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自慰
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しおりを挟む温かな湯気の立つホットミルクをそっと啜ったが、唇の傷が痛んで顔をしかめた。
壁際に立った光彦が、聞きづらそうに尋ねてくる。
「体は…その…怪我とかは大丈夫か?」
「言うほど…殴られたりはしなかったんで、……大丈夫です」
顔以外は組み伏せられ、突き上げられた際に背中や膝が擦れてできた擦り傷ぐらいだった。
「そうか。…制服は、クリーニング出しておくから」
「ありがとうございます。……母には……友人の家で勉強会するって言っておきます」
ミルクの残りを一気に飲み、微かに感じた苦味に顔をしかめる。
「…これ…苦い…?」
「ああ。少しだけお酒を入れたからな」
ほわっと体が暖かく感じるのはそのせいなのか…と、カップに残る温もりを探すように握りしめる。
「…先生……ほんとに…すみません」
滲み始めた視界を慌てて拭っていると、光彦は眼鏡を直しながら首を振った。
「…いや…あの時、校門で呼び止めなかったらって思うとな…」
自責の念に眉を寄せながら、光彦は苦々しく言うが、呼び止められなくても場所が体育倉庫から違う場所へ移っただけだと、葉人は十分承知していた。
アレは、フェネクスの罰だ…
「…っ」
背中をかけ上がる悪寒に、とっさに体を抱き締める。
「具合悪いか?」
「…いえ……」
「もう横になった方がいいな。ソファーで寝てるから、何かあったら声をかけなさい」
はい…と返事を返して寝室へと向かう。
「……」
ひっそりとした部屋に、不安と安堵を同時に覚えながら、鍵をかけてベッドへと向かった。
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