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かげらの子
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しおりを挟む二人きりの下生えの密かな空間から引き摺り出されたのは、お互いがお互いを支えにして微睡むように相手の温もりを堪能していた時だった。
一瞬にして夢の底から目覚めさせられた感覚に、捨喜太郎は溺れた人間がするように踠いて傍の宇賀に縋りつこうとする。
けれど指先に触れたのは、同じように引き摺られて倒れる黒い髪の先だけで……
「な っ 」
空を切る指先を握り込んで宇賀に駆け寄ろうとしたが邪魔をされ、逆に遠のく形で反対の地面に押さえつけられてしまう。
自身と同じように引き倒されて地面に叩きつけられる宇賀を見て、捨喜太郎は腹の底が怒りで焦れると言う感覚を初めて感じ、噛み締めた口の中に金臭い感触に眉間を寄せる。
湿っぽい落ち葉の層の柔い感触が頬を擦り、荒げた息の向こうに人を確認して力の限り睨みつけた。
「──おぉ、ようやっと見つけたん。村長に言ぅときや」
顔と名前が辛うじて一致する、その程度にしか話した事のない男だ。それと、幾人かの気配に気が付き、必死に頭を上げようとするも叶わず、がりがりと爪が地面を削って行く。
「なん 何をするんだっ!」
精一杯声を荒げて見せるも、体勢のせいなのか元来の気質のせいなのか、男達の手を緩めさせる程の迫力は出ずに失笑を買っただけだった。
捨喜太郎がぐっと全身に力を込めて抵抗しようとしても、がっしりとした腕で体重を掛けるように圧し掛かられているせいか、僅かに体が動く程度で何も事態は変わらない。
朽ちた葉と湿り気のある土の濃い臭いが肺の奥深くに入り込んで、目の回るような感覚に陥る。
「 ────っ その人をっ 離せ!」
上げた声を聞いて、何故だか男達が「ぷ っ」と吹き出し、大きな声を上げて笑い始めた。
それは明らかな嘲笑の感情で、捨喜太郎はおかしい事など一つもないのにげたげたと笑い出した男達を奇妙な物を見る目で見上げる。
「 ふ、 はは、その、人 」
「人っ 人だってよ!」
ひぃひぃと引き攣るような笑いが止んで、辺りに一瞬だけ静寂が落ちた。
現実世界の中にある落ち窪んだ異界に迷い込んだのではと錯覚する程の空気を破ったのは、目の前の男だった。
「宇賀は人なんやらねぇ」
「なに を 」
それは、人としての権利を有さないと言いたいのか と、捨喜太郎が怒鳴ろうとした瞬間、男の手が地面に押さえつけられている宇賀の着物の襟を鷲掴み、力任せに一気に引っ張り上げる。
華奢な体はそれに耐えきれなかったようで、呻き声が聞こえて人形のようにばたんと揺さぶられた四肢が跳ねた。
「 人、に、こんなもんはねぇ」
乱暴は止めろ と言おうとしたが、言葉がうまく出ずに捨喜太郎はごくりと喉を鳴らす。
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