255 / 349
二人
6
しおりを挟む手の中で突然鳴った携帯電話の通話ボタンを条件反射で押してしまう。
僅かな逡巡を置いて耳に当てた電話からは威の『どこにいるんだ』と言う低い声が漏れた。
「…安全なとこ……」
『それじゃわかんないだろ?!』
「……ごめん」
『訳わかんねぇ!なんで謝る必要があるんだ!?』
その怒りを滲ませた声に、司郎の家にいると言いそうになったが、ぐっと飲み込み、強く携帯電話を握り直した。
「…威。ごめんね、もういいよ」
『何が?迎えに行くから、場所を…』
「もう、オレの面倒なんて見なくていいから」
葉人がそう言うと、『は?』と低く聞き返してくる。
「オレ、もう威に憐れまれたりするの嫌なんだ…だから…もう、無理しないで」
携帯電話の向こうで、どんっと何かを蹴りつける音がし、続いて何かが転がる音がした。
『無理って、なんだ!?憐れむってなんだよっ!!自己完結して勝手に飛び出すなっ!!勝手な事考えて押し付けるなっ!!』
「っ!」
『ふざけるなよ、葉!なんでお前を憐れまなくちゃいけないんだ!?なんでお前の傍に居たいって思うのが無理なんだっ』
間を置き、「……俺は…」そう声が弱々しく漏れる。
『葉の事が好きだって…言ってるだろ…』
その言葉に心が弾んだ時はほんの少し前の事だったはずなのに、喜ぶ事の出来ない自分がいる事に葉人は気付いて拳を作った。
「…だから、もういいよ」
『葉?』
「無理しないで、もういいよ」
『だからっ―――』
「じゃあどうしてっ」
威の声を聞かずに声を荒げる。
「――――どうして、威は他の奴を抱くの?」
ぷつん…と、何かを言いかけていた威の声が止まった。
0
あなたにおすすめの小説
娘さん、お父さんを僕にください。
槇村焔
BL
親父短編オムニバス。
色んな家族がいます
主に親父受け。
※海月家※
花蓮の父は、昔、後輩である男に襲われた
以来、人恐怖症になった父は会社を辞めて、小説家に転身する。
ようやく人恐怖症が治りかけたところで…
腹黒爽やか×気弱パパ
野球部のマネージャーの僕
守 秀斗
BL
僕は高校の野球部のマネージャーをしている。そして、お目当ては島谷先輩。でも、告白しようか迷っていたところ、ある日、他の部員の石川先輩に押し倒されてしまったんだけど……。
【完結】 男達の性宴
蔵屋
BL
僕が通う高校の学校医望月先生に
今夜8時に来るよう、青山のホテルに
誘われた。
ホテルに来れば会場に案内すると
言われ、会場案内図を渡された。
高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を
早くも社会人扱いする両親。
僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、
東京へ飛ばして行った。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる