サトリ系男子の憂鬱な日々

とりのこ

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(安達は話があるような事を言ってたけど、なんだろう……)

 いや、直接聞けよ。

 二人で中庭のベンチに並んで座って黙々と弁当を食べる。
 時折渋谷が俺のことをチラッと見るが、目が合いそうになるとサッと避けられる。

 本当に、よくこんなんで俺に告白なんてしてきたな。
 あの時は毎日好き好き言ってたもんなぁ。溜まってたのが爆発したって感じか。

「渋谷はさぁ…男が好きなの?」
「うぐっ、ゴホッ」
(な、なんだいきなりっ)
「あ、急にごめん。気になってたから」
「特に男が好きというわけでは……」
(男だから安達が好きではないんだが、勘違いされてるのか……)
「ふーん。じゃあ、女の方が好きなんだ?」
「……っ、俺はっ、男とか女とか関係なく安達のことが……!」
(好きなのに……!)

 あぁ~、ホモとかじゃなければ妹から誰か紹介してもらおうと思ってたけど、聞き方間違えたか……。男が好きだったら友達売ろうとかもチラッと考えてたんだけど、そんなわけでも無さそうだし……

「ごめん、聞き方間違えた。俺が言いたいのは、渋谷がホモとかゲイとかじゃなければ、俺が好きっていうのは勘違いで、恋とかじゃなくて、友情じゃないかなって」

(この気持ちを間違うわけはないんだが……)

 反論はあるっぽいけど、黙って最後まで聞いてくれるみたいだから、本題を言ってしまおう。

「だから付き合うとかじゃなくて、友達だったらなりたいなー……なんて……」

 そこまで言うと、渋谷の心の声はピタリと止んだ。
 どうしたんだ。だんまりになるなんて珍しい……。
 無反応なのが怖くてチラリと見やると、渋谷はほんの少し顔を赤らめていた。

「そ、それは友達から……ということでいいのか?」
(恋か友情か試したいと言うことだな!)
「へ?う、うん?友達……から?」
「ありがとう……!!」

 ガシッと手を包むように握られ、ブンブンと振られる。
 渋谷の心は今、嬉しいであふれている。口角も少し上がって、目尻も少し下がって、微笑んでいる。
 わー、こんな顔初めて見た。でも嬉しそうなとこ悪いんだけど、どっちか試したいというわけではないんだけど……
 しかしこんなに嬉しそうにされては言えるはずもなく……
 ま、最終的に友達に収まればいっか!

 物事を深く考えない能天気な俺はその日から渋谷との友達付き合いを始めた。

 と言っても、渋谷は放課後部活があるから昼休みに一緒に弁当を食ったり、移動のとき一緒だったり、そのくらいだけど。
 渋谷の心の声は相変わらず俺を絶賛している。事あるごとにかわいいとか優しいとか言ってる。そういえば、好きっていうのは減ってきた気がする。友情に段々とシフトしてきているのか……分からない。





「そういえばお兄最近渋谷うるさーいとか言わなくなったね。静かになったの?」

 ある日、妹に聞かれてハタと気付いた。

「そういえば、最近頭に響くようなデカい声はしなくなったな……範囲も狭くなった」
「えー!私が言うまで気付かなかったの?あれだけ毎日イラついてたくせに」
「いや、毎日一緒にいるからそれに慣れたって言うか……」
「なんだ、やっぱ付き合うことにしたの?」
「はぁ~?ちげぇし!友達だから!」
「ふ~ん。それじゃ渋谷さんがお兄のこと諦めたのかもね。良かったじゃん」

 諦めた……のか?本当に?
 確かに声を小さくする方法は相手と自分がくっつくか、それとも自分のことを諦めてもらうかだけど……
 渋谷の俺讃美は相変わらずだし……でも、「好きだー!」って叫ばなくなったんだよな……。
 俺のことはもう好きじゃなくなったのか。友人としてそばにいれば満足する類の気持ちだったんだな。
 と、そう思った時、胸の奥がチクンとトゲが刺さったような痛みがした気がした。

 その日の夕食、妹がおもむろに母さんに父さんとの馴れ初めを聞き始めた。因みに父さんは母さんがサトリだって知って結婚してるし、もちろん俺たちのことも知っている。

「お父さんは最初全然タイプじゃなかったんだけど、人一倍声が大きくて、気になっちゃって……何とか諦めてもらおうと頑張ってるうちに絆されちゃったの。だってお父さんたら毎日お母さんのこと好きだ好きだっていうから……」
「いやぁ、あの時の母さんは可愛かったからなぁ」
(今でも可愛いし、愛してるよ)
「あら、お父さんったら!」

 ふふふ。と母さんは幸せそうに笑っているが……ちょっと待て。なんか身に覚えがある話だぞ。

「愛するよりも愛された方が幸せよー」とかなんとか言ってるけど、まるっきり今の状況の俺に当てはまってて笑えない。

 さっきの!胸がチクンとか!俺、絆されかかってた!?
 ヤバいヤバい。俺にそっちの趣味はないんだ。
 大体渋谷が俺のことを諦めてくれたなら目的達成、万々歳じゃないか。それを俺が好きになるとか……うわぁ、ないない。

 妹!今のはファインプレーだ。良くやった!
 妹にアイコンタクトを送っても、キョトンとされて全然通じない。基本垂れ流しの声を聞いてる分、察するという能力が低いんだよな……仕方がない。

 モヤモヤした気持ちのまま明日渋谷に会うことになるかと思ったけど、ちょっと気を取り直せた。
 俺は渋谷のことなどこれっぽっちも気にしてない。何しろ友達だからな!



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