完璧地球人は魔法無しで異世界を救う

前方に瓜

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第3章『初クエストと旅立ち』

第十四話『ミス』

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気がつくと、ハルトは馬車の中にいた。
揺れる木製の天井。窓の外には朝靄が流れ、車輪の軋む音がかすかに響く。
目を凝らすと、向かいにはあの三人――エリナ、ダリオの姿があった。

「気がついたか」
最初に声をかけたのは、アレンだった。相変わらずの無表情だが、その声にはどこか安堵が混じっていた。

「……俺はまた、お前らに助けられたんだな」
「――ああ」

短い返事に、ハルトは苦笑した。

「約束……守れなかったな」
「……ああ」

一拍の間。
そして、沈黙を破ったのはダリオだった。

「“ああ”って、そんな冷たい言い方すんなよ! お前、すごかったんだぞ!? 初クエストでゴブリン67体討伐だぜ!? そんな奴、聞いたことねぇよ!」

「そうよ」エリナが続けた。「ポーションも持たずに67体なんて、異常よ。普通なら即死してるわよ」

ハルトは目を伏せ、かすかに首を振った。
「……それでも、失敗は失敗だ。そうだろ?」

「……ああ」

アレンの声は静かで、どこか自嘲の色が混じっていた。

――導き出した数の想定。ゴブリンたちの執念深さ、群れでの連携。
そして武器が折れることなど、まるで頭になかった。
どれだけ計算し、どれだけ想定しても、失敗も、予想外も起こる。

それを柔軟に捌けなかった。
想定外を、想定できなかった。
それが、ハルトの敗因だった。

こうして、彼の初めてのクエストは失敗に終わった。


町へ戻ると、まずはギルドへ向かった。
ギルド嬢は深く頭を下げ、涙ながらに謝罪してきた。
どうやら、クエストの難易度設定が間違っていたらしい。

だが、ハルトが気を失っている間に三人が、ゴブリンたちの身につけていたネックレスをすべて回収してくれていたおかげで、クエスト自体は“成功”として処理された。

「報酬はお前のだ」
そう言って、アレンが差し出してきた報酬袋をハルトは押し返した。

「いや……最初に助けてもらった水と食料、それから宿代。カイルの世話代。いままでいろんなことを教えてもらった“教育費”。そして、先日助けてもらったポーションと馬車代……全部合わせても、この金額じゃ全然足りない。それに、自分一人では達成できていないんだ。受け取ってほしい」

しばらくの沈黙のあと、アレンが静かに頷いた。
「……わかった」

「じゃあ今日はこの金で宴だ!」と、ダリオが笑った。

家に帰ると、カイルが、涙を流して喜んでくれた。
その夜、ハルトの“初クエスト生還パーティー”が開かれた。

「ところでお前、どこの出身なんだよ? 言葉も最初はまともにしゃべれなかったじゃねえか」

「ちょっと、ダリオやめなさいよ」とエリナがたしなめた。「言いたくなかったら言わなくていいのよ」

「いや、大丈夫だ」

ハルトは少し笑って、今までのことを三人に語り始めた。
この世界とは別の世界から来たこと。
神の存在。
与えられた“能力”のこと――全て。

話を聞き終えると、三人は顔を見合わせ、数秒の沈黙ののち――

「……っはははははっ! なんだよそれ!」ダリオが腹を抱えて笑い出した。
「昨日見た夢の話か? つくならもう少しマシな嘘つけよ!」

「うそじゃないよ」

「嘘だね」エリナが苦笑した。「だって、神様に“記憶を消す”って言われたんでしょ? じゃあなんで、家族のことまでそんなに鮮明に覚えてるの?」

「あっ、それは思った。確かに矛盾してるよな」ダリオも眉をひそめた。

ハルトの胸の奥が、ざわついた。
焚き火の揺らめく光が、彼の横顔を淡く照らす。

「……そうだな」
小さくつぶやいたその声は、夜の静寂に吸い込まれていく。

(違和感はあった。いきなり異世界に飛ばされて、毎日がめまぐるしくて――考える余裕なんてなかった。
けど……なんで、俺は“記憶”があるんだ?)

ハルトは目を閉じ、神との会話をひとつひとつ思い返す。
その記憶は、まるで昨日のことのように鮮明だった。

そして、ふと口を開く。
「……完全記憶能力」

「え?」
ダリオが目を丸くした。

ハルトはダリオを見た。
「俺、完全記憶能力があるんだ」

「なんだよそれ」
ダリオの声に、ハルトは淡々と答える。

「見たもの、聞いたこと、感じたこと――全部、忘れないんだ」

「そんなやつ、いるのかよ……」ダリオが呆れたように笑う。
「いるんだよ。前の世界にも、そういう人間がいるって言われてる。ごく少数だけど」

エリナが柔らかく微笑んだ。
「……でも、良かったじゃない。家族のことを忘れないでいられるんだもの」

「エリナ」アレンが彼女を制した。首を振り、これ以上は言うなという目で。

ハルトは黙り込んだ。
――これは“ミス”だ。
神の“見落とし”だ。

(……戻れる。俺は戻れるぞ)

この世界には、魔法がある。
なら、世界を超える魔法だって存在するはずだ。
魔法を学べば――研究すれば――いずれ――

(……あれ? 俺、魔法使えねぇんだった……)

「どうするよ、俺……」
そう呟いて、ハルトは頭を抱えた。
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