完璧地球人は魔法無しで異世界を救う

前方に瓜

文字の大きさ
42 / 60
第7章『人外の里オルミナ』

第四十三話『竜の襲撃・新たな試み』

しおりを挟む
巨大なイノシシ――全長五メートルはあろうかという魔獣を討伐し、その肉で腹を満たした三人は、焚き火を囲んで一息ついていた。

脂の乗った肉を噛みしめながら、ルドが満足そうに息を吐く。
「そうそう……これだよ、これ」

「はい。やっぱりこういうのが一番です」
リヴィアも頷き、幸せそうに微笑む。

「はぁ……食った食った」
ハルトは空になった皿を置き、背中を伸ばした。

「やっぱりハルトの料理はうまいぜ」
「そうですね。昨日とは大違いです」

そのときだった。
――ドドドドドッ。
遠くから、異様な速度で駆けてくる足音。

「……はぁっ……!」
息を切らした声とともに、見覚えのある三つの影が視界に飛び込んできた。

「あーーーっ!」
「またあいつらかよ……」
昨日、植物に絡め取られていた異種族の三人組だった。

彼らはハルトたちに一瞥もくれず、そのまま凄まじい勢いで駆け抜けていく。
「……なんだあいつら。なんか持ってなかったか?」
「確かに……」

次の瞬間だった。
――ドンッ……ドンッ……。
地面が揺れる。
焚き火の炎が震え、灰が宙に舞った。

「……な、何ですか? この音……」
「揺れてる……?」

闇の奥から、木々がへし折れる音が連続して響く。

枝が裂け、幹がなぎ倒され、闇そのものが割れるように――
現れたのは、鋭い爪と分厚い鱗を持つ巨大な影。

黄眼が闇の中でぎらりと光る。
全長十メートルは優に超える、恐竜のような魔獣だった。

「……やべぇ。でけぇぞ……!」
その威圧感に、ルドの声が引きつる。

ハルトは即座に判断した。
「逃げるぞ!」

三人は焚き火を蹴散らし、森の中へと駆け出した。

背後では炎が爆ぜ、咆哮とともに重い地響きが迫ってくる。
――ゴォォォォッ!!
森全体が震えるような咆哮。

地割れのような轟音とともに、巨大な足音が追いすがる。

枝葉が顔を叩き、露出した根が足を取る。

それでも立ち止まる余裕などなかった。

「はぁっ……はぁっ……! もう、近いですっ!」
「ああもうっ! 何でこうなるんだよ!」

振り返れば、森の木々をなぎ倒しながら迫る巨大な影。

爪が地面を抉り、岩を粉砕する音が、すぐ背後まで迫っていた。

「右だ! 開けた道がある、あそこを抜けるぞ!」
ハルトの声に、二人は必死に頷き、進路を変える。

「炎が来るぞっ! ルド、壁!」
ハルトの叫びと同時に、灼熱の息吹が解き放たれた。

地を焼き、空気を歪めながら迫る炎に、ルドは迷わず地面へ手をつく。

地面がうねるように隆起する。
瞬く間に生まれたのは、幅広く分厚い土の壁だった。重く、鈍い音を立てて地に根を張り、三人の前に立ちはだかる。

次の瞬間、灼熱の火炎が叩きつけられる。
轟音とともに盾が震え、熱が空気を焼いた。

その背後で、リヴィアが詠唱を始める。
「氷よ、盾となれ――《フロストウォール》!」
白い光が弾け、土壁の前面を覆うように分厚い氷の壁が形成された。

直後、火炎が激突する。
轟音。
衝撃とともに熱風が吹き荒れ、氷が軋み、溶ける音が重なった。
周囲は一気に白い蒸気に包まれ、視界が奪われる。

「……今だ、走れっ!!」
ハルトの声に反応し、三人は一斉に駆け出した。

