蒼穹の裏方

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第6章 18気筒エンジン

6.3章 MK5Aの開発本格化

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 昭和13年4月になると、海軍から「18気筒発動機の検討依頼書」が発出された。この時点では、三菱の開発部隊は金星50型の開発を完了していたので、すぐに18気筒発動機の設計に着手した。

 三菱では、今までは開発する発動機の機種ごとに、必要な設計人員を割り当てて、そのグループで担当発動機を全て設計する体制としていた。ところが18気筒発動機の設計からは、その発動機固有の担当技術者として全体の開発担当のみを一定数配置することとした。発動機各部の設計については、発動機の構成機能部ごとに担当グループを専門部隊として編成して、そのグループが担当分野の設計を行う体制に変更した。従って、他の発動機がまだ開発中であっても、専門グループは担当部分の設計が終われば、次の発動機の設計が可能となった。更に専門領域が指定されたので、その分野の技術を短時間で高めることが可能となった。試作機による動作確認は、全体の担当グループが性能と機能に責任を持つことと変更された。

 昭和13年5月に佐々木技師が18気筒発動機の取りまとめとして開発主任に就任して方針を提示すると、各専門グループが担当範囲の設計に着手した。深尾所長からの最優先で開発せよとの指示で、ベテラン技術者も最初からこの発動機開発に参加した。

 6月になって航空本部名でMK5Aの開発要求が発出されると要求性能が明らかになった。『性能は2,100馬力を達成のこと、可能なれば2,300馬力』が要求された。過給機については1段2速過給器が要求されて、段階的に2段過給機に移行するとされていた。なお、航空廠からは、空冷性能を改善した気筒及び、水・メタノール噴射と燃料噴射、振動対策等については金星50型で実証されている技術の採用を期待するとの意向が示された。佐々木技師は航空廠の意向は実質的には指示と受け取ったが、特に反対するような内容は存在していなかった。

 私と永野技師、松崎技師と菊地技師の4名は、7月になると三菱で作成された発動機の詳細構成案を含む開発計画に対して審議を行った。おおむね、発動機の構成や機能については、航空廠から希望した事項の実現案も含めて想定外の事項はなく、その点では意外性の少ない打ち合わせとなった。

 私から感謝を述べた。ついでに誉の知識を思い出して話してみる。
「MK5Aの設計が順調に進んでいることに感謝します。金星開発ではいろいろなことをお願いしましたが、今回の開発はそれらの実績が生かせることになり、今後も開発が滞りなく進んでいくことを期待しています。今まではあまり重量に対する意見を述べませんでしたが、18気筒化では重量が1トン近くになると想定されます。航空機に搭載される発動機ですので、軽量化の視点でも考慮をお願いします。例えば、クランクケースについては、ジュラルミンから鍛造の鋼製化などが考えられると思います」

 佐々木技師が回答する。
「なるほどクランクケースの鋼製化ですか、さっそく検討します。型鍛造をした後の大型部材からの削り出しをどのようにするかの検討が必要ですね」

 誉の影響を受けて、後に史実のハ-43でもこれは採用したはずなので、今回も同様の結果になるように助言しておいた。

 三菱では、MK5Aで初めて採用することとなった、シリンダヘッドの二度鋳造植込み法については、実験を繰り返して慎重に準備を進めていた。このため、航空廠と共同で研究をしていた正田飛行機に対して、生産担当の技術者と生産現場の管理者を送り込んで技術を習得させた。加えて、正田飛行機の製造現場で使用されている鋳造機器や治具などと同様の機器を購入して、三菱の工場に設置した。従来の気筒ヘッドの製造ラインの横にこれらの機器による新規の製造ラインを構築して量産の準備をした。この結果、量産エンジンの気筒ヘッドの冷却フィンのピッチを3.5mm、フィン厚1.0mmとして溝の深さも改善することが可能となった。

 また、燃料噴射装置については、今まで14気筒対応だったので、18気筒版へと設計変更を行い、先行して試験治具で検証を実施している。また、金星に水メタノール噴射装置を追加して試験した結果から、ガソリンの噴射量に連動するように、水メタノール噴射量を調整しないと燃焼が安定しないことが判明した。

 検討の結果、ガソリン噴射量自動調整装置と類似の機構により、過給圧やエンジン回転数に応じて水メタノールの噴射量を厳密に制御することが必要だと判明した。しかし、新規の制御装置は直ぐには入手できないことから、簡易制御機構で常に水メタノール噴射量を少ない方向に制御するという安全側の制御を対策とした。水メタノール噴射量を減少させれば、ブースト圧も下げる必要があり、最大馬力の低下につながる。この問題発生により、杉原技師は、改良型の燃料噴射と水メタノール噴射双方の機能を一体化する装置開発を開始することになった。
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