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しおりを挟む「まぁ、何はともあれ、衛兵案件ですね」
「 っ!」
エルから差し出された酒の入ったグラスを取り落としそうになり、慌てて両手で掴み直してほっとすると、追い打ちをかけるように兄の呑気な声が届く。
「そうか、とうとう王族から犯罪者が出るのか」
大袈裟に嘆く振りは完全に面白がっている際のそれだ。
近頃、かすがとのことで方々からうるさく言われてストレスが溜まっているらしいから、その発散に使うつもりなのかもしれない。
睨み返してみても、兄はトラブルの匂いを嗅ぎ取って機嫌よさげに尻尾の先端をくるくると輪にして遊んでいるだけだ。
「こちらの人族は十五で成人ですが、あちらは違いますからね」
「今更、あと二年が待てなかったか」
「かすが様の服に残ったはるひの匂いを嗅ぐだけじゃ、満足できなかったんでしょう」
「あれはかすがに横恋慕したのかとはらはらしたが……」
「事実ならば粛清案件でしたね」
酒も飲んでないのにぶわっと体中の毛穴が開いて汗が噴き出す感覚がした。
「護衛なんですから本人を直接嗅げばいいのに」
「そっ それっ それはっ」
どうして知られているんだ の言葉は詰まりすぎて出ない。
こっそりと、ほんの一瞬、魔が差しただけの話だと言うのに。
「あ、の、 あれは 」
手の熱が伝わったせいか、琥珀色の酒の匂いが一際強く鼻先をくすぐる。
「だから 」
匂いを追いかけてしまうのは未だに薄れない狼の本能だ。
気の遠くなるような昔に、この『神の箱庭』には神が気に入った物のみを思いのままに投げ込まれて作られた。そのために人が住むには適さずにこの世界の人間は滅びかけてしまったため、神は滅びゆく人への慈悲としてこの世界に適応することのできた強い動物を人と混ぜ合わせて救い給うた。
以来、獣の本能と人の文化の間で俺達は自分を律しながら生きてきたわけだが……
必要なくなったのに尾が未だあるように、本能的な部分はなかなか薄れることはない。
「 で?相談ではなくノロケを聞いて欲しかっただけか?」
俺の黒くてふさふさとした振るしか能のない尾と違い、細く長い兄の尻尾は雄弁だ。今も内面を代弁するかのように面白そうに尾が「?」の形を作っているのだから、尾の役割は当分なくならないのかもしれない。
「だ、だから、婚約許可が欲しい」
王侯貴族の婚約婚姻には王の許可がいる。
然るべき理由の有無、極端な身分差の有無、その他の余り関わらないために明るくはないが、政治に関することを加味して許可は下されるのだが、昨日今日の付き合いではない相手を傷物にしておいて許可が出ないと言うこともないだろうと高を括っていた部分もあった。
「────王族としての責務はどうする?」
ひゅ と喉から息が漏れる。
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