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「いえ、このままで」
はにかんで嬉しそうに笑うから……勘違いしてしまいそうになるんだろう。
またよからぬ感情が首を擡げそうで、慌ててヒロをスリングから出してはるひの膝へと降ろす。
一瞬、温い場所から出されて慌てたように手足を振り回したが、親の匂いに気づいたのかすんすんと鼻を鳴らして嬉しそうに声を上げた。
「ヒロの体調は今日も問題ないそうだ、体重も順調に増えていると言っていた。少し首もしっかりしてきたしな」
「本当だ、……重い感じがします」
ふっくらとした頬を突いてはるひはにこにこと幸せそうだ。
一瞬、この幸せな空気に水を差すことはない と言う思いも過りはしたが、緩く首を振って覚悟を決める。
「 ロカシ・テリオドスと、話はできたか?」
ヒロの小さな手を弄っていた指が止まり、お互いに緊張した空気に肌がひりつくようだ。
「……はい、きちんとお礼を言うことができて、満足しました。わざわざテリオドスまで使者を出してくださったと聞きました、ありがとうございます」
満足した の意味がわからず、問い詰めたいような、けれどそれも恐ろしいような気がして「そうか」とだけ言葉が出る。
はるひは何を以って満足と言うのか?
会えたこと?
礼を言ったこと?
それとも、ロカシ・テリオドスが王に自分とのことを願い出てくれたことに対して?
「それで……あの狐とは…………」
婚姻関係を持って番になりたいのか?
簡単な言葉が喉に詰まる。
そうなんです、と言われたら?
スリングを握る手に力を込めたせいか、しっかりとした生地に不格好な皺が寄ってしまう。それを伸ばそうと試みるもうまくいかず、自分の指が震えているのだとわかったのははるひが首を振った時だった。
「手紙を、時々でいいから送れたらな と、思います」
「……手紙?」
「あ、後はお菓子とかも、できたら いいなって 」
戦場では、どんな状況でも膝の力が抜けるなんてことはなかったのに、立っていられずに思わずはるひのベッドの傍らに膝を突いた。
突然へたり込んだ俺を心配したはるひが慌てて身を乗り出すと、親に倣うように黒くつぶらな瞳が追いかけて俺を見てへにゃ と笑顔を作る。
その顔に止めを刺されて、尻までペタンと床に着けてしまうと俺が二人を見上げることになった。
「ど、どうしたんですか?」
はるひが、ロカシ・テリオドスと共に行くと言い出さなくて安堵した……とは言えず、「座りたかった」と呻くように嘘を吐く。
はぁ と止めることのできなかった溜め息を吐き出し、膝を抱えたい気持ちを押し殺しながら立ち上がろうとした瞬間、遠慮のない力が髪をぐいぐいと引っ張っぱって首が後ろへと仰け反った。
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