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ここ数日でそれが空腹の意思表示だと理解はしたが、それ以外はまだまだ良くわからないことばかりだ。
はるひはヒロの泣き声だけで判断しているそうだが……俺がその境地に到達するまで、ヒロは赤ん坊でいてくれるだろうか?
「さぁ、ヒロ様がこれ以上ごねられない内に」
そう言ってスティオンは医局の扉から俺達を押し出し、笑顔で手を振った。
見るたびにきらりと光る星を模されたオブジェの中央にはめ込まれた石が、宝石かどうか判断はつかなかったが、子供用の部屋と言うものがここまで華美なものなのかは甚だ疑問だ。
俺の部屋の隣に急遽誂えさせた部屋は内装をエルに任せてしまったためか、俺の好みでもなかったしはるひの好みでもないようだ。
薄ピンク色の耳が乳を飲むのに合わせて懸命にぴこぴこと動くのを見ながら、思わず漏れそうになった笑みを堪える。
「あっ」
「どうした?」
授乳用のソファーからこちらを見上げ、はるひが何かを言いたそうにもじもじとはにかむ。
「あの、尻尾が揺れました」
「っ 見なかったことにしてくれ」
見られたとしても行儀が悪い程度ではあるのだが、幼い頃より安易に動かさない と躾られてきた身にとっては指摘されるとなんだか気恥ずかしく、また感情を読まれたような気がして照れ臭かった。
赤くなりそうな顔を誤魔化すために隣に座り、未だ必死にはるひの乳に食らいついているヒロの頬をくすぐる。
「そう言えば、どうしてヒロなんだ?由来を聞いていなかったな」
ふと疑問に思って問うと、今度ははるひが恥じらうように目の下をぽっと赤く染めた。
「昔、兄にクラド様のことを『戦隊もの』の主人公みたいって言ったんです。そうしたら『確かにヒーローっぽいね』って返されて」
ところどころ入った向こうの言葉は良くわからなかったが、「ヒロ」と言う響きは聞き取れた。いや、はるひ達の言葉は俺達の言葉よりももう少しゆったりしているから「ヒーロー」の発音が正しいのか?
ふふふ と懐かしそうに笑うはるひの胸元に目を遣ると、乳を飲みながら眠ってしまったのかヒロが健やかな寝息を立てている。
「そこから、ヒロと付けました、クラド様のようになって欲しかったから」
照れくさそうに言ってはくれるが、言葉足らずでさんざん泣かせた俺のようになって欲しいと言うのは、いささか気にかかるところだ。
可能な限り素直に、そして誤解を招くような言動をしない子に育って欲しいと思う。
「クラド様?」
「言語教育だけはしっかりとさせるようにしよう」
俺の言葉に、一瞬きょとんとしたはるひだったが何を言いたいのか理解した瞬間にふふ と吹き出し、うっすらと滲んだ涙を指先で拭う。
「そうですね」
笑われて、けれどそれが心地よくてはるひの肩に手をまわした。
ふわふわとした髪と、自分より僅かに低く感じる体温は、護って温めてやらなければと思わせる。
小さな温もりと共に憩う心地よさに、俺の尾がぱたりと動いたのを感じた。
END.
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