9 / 76
8
しおりを挟むバシリと書類をデスクの上に投げつけられたことに反射的に身を竦ませると、こちらを見ていた隣の課の主任である内藤がにやりと顔を歪ませたのが見えた。
「どうしてできないのか聞いているんだ!」
大きな声にビクッと肩をすぼめながら、他課からの書類の処理には依頼書が必要なことと持ち込まれた書類は自分にはまだ手に余ることだと伝えたけれど、主任は引く気配を見せない。
「社会人だと言うのに、わからないから出来ませんと言い訳するのか!?」
「で、ですが……」
普段ならば指導役の小林や他の先輩にも相談もするのだが、会社の創立イベントの打ち合わせで電話番である僕以外は出払っていた。
「早く済ませろ」
苛立ったような様子のおかしさに突きつけられた書類に目をやる。
「あの、午後からでしたら先輩たちも戻ってくるので」
「それじゃあ遅いって言ってるんだ!」
張り上げられた大声に怯むと、どうしてだか主任がニヤニヤと笑って……
それが気持ち悪くて、慌てて携帯電話を取り出して小林の履歴を探す。
「今すぐ電話をして確認を取りますか っ」
どん と突き飛ばされてよろけた。
デスクに腕がぶつかって鈍い痛みがしたけれど、そんなことよりも手を上げる行為が恐ろしくてぎゅっと心臓が縮み上がる。
ぶつけた腕を押さえながら主任に視線を戻すと、あの笑顔が圧しかかるように近づいてきていた。
「ゃ……でん、でんわ……」
突き飛ばされた拍子に飛んで行った携帯電話を探そうとするけれど、動転してしまっているのかおろおろと辺りを見回すことしかできない。
「ほら、俺の言うとおりに……」
伸ばされた腕に思わず硬く目を瞑ったが、「何してんですか?」と言う呑気な声にそろりと目を開く。
「あー内藤主任またこれですか? ほら、依頼書は? あと抜けも多いしムリムリ! 返却でっす。新人だったら受け付けるかもーって思ったんでしょうけどダメですよ、俺がこいつの教育係なんで」
軽いパシッって音がして、主任が呻く声がする。
「脅せばなんでもいけるって思うの良くないですよ? そんなだから総務から総スカン食らってこうやってコソコソする羽目になるんでしょうが」
「な……」
「あ、もうじきうちの課長も戻ってきますし、ちょっとお話します? ちゃんと俺も立ち会いますからみっちり話し合いましょうよ」
「なに言って」
「俺だけでも言い返せないのに課長とタッグ組んだら、内藤主任明日から会社これなくなっちゃいますけどいいんです? それでなくても家にも居場所なくな 」
まだ続けようとした言葉を遮るかのように、主任が書類を奪い取った。
0
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説
元会計には首輪がついている
笹坂寧
BL
【帝華学園】の生徒会会計を務め、無事卒業した俺。
こんな恐ろしい学園とっとと離れてやる、とばかりに一般入試を受けて遠く遠くの公立高校に入学し、無事、魔の学園から逃げ果すことが出来た。
卒業式から入学式前日まで、誘拐やらなんやらされて無理くり連れ戻されでもしないか戦々恐々としながら前後左右全ての気配を探って生き抜いた毎日が今では懐かしい。
俺は無事高校に入学を果たし、無事毎日登学して講義を受け、無事部活に入って友人を作り、無事彼女まで手に入れることが出来たのだ。
なのに。
「逃げられると思ったか?颯夏」
「ーーな、んで」
目の前に立つ恐ろしい男を前にして、こうも身体が動かないなんて。
発情期がはじまったらαの兄に子作りセッされた話
よしゆき
BL
αの兄と二人で生活を送っているΩの弟。密かに兄に恋心を抱く弟が兄の留守中に発情期を迎え、一人で乗り切ろうとしていたら兄が帰ってきてめちゃくちゃにされる話。
告白してきたヤツを寝取られたらイケメンαが本気で囲ってきて逃げられない
ネコフク
BL
【本編完結・番外編更新中】ある昼過ぎの大学の食堂で「瀬名すまない、別れてくれ」って言われ浮気相手らしき奴にプギャーされたけど、俺達付き合ってないよな?
それなのに接触してくるし、ある事で中学から寝取ってくる奴が虎視眈々と俺の周りのαを狙ってくるし・・・俺まだ誰とも付き合う気ないんですけど⁉
だからちょっと待って!付き合ってないから!「そんな噂も立たないくらい囲ってやる」って物理的に囲わないで!
父親の研究の被験者の為に誰とも付き合わないΩが7年待ち続けているαに囲われちゃう話。脇カプ有。
オメガバース。α×Ω
※この話の主人公は短編「番に囲われ逃げられない」と同じ高校出身で短編から2年後の話になりますが交わる事が無い話なのでこちらだけでお楽しみいただけます。
※大体2日に一度更新しています。たまに毎日。閑話は文字数が少ないのでその時は本編と一緒に投稿します。
※本編が完結したので11/6から番外編を2日に一度更新します。
赤ちゃんプレイの趣味が後輩にバレました
海野
BL
赤ちゃんプレイが性癖であるという秋月祐樹は周りには一切明かさないまま店でその欲求を晴らしていた。しかしある日、後輩に店から出る所を見られてしまう。泊まらせてくれたら誰にも言わないと言われ、渋々部屋に案内したがそこで赤ちゃんのように話しかけられ…?
目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる