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トラウマ
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しおりを挟む「辻 亜矢子(つじ あやこ)です、はじめまして」
きれいなショートボブの髪を揺らしながら頭を下げる彼女は、威にできた初めての彼女だった。
二人とも奥手だったせいか、高校に入っても付き合いたい女の子がいる等と言った話はした記憶は数えるほどで、ある日突然付き合うことになったからと紹介された時には祝福よりも、驚きと威が遠くに行ってしまったような物悲しさで言葉が詰まってしまった。
『亜矢子の事か?あいつの事で怒ってるのかよ』
怒っていないわけではなかったが、亜矢子と二人で楽しげに話しているのを見るとどうしようもない寂寥感に襲われた。
襲われたあの日も、久し振りに二人で帰ろうとしていたところに、亜矢子が用事が無くなったからとやって来たために一人になった。
彼女がいなければ、あの日何も起こらなかったのだろうか…と、ぼんやりと考えながら目を開けると、白い天井と白いカーテンが目に飛び込んできた。
「…え……?」
「起きたか?」
シャッと小気味良い音をさせながらカーテンが開き、耳をルーズリーフのようにした保健医が、禁煙パイポを噛みながら顔を覗かせた。
「気分はどうだ?」
「…ぇ…?」
「葉!」
保健医を押し退けて飛び込んできた威に、戸惑いの表情を向ける。
「いきなり倒れるからさぁびっくりしたよ」
「た…おれた?」
いまだに頭の中はぐわんぐわんしていたため、はっきりとした返事が返せずにおうむ返しになっていた。
「気分は悪くないか?」
「…気分……」
「今日は家に帰った方がよくないか?」
「…家…」
保健医の言葉をよく噛み砕かなければ、理解することができず、かなりの時間をとってから返事をする。
「…そうします」
「オレ、送っていきますから!」
「そうか?頼めるか?」
「威は部活もあるだろ…大丈夫だから授業出なよ」
ベッドから降りようとしたところで目眩に襲われ、思わずベッドに突っ伏してしまう。
「無理そうだな。長谷、頼んだぞ」
「はいっ」
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