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おまけ 54
しおりを挟む「っ はるひは、次期国母です……それを……見殺しになんて 」
かろうじで吐き出した言葉に兄は一瞬の躊躇も見せずに首を振る。
「只人の生母より、ゴトゥスを浄化した巫女が義母の方がヒロの将来のためだろう」
「 ──── は ?」
俺が尋ね返した声を兄は聞こえないふりをしたし、エルは僅かに眉間に皺を寄せて顔を逸らして見せた。
「それ は 」
今度はエルが止めに入る前に兄に掴みかかると、美しく光を弾くように織られた襟を掴んで力任せに壁に叩きつける。
不敬だ と咎めることもできるだろうに、兄はそれを甘んじて受けて避ける気配を見せなかった。
「ヒロを ヒロまで 」
「そうすればヒロは国王と救国の巫女との息子と言うことになる。軽んじられることはないだろう」
「 っ‼︎」
振り上げた拳を叩きつけようと振り上げたが、こちらを真っ直ぐに揺らぐことのない瞳で見つめる兄に対してその暴挙は行えなかった。
兄は兄で、国を背負う者として決断してはいけないこの問題に、判断を下したのだ。
優先させるべき者を……
優先させるべき事を……
はるひを溺愛するかすがが、兄がこの判断をしたと知った時にどう言う行動に出るか、兄ならば十二分にわかっているだろうに。
兄が弟を見捨てたのだと知った時、かすがは兄に対してどう言う気持ちを抱くのか、想像は簡単だった。
それでも、はるひを救出に向かわないと決めたのは、兄の双肩にこの国の人々の命や生活が圧し掛かっているからだ。
「……っ」
それが、兄の決意だ。
俺が手を離しても兄はよろめきもしない。
虎獣人である兄と狼獣人である俺とでは膂力の根底自体が圧倒的に違う。
あっさりと、払い除けることもできただろうに。
「王として、国の騎士であるお前が城を離れることを許可することは出来ない」
「…………」
ぶるぶると震える手が腰の飾りに伸ばされる。
「お前も国の騎士ならば、理解しろ」
俺のベルト飾りには当代王を象った青い石で作られたカメオがついていて、それは王の傍に控える騎士であることを証明するための誉れあるものだった。
授与されて以来、肌身離さずに常に身につけていたもので、この身から離したことはなかった。
「……陛下」
「 」
引き結ばれて動くことのない表情と言葉に、呼びかける名を変えた。
「兄上」
「なんだ」
一度、深く息を吸い込む。
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