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真新しい画布
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しおりを挟むはっとするも頭を上げることはできない。
けれど見てもいないのに、こちらを見詰める多恵の視線だけははっきりと感じ取ることができる。
「卯太朗」
もう一度呼ばれ、首を振って返した。
「失礼いたします。残りの絵も、お子様が産まれるまでにはお届けいたしますので」
上げることのできない視界の端に、一切の汚れのない白い足袋が見える。
暗い室内にある白さが目に焼きつきそうでぎゅっと目を閉じた。
「……それなら急いでくださいましね?」
俺の態度に拒絶を見たのか、多恵の声も硬いものだ。
出産は年末と聞いていたのでそれを考えながら言葉を探す。
「今年中にはお持ちします」
「駄目よ」
間髪入れずに返された声は、金属でも叩いたかのような冷たい響きを湛え、それに背を撫でられたかのようにぞくりと悪寒が走る。
「秋の終わりには産まれてしまうもの」
「は?」
思わず上げた視線が多恵のそれと絡む。
「早産することになってるから」
美しい顔をした女は、先程までの多恵とは程遠い表情をしていた。
綻びから漏れだしたかのような、素顔。
素朴な、童女のような……
泣きそうな顔に思わず手を伸ばした。
「不吉なことを言っちゃいけない! 十月十日満たないと良くないんだろう?」
男の関与するべき事柄ではないのはわかってはいたが、知識としてその程度はわかる。
多恵の言う言葉が出産に対する不安から来たものだとしても、言霊と言うこともあるのだから口に出すのは良くないように思えた。
宥めようと言葉を探す。
「不安だろうが 」
「──── 満ちるの」
は? と声が漏れた。
「産まれるの」
がちがちと歯を鳴らしながら、多恵は懺悔のように絞り出す。
「あと少ししたら、里帰りして……そこで転んで早産するの」
「……何、言って…………」
「実家で、子供の生まれが誤魔化せる月になるまで、早産で弱った体を養生するのを理由にして過ごすの」
多恵の言葉がわからず、冷や汗の流れる手でその華奢な体を抱き締める。
ぽこりと膨らんだ腹は、どうなのだろうか?
産み月なのかそうでないのかすら、俺にはわからなかった。
ただわかるのは、その体に宿る胤が秋に産まれてはまずいと言うことだけだ。
「多恵 っ」
がちりと多恵の震えが伝わったように俺の歯が鳴る。
震えと、冷や汗……
わかる、
わからない、
そう言ったものではない。
理解してしまったのだ。
「────俺の子か?」
不用意な言葉に、多恵は辺りをはっと見回す。
手練の盗賊さながらに辺りの気配を息を詰めて探り、ほっ息を吐いた。
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