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効果
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しおりを挟む「ちっ」…と、霞始めた頭の隅で光彦の舌打ちを聞いたような気がした。
泥のように濁った頭を振りながら、光彦のいる方へと視線を動かす。
「…せ…んせ」
自分のものとは思えない掠れた声に驚きながら、空の椅子を見つめる。
「………ぇ…?」
その場所に人がいないと理解した頃、どんっと窓の方から大きな音が響いて飛び上がった。
どんっと言う音が繰り返され、やがてけたたましいガラスが割れる音に変わった。
ガシャーン…
ひっ…と身をすくませた葉人に手が伸びる。
「葉っ!!」
二の腕を、温かな手が掴んだ。
その温もりに、葉人ははっと顔を上げる。
「っ…たけ…ぅ……ぁ」
「葉!もう大丈夫だからっ!」
そう言うと、威は忌々しそうに葉人を戒めている鎖を引っ張った。
音はするが、鎖がベッドから離れる様子はない。
「っ…くそっ!あいつっ…っ」
「威……?ほん…とに?」
「後で話すからっ…逃げるぞっく……玩具なんかじゃねぇしっ」
ぼんやりとへたり込んでこちらを見上げる葉人の体にシャツを被せると、威は悪態をつきながら再び鎖を引っ張り始めた。
体格のいい威が渾身の力を込めても、しっかりとベッドに固定された鎖はびくともせず、威の顔に焦りの表情が浮かんだ。
「っ……なんだ?鍵?…わかるかよ!そんなもんっ」
葉人を捕まえている鎖の錠に、威が苛々とした声を上げる。
威の被せてくれたシャツを前で掻き合わせながら、這いずるようにして葉人がそちらに近づき、正解を探してキーを繰り返し弄る威の手を掴む。
「12AYA29」
呟かれた言葉に、威が葉人を見た。
「た…ぶん……」
きゅっと唇を引き結んだ威が素早い手付きでキーを回すと、呆気ない程軽い音を立てて錠が外れた。
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