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しおりを挟む手を引きながらそんなオレを振り返って、同じように苦笑を零したロカシの目がはっと動揺に動いて、それから一瞬で険しくなる。
急なその変化に何かあったのだとオレが気付くよりも早く、耳の傍を風が切る音が通り過ぎて太い腕が古びた戸を軋ませるように叩きつけられた。
ひゅっとロカシの息を飲む音と、オレの背後から覆い被さるように降って来た影と……それから…………
「──── はるひ、だな」
低く唸るような威嚇のための声、
明らかに好意を含ませていない、そんな声、
「 ……っ 」
急に下がった血の気に眩暈を覚えながらも、心当たりの名前を小さく小さく「クラドさま?」と口に出すと、返事の代わりに大きな手がオレの肩を掴んで強引に引っ張った。
「あっ」って声がでて、名残のように繋いでいた手が引き離されそうになって、恐怖のあまりに咄嗟に縋りつくようにロカシに向かって手を伸ばす。
それをあっさりと阻んで、埃っぽいフードの奥から黒い瞳がオレを見下ろした。
「 やっと見つけた」
少し上がった息と、いつも整えられているはずの乱れた黒髪がクラドがどれだけ急いでここに来たのかをオレに教えてきて、見つかってしまったと言う怖さと同時にそこまで真剣に探してくれたのかと言う思いもあって……
「巫女が待っている、帰るぞ」
詰めた息がその言葉を聞いて喉の奥に貼り付くようで、吸えない息で苦しくて苦しくてよろけるようにして家の戸に背中をついた。
古い戸がオレの体重でたわむ感触と、それから中で物音がする。
「はるひから離れろ!」
押し退けられて怯んだ体勢を整え直して間に割入り、ロカシは翡翠色の瞳をしっかりとクラドに向けてそう怒鳴りつけた。
高い身長に黒髪黒目、耳も尾も同じ漆黒色のその獣人は、よく知る人でも睨まれれば居竦まってしまう人もいると聞いた。そんな人を相手にオレを守るようにして立ち、しっかりと前を見据える姿は頼もしくて守られているんだって思わせてくれて、震えが少し収まってくる。
「どこの者かは知らないが、はるひはテリオドス辺境伯嫡子であるロカシ・テリオドスの保護下にある!離れろ!然るべき礼儀を示せ!」
ロカシの言葉にクラドが怯むとは思えなかったが、硬質な黒い瞳で冷ややかに赤い頭を見下ろすと一歩下がってその腰に携えてる剣に手をかけた。
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