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黒鳥の湖
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しおりを挟む神田様に蛤貝が気に入られたから、その相方であるオレが見送りに行く羽目になったのだ。
客に選ばれない、しかも見送りに行った帰りにこんな目に遭ってしまって、そんな言葉だけじゃ飲み込み切れない物がある。
でも、……それがなかったら、時宝に抱きすくめられることもなかったのか……?
そう思うとなんだかもやっとした物が胸の辺りを擽るから、敢えて気付かないふりをして「先生!」と声を掛けた。
「ああ、連絡は来てるよ」
そう言うと奥のベッドを囲ってあるカーテンがシャッと開いて、今までそこで寝てたんだろうなって中年の男の人が面倒そうに体を起こした。
津布楽先生はこの『盤』に居る全てのΩを診てくれる先生なんだけど、いつもこんな風にだらしがなくて、無精髭も生えてて……オレはちょっと苦手だ。
皺だらけの白衣を引き寄せて袖を通すと、いつの物か分からないコーヒーの染みが見えて、そんなだから玄関にいた黒手につっけんどんな態度を取られるんだ と思った。
「で?やっちゃったの?」
「~~~っしないよ!」
黒手と同じようにオレの頭から爪先までじっくり見て、隣にいる蛤貝に窺うような目を向ける。
蛤貝はオレの腰に手を伸ばし、帯に緩みはないか、帯と飾り紐で複雑に編まれた花の形の結び目が綻んでいないかを確認し、こくこくと頷く。
これが、『盤』で二人一組になる一番の理由。
お互いの帯をお互いが帯と飾り紐で、自分なりの独自の方法で複雑に編み上げる。こうすることによって一度解くと相方以外結び直せない状態になり、何かあった場合……今回みたいに服が乱れた状態でαと一緒にいた場合の、貞操が大丈夫かどうかの確認の一つになるわけだ。
「じゃあ もういいですよね」
「良くない。蛤貝、那智黒の帯を解いて」
逃げることが出来なくて思わず「う゛」と声が出る。
もしも、
万が一の為、
わかってはいるけれどこの診察が嫌で嫌で堪らない。
「じゃあそこの台に俯せて、取っ手を握って」
「…………」
なんとか「診なくてもいいよ」の言葉を引き出したくて、裁っ着け袴を脱いだせいでスカスカする足をもじもじとすり合わせる。
「ほら、早く」
そう言って促された先には長方形の背の高い座椅子に二本の取っ手が付いたもので……オレはこれが苦手でしょうがない。でも何を言っても検査はしないとなので、仕方なくそれの座面に腹と胸をペタリを這わせて取っ手を握る、そうすると自然と尻がむき出しになって、一番隠したい箇所を津布楽先生の目の前に晒すことになる。
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