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片眉を上げて不服そうではあったが、これ以上その話をする気はなかったのか小さく肩を竦めると「特に問題はなかった」と返してくる。
「そうか」
見た目と言動はともかく王族の専属医として勤めているのだから、いい加減な診察はしないだろう。
「匂いや体質の関係もあるので、今まで使っていた物は変えない方がよろしいんですけど、肌着は何で洗っていたとか使っていた石鹸とかわかります?」
肌着を何で洗っていたのかは知らないが、黄色い汁を湯に入れていたのは覚えているし、ラムスが石鹸を見て黄色い声を上げたのは覚えている。
なんでもテリオドス領で作られる美容にいい石鹸らしく、賢者の石と呼ばれるその石鹸を使うと肌艶が増して血色がよく見えると言う。
そのために貴族女性を中心に人気なのだと言うが、血色なんか走ればそれで解決するだろうに。
「予備の哺乳瓶や当座必要な物はすぐに届けさせますよ」
「わかった」
「どちらに届ければ?」
その言葉にラムスを見下ろすが……
ゴトゥス山脈から帰り着き、その足で城を飛び出した俺に付き従い、挙句不眠不休で王都へと走った部下の顔にはさすがに疲労の色が滲んでいた。
そのまま世話をしろと言えば素直に文句も言わずに面倒をみるだろうが、ハンネスが不貞腐れていた件がふいに蘇ってくる。
巫女に連なる……つまり王族に連なる子供を間に合わせの乳母に預けることは得策ではないだろう、ましてやそれが行方不明になっていた巫女の弟の子ならば、どんな噂が立ち、どんな悪意に晒されるか想像もできない。
腹がくちくなったのか哺乳瓶の飲み口をぺっと吐き出す姿を見下ろしながら、深い溜息が一つ零れた。
ようやく眠りに就いた赤ん坊をベッドに下ろそうとした瞬間、何を感じ取ったのかビクリと体が跳ねて黒い瞳と目が合う。
「…………」
崩れ落ちたい気持ちをぐっと押さえつけながら泣き出す前に再び体を起こし、小さな背中をぽんぽんと叩きつつ部屋の中を歩き出した。
「……はるひが……常に抱いていたのは俺を警戒してではなく、下ろせなかっただけなのか…………」
いや、それでも宿屋では赤ん坊用のベッドに寝かせていたのだから、何かコツがあるのかもしくははるひと引き離されて落ち着かないだけだろう。
落ち着かないのは俺自身もで、一年振りに入った自分の部屋は相も変わらず綺麗に整えられて掃除も行き届いてはいたが、持ち主である俺に馴染まないよそよそしい雰囲気があった。
長く野営や宿暮らしが身についてしまったのか、いつも体を横たえていたベッドよりも狭苦しいソファーに身を横たえた方が落ち着く感じがする。
「あ、あー……ぅ」
うー と、威嚇のつもりかと思うもただ意味のない言葉のようで……
どうして眠らないのか明確に返事をしてくれはしないかと「なぜ眠らないんだ?」と問いかけてみる。
「ぅ゛、う!」
さんざん口に入れて涎塗れになった手でバチンと頬を張られて……
「そうか、聞いては駄目だったか。すまなかった」
そう自分を納得させてまたふらふらと室内を歩き回る。
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