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しおりを挟む目の前にある細かな刺繍と宝石で作られたビーズ飾りの施された室内履きは動く気配を見せず、焦れるような時間だけが過ぎて行く。いっそ「受け入れられない」と答えてもらえれば気も楽だろうに、ただ答えを待って跪く苦痛は全身が心臓になったかのように苦しいものだった。
一際大きく、ぱしん と音が響く。
咄嗟に飛び上がりたい衝動に駆られたが、汗の滲む拳に力を入れてぐっと堪えた。
「────なるほど」
その声に顔を上げると、肉厚だが形の良い唇の端が面白そうに吊り上がり、きらりと光る理知的な瞳に宿る色合いはー……
兄から放たれていた圧が消えて、突き飛ばされたわけでもないのになぜだか体が傾いでどすんと無様に後ろ手をついた。
「ふふ 」
「 ふ 」
くつくつと喉の奥の方で堪え切れないと言う風に零れる音を耳が拾い、反射的にぴくりとそちらに耳が動く。
目の前の兄と背後のエルから聞こえるこれは……
「揶揄われたんですよ」
エルの気楽な言葉に、体中からどっと嫌な汗が噴き出す。
毛足の長い柔らかで心地よい絨毯に埋もれる手が震えて、羞恥の思いもあるがそれと同時に安堵が勝って……
「この俺の時代に、弟を他国にやる必要などない。無論、貴族の御機嫌取りもな?」
長くしなやかな白と黒の尾が大袈裟なまでに大きく振られ、不愉快だ と言う僅かな心の動きを伝えてくる。
「政治に疎いとは言え、もう少し興味を持ってくれ」
毎日剣を振るっている不格好に皮の厚い俺の手とは違い、丁寧に手入れのされて美しい光る爪のついた手が差し出され、俺を引き起こす。
気心の知れた三人だけの空間だからこそ許されることだが、嫌な汗をかく程度には脅された身としては、その甲斐甲斐しさに手を振り払って怒鳴り出したい気分だった。
「これは、怒ってもいいんだな?」
むっとそう言って二人を睨むと、兄は少し堪えたような顔をしたがエルはやはり喉の奥で笑いを堪えている。
「クルオスの八つ当たりですよ、弟がうまくいって自分が袖にされ続けてるから」
「エール!」
きつくはないが咎めるように名を呼ばれて、エルは小さく肩を竦めてグラスに口をつけてごまかした。
その様子を見るに、兄とかすがが不仲であり、未だに後継ぎを成していないことで問題が起こっていると言うのはただの噂ではないのか と、そんな思いがちらりと過る。気まずい思いで兄を盗み見るが、憮然とはしていてもそこまでこの問題を重くは見ていないようだ。
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