蒸気の中をすり抜けるように走り抜け、背後ではモンスターの怒りに満ちた咆哮が森を震わせる。

追撃が来る気配を感じながらも、三人は必死に足を動かし続けた。

やがて木々が途切れ、視界が一気に開ける。

息を切らしながら森を抜け、三人は開けた草原へと飛び出した。

視界が一気に広がり、風が頬を打つ。
そこで――前方に、見覚えのある影があった。
思わずハルトが目を細める。

草原を必死に走っているのは、先ほどダンジョンで遭遇したあの三人組だった。

しかも、その腕には――大きな卵。
「……おいおい、マジかよ」
呆れと苛立ちが混じった声が、ハルトの口から漏れる。
「あいつら……モンスターの卵、盗んだのか」

状況を理解したリヴィアが、息を飲んだ。
「そんな……。じゃあ、さっき追われていたのは……」

「親ってことだな」

「はぁ……もう放っていこうぜ」
ルドの投げやりな言葉とは裏腹に、足は止まらなかった。

目の前で命が削られているのを、見捨てられるはずがない。
「リヴィア、援護! ルド、右から回れ!」

「マジかよ……了解!」

リヴィアが即座に詠唱に入る。
「――風よ、矢となれ!」
放たれた青白い光の矢がモンスターの顔をかすめ、巨体がわずかによろめいた。

その一瞬を逃さず、ルドが構えた銃が異形に変わる。
錬金によって砲身が肥大化し、大砲へと姿を変えた。
「うおおおおおッ!」
轟音とともに砲撃が叩き込まれ、厚い鱗に火花が散る。
モンスターは耐えきれず、地面に横転した。
「よしっ! ……って、これでも死なねぇのかよ」

「よくやった、ルド。次は俺だ」
ハルトは一気に距離を詰め、横転したモンスターの目を潰すように斬りつける。

さらに首元へ、渾身の斬撃――。
「硬っ!」

しかし、乾いた音とともに長巻の刃が折れ、宙を舞った。
「……うそだろ」

モンスターが唸り声を上げ、起き上がろうとする。

ハルトは舌打ちし、折れた刃を拾い上げながら後退した。
「リヴィア。ヴァルナだ」

「はい」
即座に強化魔法が施されるのを感じながら、ハルトは走り出す。

進路を変え、卵を抱えて逃げる三人組を追い越した。

地響きが、すぐ背後まで迫っていた。
「……あいつ、あのモンスターをやっつけたのか?」
ドワーフが振り返り、息を呑む。

「違うわ。私たちに押し付けて逃げたのよ」

「いいから走るぞ!」

一方その頃――。

「ルド、頼む」
ルドは無言でうなずき、折れた長巻の刃に手をかざす。

錬金術が発動し、歪んだ金属が瞬く間に元の形へと修復された。

ハルトは地面に膝をつき、素早く魔法陣を書き出した。
複雑で、どこか歪な線。見慣れた術式とは明らかに違っていた。

「……見たことない魔法陣ですね」
リヴィアが思わず声を漏らす。

「ああ。ぶっつけ本番だ」
そう言いながら、ハルトは迷いなくその魔法陣を長巻の柄へと巻き付けた。

紙が密着した瞬間、微かに震え、魔力を欲するように脈打つ。
「リヴィア。これに、リヴィアの一番の強化魔法をかけてくれ」

「ぶ、武器に……ですか?」
一瞬ためらったものの、ハルトの真剣な眼差しを見て、リヴィアは小さく息を吸った。

「……わかりました」
両手を重ね、深く詠唱に入る。

「我、始源の焔に誓う。血潮は契約、魂は贄。封ぜられし力、今ここに解き放たれん――《オルグレア》」
魔法が解き放たれた瞬間、長巻が赤いオーラをまとい、空気が灼けるように震えた。

