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おまけ 140
白と言うには暗いし、だからと言って闇と言うには眩しすぎる空間は不安を駆り立ててくるから、長い時間は眺めていられずに目をそらさなくてはならなかった。
すがるような気分で隣の「かすが」と書かれた部屋に入ってみる。
ここは……たくさんここで遊んでいたせいか、さっきの自分の部屋よりもいろいろなものがあった。
かすが兄さんが勉強していた机、オレのものと同じベッドと青い布団、それから少し毛足の長い黄緑のカーペットにいろんな本を詰め込んだ本棚。
けれどその本棚の中身も、ぎっしり詰まっていた記憶はあったけれどもすべての題名を覚えているわけではないせいで、よく読んでいた絵本以外の題名はほぼ真っ白だった。
「……」
懐かしい と言うにはあまりにも抜け落ちの多い空間。
幼い頃に召喚に巻き込まれて以来、記憶でしか存在しなかった場所。
覚えていないなりに幾度も思い返して懐かしんで、しっかりと心に刻んでいたと思っていただけに……自分が元の世界のことをほんのわずかしか覚えていないことに、ぎゅっと胸を押さえられたかのような苦しさを感じた。
ここは、オレの記憶の世界なのだとコリン=ボサは言った。
巫女が神に会う場所なのだと……
勉強机に近づいて、オレがおもちゃを投げてつけてしまった傷を撫でる。
こう言った部分は覚えているけれど机の上にはもう少しものがあったように思えて、けれど何もないことのうら寂しさに振り返った。
「兄も、ここに来るのでしょうか?」
「はるひの記憶ではないが、かすがの記憶には来るな」
そう言うとクラドの容姿でコリン=ボサは本棚の本を手に取ってぱらぱらとめくり始める。
かすが兄さんが召喚された年齢ならオレの記憶よりもずいぶんといろんなことを覚えているだろうと思うと、今この場にある家とかすが兄さんの記憶にある家はまったく違うと言うことなんだろう。
オレが忘れてしまっている箇所を一つ一つ指でなぞって……
「兄はもう少し、いろいろなことを覚えているのでしょうか?」
「そうだな」
「……そう、なのですね」
巫女の力は秘匿のものだと、かすが兄さんは詳しい話をオレにしてくれたことはなかった。
神に会って神の力を吸収して戻り、そして世の中を浄化するのだ と。
「私は、戻るために何をすればいいのでしょうか?」
「何も」
「え……」
真っ白な本のページをめくっていた手が止まり、銀の瞳が柔らかくオレを見つめる。
「巫女はここに来るだけでいい」
「儀式は? お力を分けていただくための……」
「そんなものはない、巫女ならばな」
「……けれど私は巫女ではありません」
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