80 / 303
80
はるひを抱えて、更に赤ん坊に気を使いながら城まで走るのは無謀と思いラムス達に託したが、何事もなく辿り着けたようでほっと胸を撫で下ろす。
ただ……そうか、スティオンか……
むっと眉間に皺が寄りそうになったのを寸でで堪え、脳裏に浮かびそうになったスティオンの顔をもみ消した。
「クラド、今日はここまででいい」
「しかし 」
「ここまで走り通しだったと聞いている。ご苦労だったな、自身と部下を労わりまずは体を休めるといい」
「…………け 」
けれど と続けようとした言葉は尾の鳴る音にかき消される。
「 わかりました。お言葉に甘えます」
渋々立ち上がり、ディアと共に部屋を出ようとするとエルが追いかけてきて肩を叩いた。
「先程の話、疲れている時に結論を出してはいけません、今答えを出すのは得策ではないでしょう」
銀縁の眼鏡の奥の瞳に宿るのは声ほど硬質ではない柔らかな光だ。
俺のことを考えての助言なのだろうが……
「わかった。休んでから考えることにする」
そう当たり障りのない返事を返すのが精いっぱいだった。
高い天井はやけに音が響いて大きく聞こえるせいか、小さい頃は城の廊下を通るのが苦手だったことを思い出しながら医局へと急ぐ。
「はるひ様の具合は……」
「巫女様に浄化していただいたが、体力の消耗が酷くて今は休んでいる」
「間に合って本当に良かったです」
部下達に言わせると歩いても歩いても同じ見た目ばかりで、辿り着ける気のしない廊下を進み右に折れる。
磨き抜かれたガラス窓と白い窓枠、金をまぶされた豪奢な壁紙と顔が映りそうなほど光る床と……それらを見て、この場所を生活の場としていたはるひがテリオドス領での暮らしで心穏やかに暮らせていたとは思えず、思った以上に体力が下がっていたのはあちらでの生活がより過酷だったからなのでは と言う考えが過った。
ここにいた時よりもほっそりして見えたのは確かだ。
いや、実際に触れた感触だけで言うならば痩せてしまっていた。
「何が……保護下にある だ 」
ぐ と威嚇音が喉を震わせる。
鼻に皺を寄せるように顔を顰めてしまったが、ディアは数歩後ろにいるために顔を見られることがなかったのが幸いだ。
「 赤ん坊は、何事もなかったか」
「はるひ様を探して泣かれましたが、途中の村で乳が出る者に含ませて貰いましたらすぐに寝入りまして。大きな問題はそれくらいでした」
「そうか」
金地に緑の宝飾の施された医局の扉を自分の意思で潜ろうと思ったのはいつぶりだったか……
気分的には蹴破りたいところだったが、ぐっとそれを堪えて代わりにノックをした。
「はぁい」
このハスキーな声を聞くと、自然と眉間に皺が寄る。
「失礼する。こちらにラムスが来ているだろう」
「来てらっしゃいますよ?」
開きかけた扉がぐいっと引っ張られて思わずたたらを踏みそうになった俺に、どっと何かがしがみついてきた。
いや、何か とかそう言ったものではないのは良くわかっている。
あなたにおすすめの小説
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
転生?憑依? 中身おっさんの俺は異世界で無双しない。ただし予想の斜め上は行く!
くすのき
BL
最初に謝っておきます!
漬物業界の方、マジすまぬ。
&本編完結、番外編も!
この話は――三十路の男が、ある日突然、ラシェル・フォン・セウグとして異世界におりたち、ひょんな事から助けた8歳の双子と婚約して、ゴ◯チュウもどきから授かった力で回復薬(漬物味)を作って、なんか頑張るコメディーBLです!
俺は夜、社長の猫になる
衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。
ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。
言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。
タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。
けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。
転生先は猫でした。
秋山龍央
BL
吾輩は猫である。
名前はまだないので、かっこよくてキュートで、痺れるような名前を絶賛募集中である。
……いや、本当になんでこんなことになったんだか!
転生した異世界で猫になった男が、冒険者に拾われて飼い猫になるほのぼのファンタジーコメディ。
人間化あり、主人公攻め。
転生悪役弟、元恋人の冷然騎士に激重執着されています
柚吉猫
BL
生前の記憶は彼にとって悪夢のようだった。
酷い別れ方を引きずったまま転生した先は悪役令嬢がヒロインの乙女ゲームの世界だった。
性悪聖ヒロインの弟に生まれ変わって、過去の呪縛から逃れようと必死に生きてきた。
そんな彼の前に現れた竜王の化身である騎士団長。
離れたいのに、皆に愛されている騎士様は離してくれない。
姿形が違っても、魂でお互いは繋がっている。
冷然竜王騎士団長×過去の呪縛を背負う悪役弟
今度こそ、本当の恋をしよう。
売れ残りオメガの従僕なる日々
灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才)
※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!
ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。
無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。
ざまぁされたチョロ可愛い王子様は、俺が貰ってあげますね
ヒラヲ
BL
「オーレリア・キャクストン侯爵令嬢! この時をもって、そなたとの婚約を破棄する!」
オーレリアに嫌がらせを受けたというエイミーの言葉を真に受けた僕は、王立学園の卒業パーティーで婚約破棄を突き付ける。
しかし、突如現れた隣国の第一王子がオーレリアに婚約を申し込み、嫌がらせはエイミーの自作自演であることが発覚する。
その結果、僕は冤罪による断罪劇の責任を取らされることになってしまった。
「どうして僕がこんな目に遭わなければならないんだ!?」
卒業パーティーから一ヶ月後、王位継承権を剥奪された僕は王都を追放され、オールディス辺境伯領へと送られる。
見習い騎士として一からやり直すことになった僕に、指導係の辺境伯子息アイザックがやたら絡んでくるようになって……?
追放先の辺境伯子息×ざまぁされたナルシスト王子様
悪役令嬢を断罪しようとしてざまぁされた王子の、その後を書いたBL作品です。
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。