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黒鳥の湖
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しおりを挟む「こちらの点鼻薬をお使い下さい。中には中和剤が入っておりますので、匂いの確認の間だけ鼻が利くようになります」
「……あの抑制剤の中和剤は、まだ開発されていないはずだが」
点鼻薬に手を伸ばしかけた時宝が低い声でそう尋ね返す。
いや、尋ねると言うよりは詰問のようだ。
「このような場所柄ですので では、答えになりませんか?」
α用の経口抑制剤は開発されてもすぐに中和剤が作られてしまうと言うのはよく聞く話で……
もちろん、その中和剤が真っ当な使われ方をすることがほとんどなのだろうけれど、中には抑制剤を飲んで自衛しているαを逆レイプするために使われたりもすると教えられたことがある。
「『運命に負けない』のキャッチコピーはなかなか評判が良かったんだがな」
苦々しそうにそう吐き捨てて、時宝は点鼻薬を何の躊躇いもなく鼻へと吹き付ける。
不機嫌そうな顔を隠しもしないで盛大に歪め、小さくすん と鼻を鳴らした。
「お好きな瓶からどうぞ」
険しい、眼光の鋭い目が一瞬オレに注がれて、それだけで跳び上がってしまうくらい心臓が跳ねたのは、恐ろしかったから?
大きな手が光を弾くガラス瓶に向かって動いて、黒い蓋の方を取り上げた時には倒れそうなほど動揺してしまって、出来るだけ取り繕ったけれど黒手には睨まれてしまった。
光をきらきらと閉じ込めたような切子の瓶を持ち上げ、香を聞くようにそっと鼻の傍へと運ぶ。
自分の匂いを嗅がれると言うのは……
仕方のないことだとはわかってはいても、羞恥心で頬が熱くなる。
「では、お次をどうぞ」
どうしてだかしかつめらしい不機嫌そうな顔をした時宝が、黒手の促しのままに蛤貝の匂いが入れてある白い蓋の瓶に手を伸ばし、開けようとして手を止めてしまった。
「如何なさいましたか?」
「いや」
ちらりと視線が動いて人を射るような視線がオレじゃなくて蛤貝の方へと動く。
「……華やかだな」
そう言うと改めて瓶に手を伸ばすと、オレの時と同じようにそっと蓋をずらした。
その時の反応を、なんと表現していいのかわからないけれど、時宝の表情が変わったのだけははっきりとわかってしまって……
狼狽えて慌てて瓶の蓋を戻すものだから、高く澄んだキィンと言う音が鼓膜に刺さるようだった。
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