完全記憶能力を備えている」 

「ただし、これはあくまで“人間の範囲”だ。お前に魔法は使えない。炎も、雷も、奇跡も起こせはしない。だが、この能力を持ってお前は世界を救え。」 白い空間に、神の言葉だけが重く響いていた。

 ハルトは拳を握りしめた。 
「……ちょっと待ってください。異世界に飛ばされるって、どこに?」 

「場所は指定できぬ。お前は異世界のどこかへランダムに召喚される」

 「ランダム……?」 自分の意思とは関係なく、知らない土地、知らない人々の中に突然放り込まれるというのか。 胸の奥がざわつく。 

それでも一縷の希望を抱いて、ハルトは尋ねた。
 「……じゃあ、仮に俺がその世界を救ったとして……俺は元の世界に戻れるんですか? 家族のところに……帰れるんですか?」 一瞬、白い空間が静まり返る。

 神はためらうことなく告げた。 「――それはできぬ」

 頭が真っ白になった。 家族も、友達も、笑い合った日常も、二度と戻れない――その言葉の意味が、胸に突き刺さった その言葉が、胸に重く沈んだ。 

息を呑むハルトに、神は淡々と続ける。
 「心配はいらぬ。お前ならば、その世界でもきっと幸せに暮らせるだろう。人間の限界の力と知恵を持つお前なら、誰からも認められ、必要とされるはずだ」 

その“慰め”は、ハルトの心を逆にかき乱した。 
「……そんなの、どうでもいい!能力なんて要らない!」 思わず声が震える。
 「俺には、家族がいるんです。友達も、学校も、毎日の生活も……全部、全部大切なんです! それを全部捨てて“幸せに暮らせる”なんて、あるわけないじゃないですか!」 拳を握りしめ、必死に言葉を吐き出す。
 「絶対に嫌だ! 俺は行かない! 行けるわけない!」 白い空間に響くのは、ハルトの叫びと、神の沈黙だけだった。

 白い空間に響く叫びに、神はわずかも動じなかった。 「……お前がどれだけ嫌だと叫ぼうと、無駄だ。すでに能力も授けてある。」

 「は……?」 

「お前は異世界に行く。家族も、友達も……そんなことは、いずれどうでもよくなる」 

その言葉に、ハルトの心臓が冷たく締めつけられた。 「……どういう意味だよ、それ」

 神は淡々と告げる。
 「召喚の瞬間、お前は全ての記憶を失う。ここでの会話も、能力のことも、私(神)のことも、元の世界のことも……すべて忘れる。お前はただ、異世界で“最初から”生きることになる」

 「……っ!」 息が詰まった。 胸が張り裂けそうだった。 

「家族の顔も……友達の声も……本当に、全部、忘れるのか……?」 声は震え、喉の奥で言葉が途切れた。

 神は頷くこともせず、ただ淡々と、その事実を告げるだけだった。 

ハルトの頭の中で、家族や友達の笑顔が、音もなく崩れていく。 その衝撃は、叫ぶことすらできないほどに重かった。 
「……そんな……全部忘れて……」 ハルトは唇をかみしめ、必死に声を絞り出した。
 「じゃあ、俺はいったい……どうやって世界を救えっていうんですか!? 記憶もなくして、能力のことだって知らないのに、何ができるっていうんだよ!」 

その叫びにも、神の声は揺るがなかった。 
「大丈夫だ」

 「なにが……大丈夫なんだよ……!」 

「お前には“正義の心”がある。記憶が消えようとも、それだけは決して消えない」 白い空間に、静かに、しかし力強く言葉が響く。 
「その心がある限り、お前は自ら選び、戦い、世界を救う道を歩むだろう。お前ならできる」 

「そんなの勝手すぎる! 俺は望んでない! 家族を捨てて、友達も失って……そんなの、できるわけないだろ!」 必死に声を張り上げるハルト。

だがその言葉を遮るように、白い空間が強烈な光で満ちていく。 
「やめろ! まだ話は――!」

 神の声が響く。 
「――召喚を開始する」 眩い光がハルトを包み込み、抗う叫びは虚しく飲み込まれていった。 

気がつくと、柔らかい草の感触が背中を押していた。
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