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葬儀
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しおりを挟むそれはさながら、玄上がなんの悔恨も遺さずに逝ったように見えて、ぼんやりと見上げる俺に涙を流させなかった。
青い、あいつが描いたような空に立ち上る煙が消えていく。
立ち尽くして、何をするでもなく空を見る俺の手をるりがぎゅっと掴んだ。
「卯太朗」
「うん?」
「……なまいき言って、ごめん」
俺を見ず、玄上を焼く煙に後押しされるように言い、ごめんねと言葉を繰り返す。
汗ばんだ手は緊張からか冷たく、話しかけることに対して随分と勇気を振り絞ったのだと教えてくれた。
玄上が死んで、寄る辺ない思いをしているるりをそんな気持ちにさせてしまったことが苦しくて、ひどく申し訳ない思いだ。
「いや、俺が悪いんだ。気に病むな」
「うぅん、ごめんなさい……」
肩を落とし、所在無げなるりは同情を誘うようで……
思わずほっそりとした肩を掴んで引き寄せた。
「本当のことなんだから、きちんと受け止めるべきだったんだ」
「でも、おれのことば、痛かったでしょ?」
青空を映して、本物の瑠璃のように輝く目が不安に曇る。
「痛い?」
「うん……言われたくないこと言われると、この辺りがきゅって……」
薄い胸に手を置いてるりは視線でこの辺りの部分を指し示す。
言われたくないこととは容姿のことだろうか?
るりは今までの人生で言われたくない言葉を繰り返されたに違いなかった。
白大理石の肌ゆえに、
金糸の髪ゆえに、
玻璃の瞳ゆえに、
玄上が以前言っていたように、親に放り出されて死にかけるような経験を乗り越えて、それでもその先にあった不条理を一人で耐え忍んできたんだろう。
華奢な体の内にあるしなやかな強さに憧憬を抱いて微笑んでみせた。
「許してくれる?」
「当たり前だろう? 俺こそ怖い思いをさせてしまったことを許して欲しい」
俺の笑顔に安堵したのか、るりはくしゃりと笑って抱き返してくる。
「卯太朗っ好き!」
「ありがとう、嬉しいよ」
幼い様子ではしゃぐ姿が、るりの相応な姿なのかもしれない。
牡を咥え込んで淫らに喘ぐあの姿が、何かの夢だったのではないかと思えるほどに今の姿は爛漫として健康的だった。
「さぁ、玄上に最後の挨拶をしに行こうか」
頭を撫でて歩き出すと、るりはもつれる糸のように指を絡めて微笑んだ。
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