とある画家と少年の譚

Kokonuca.

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赤い写生帳

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 翠也はこちらを軽く睨んだが、けれどその視線はどこかくすぐったい。
 
「……僕も、そう思います」

 小さく返事をして、何かを抑えるかのように深呼吸を繰り返す。

「では、こちらはやはりお返しした方がいいですね」

 名残惜しそうな様子が面白くなかったけれど、玄上の写生帳が翠也の役に立つのは確かだろう。

「いや、貰っておけばいい。塵紙よりは役に立つだろう」
「またっそんなことを!」
「はは! そういう仲なんだ」

 俺の言葉に翠也は少し気になる微笑を浮かべる。

「どうした?」
「羨ましいです」
「羨ましい?」
「僕はずっと独りで描いていますから気楽でいいのですが……お二人を見ていたら羨ましくなりました」

 あぁ 頷く。

 師につくなり画壇に入るなりすれば交流も生まれようが、一人ならばそれもままならないだろう。

「柵も生まれるが、画壇に入るのも悪くないよ」
「……卯太朗さん以外の柵なんて必要ありません」

 はっきりとした言葉を返されて思わず面食らった。
 盲目に等しい言葉にじわりと胸に嬉しさが滲む。

 けれど、だからこそ言わねばならないと意を決した。

「でも、奥様とのことがあるのだから、はっきりと身の振り方を考えた方がいい」

 突き放したと思われるだろうか?
 また峯子の肩を持ってと怒られるだろうか?

 人の意見を伺うことに、これほど怯える日が来るとは思ってもみなかった。

「僕は……貴男の愛人でいたい」

 恥じ入る声が告げる。

「貴男だけに、愛でられるものになりたい」

 そう言い、翠也は汗ばむ手で俺の手をしっかりと握り締めた。





 素直に牡を飲み込み、破瓜の際の苦しみが悪い夢だったかのように翠也は俺を貪り、その形を覚えて柔々と絞り上げる。

「ふ……ぅ、んっ」

 膝の上で果てた翠也を抱き締め、気怠さと愛おしさに浸りながら口づけた。

「んっ  卯太朗さんの舌、甘い……もっと……」

 どこかに気を遣ってしまったかのような蕩ける目をして言い、正気の彼ならば決してしない淫らな腰の動きに誘われる。

「……ぅあっ  きもち  ぃっ」

 余韻に体を震わし、あますところなく欲を絞り取ろうとする腰を掴んで引き寄せる。

「もっと欲しいかい?」

 とろりと蜂蜜のような気配を見せる目が頷きかけて、はっと理性の光を灯して瞬く。

「いえっ! もう、いっぱいいただきましたので……」

 正気に戻った表情だと言うのに、その手は散々子種を注ぎ込んだ腹を艶めかしく擦っている。

「そう? 寒いのだから、もう少し温まってもいいんだよ?」
「ですが、離れ難くなってしまうので……」

 夜ごと翠也の体を抱くようになってどれほど経ったのか……朝夕に肌寒さを感じるようになった。
 共に夜を明かせないせいか、その寒さがやけに身に染みて感じてしまう。 

 
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