それを見たハルトは、思わず口角を上げる。
「成功だ。よくやった、リヴィア。行ってくる」

そう言い残し、ハルトは地を蹴った。
赤い残光を引きながら、一直線に走り出す。

一方その頃、断崖絶壁の岩壁を背に、卵を抱えた三人はへたり込み、互いにしがみついていた。
「あああ……もう終わりだ……最悪だ……」絶望の声が重なった。

魔獣が三人へ襲いかかる。
次の瞬間、その背へと駆け上がる人影があった。

ハルトだった。
鱗を蹴り、爪をかわし、巨体を一気に駆け上がる。
首元へと到達した瞬間、迷いなく長巻を振り抜いた。

次の瞬間、モンスターの首は切断され、重たい音を立てて地面へと転がり落ちた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界転生日録〜生活魔法は無限大!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
☆感想の受付開始しました。 【あらすじ】   異世界に転生したルイは、5歳の高熱を境に、記憶を取り戻す。一度は言ってみたい「ステータス・オープン」で、ステータスを見れることに気付いた。スキル「生活魔法∞(無限大)」を発見。その意味を知るルイは、仄かに期待を抱いた。  それと同時に、今世の出自である農家の四男は、長男大事な両親の態度に、未来はないと確信。  家族に隠れて、ステータスにあったスキルの一つ「鑑定」を使い、村のお婆(薬師)相手に、金策を開始。  十歳の時に行われたスキル鑑定の結果を父に伝えたが、農家向きのスキルではなかったルイは「家の役には立たない」と判断され、早々に家を追い出される。   だが、追放ありがとう!とばかりに、生活魔法を知るべく、図書館がある街を目指すことにしたルイ。  最初に訪れた街・ゼントで、冒険者登録を済ませる。だがそのギルドの資料室で、前世の文字である漢字が、この世界の魔法文字だという事実を知ることになる。  この世界の魔法文字を試したルイは、魔法文字の奥深さに気づいてしまった。バレないように慎重に……と行動しているつもりのルイだが、そんな彼に奇妙な称号が増えて行く。  そして、冒険者ギルドのギルドマスターや、魔法具師のバレンと共に過ごすうちに、バレンのお師匠様の危機を知る。  そして彼に会いにいくことになったが、その目的地が、図書館がある魔法都市アルティメットだった。  旅の道中もさることながら、魔法都市についても、色々な人に巻き込まれる運命にあるルイだったが……それを知るのは、まだ先である。 ☆見切り発車のため、後日変更・追記する場合があります。体調が不安定のため、かける時に書くスタイルです。不定期更新。 ☆カクヨム様(吉野 ひな)でも先行投稿しております。

僕のギフトは規格外!?〜大好きなもふもふたちと異世界で品質開拓を始めます〜

犬社護
ファンタジー
5歳の誕生日、アキトは不思議な夢を見た。舞台は日本、自分は小学生6年生の子供、様々なシーンが走馬灯のように進んでいき、突然の交通事故で終幕となり、そこでの経験と知識の一部を引き継いだまま目を覚ます。それが前世の記憶で、自分が異世界へと転生していることに気付かないまま日常生活を送るある日、父親の職場見学のため、街中にある遺跡へと出かけ、そこで出会った貴族の幼女と話し合っている時に誘拐されてしまい、大ピンチ! 目隠しされ不安の中でどうしようかと思案していると、小さなもふもふ精霊-白虎が救いの手を差し伸べて、アキトの秘めたる力が解放される。 この小さき白虎との出会いにより、アキトの運命が思わぬ方向へと動き出す。 これは、アキトと訳ありモフモフたちの起こす品質開拓物語。

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

酔っぱらったせいで、勇者パーティーを洗脳してしまった

透けてるブランディシュカ
ファンタジー
悪友のせいで酔ったら。(※重複投稿しています)仲仁へび

アイムキャット❕~異世界キャット驚く漫遊記~

ma-no
ファンタジー
 神様のミスで森に住む猫に転生させられた元人間。猫として第二の人生を歩むがこの世界は何かがおかしい。引っ掛かりはあるものの、猫家族と楽しく過ごしていた主人公は、ミスに気付いた神様に詫びの品を受け取る。  その品とは、全世界で使われた魔法が載っている魔法書。元人間の性からか、魔法書で変身魔法を探した主人公は、立って歩く猫へと変身する。  世界でただ一匹の歩く猫は、人間の住む街に行けば騒動勃発。  そして何故かハンターになって、王様に即位!?  この物語りは、歩く猫となった主人公がやらかしながら異世界を自由気ままに生きるドタバタコメディである。 注:イラストはイメージであって、登場猫物と異なります。   R指定は念の為です。   登場人物紹介は「11、15、19章」の手前にあります。   「小説家になろう」「カクヨム」にて、同時掲載しております。   一番最後にも登場人物紹介がありますので、途中でキャラを忘れている方はそちらをお読みください。

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

処理中です...