26 / 184
第6章 18気筒エンジン
6.3章 MK5Aの開発本格化
しおりを挟む
昭和13年4月になると、海軍から「18気筒発動機の検討依頼書」が発出された。この時点では、三菱の開発部隊は金星50型の開発を完了していたので、すぐに18気筒発動機の設計に着手した。
三菱では、今までは開発する発動機の機種ごとに、必要な設計人員を割り当てて、そのグループで担当発動機を全て設計する体制としていた。ところが18気筒発動機の設計からは、その発動機固有の担当技術者として全体の開発担当のみを一定数配置することとした。発動機各部の設計については、発動機の構成機能部ごとに担当グループを専門部隊として編成して、そのグループが担当分野の設計を行う体制に変更した。従って、他の発動機がまだ開発中であっても、専門グループは担当部分の設計が終われば、次の発動機の設計が可能となった。更に専門領域が指定されたので、その分野の技術を短時間で高めることが可能となった。試作機による動作確認は、全体の担当グループが性能と機能に責任を持つことと変更された。
昭和13年5月に佐々木技師が18気筒発動機の取りまとめとして開発主任に就任して方針を提示すると、各専門グループが担当範囲の設計に着手した。深尾所長からの最優先で開発せよとの指示で、ベテラン技術者も最初からこの発動機開発に参加した。
6月になって航空本部名でMK5Aの開発要求が発出されると要求性能が明らかになった。『性能は2,100馬力を達成のこと、可能なれば2,300馬力』が要求された。過給機については1段2速過給器が要求されて、段階的に2段過給機に移行するとされていた。なお、航空廠からは、空冷性能を改善した気筒及び、水・メタノール噴射と燃料噴射、振動対策等については金星50型で実証されている技術の採用を期待するとの意向が示された。佐々木技師は航空廠の意向は実質的には指示と受け取ったが、特に反対するような内容は存在していなかった。
私と永野技師、松崎技師と菊地技師の4名は、7月になると三菱で作成された発動機の詳細構成案を含む開発計画に対して審議を行った。おおむね、発動機の構成や機能については、航空廠から希望した事項の実現案も含めて想定外の事項はなく、その点では意外性の少ない打ち合わせとなった。
私から感謝を述べた。ついでに誉の知識を思い出して話してみる。
「MK5Aの設計が順調に進んでいることに感謝します。金星開発ではいろいろなことをお願いしましたが、今回の開発はそれらの実績が生かせることになり、今後も開発が滞りなく進んでいくことを期待しています。今まではあまり重量に対する意見を述べませんでしたが、18気筒化では重量が1トン近くになると想定されます。航空機に搭載される発動機ですので、軽量化の視点でも考慮をお願いします。例えば、クランクケースについては、ジュラルミンから鍛造の鋼製化などが考えられると思います」
佐々木技師が回答する。
「なるほどクランクケースの鋼製化ですか、さっそく検討します。型鍛造をした後の大型部材からの削り出しをどのようにするかの検討が必要ですね」
誉の影響を受けて、後に史実のハ-43でもこれは採用したはずなので、今回も同様の結果になるように助言しておいた。
三菱では、MK5Aで初めて採用することとなった、シリンダヘッドの二度鋳造植込み法については、実験を繰り返して慎重に準備を進めていた。このため、航空廠と共同で研究をしていた正田飛行機に対して、生産担当の技術者と生産現場の管理者を送り込んで技術を習得させた。加えて、正田飛行機の製造現場で使用されている鋳造機器や治具などと同様の機器を購入して、三菱の工場に設置した。従来の気筒ヘッドの製造ラインの横にこれらの機器による新規の製造ラインを構築して量産の準備をした。この結果、量産エンジンの気筒ヘッドの冷却フィンのピッチを3.5mm、フィン厚1.0mmとして溝の深さも改善することが可能となった。
また、燃料噴射装置については、今まで14気筒対応だったので、18気筒版へと設計変更を行い、先行して試験治具で検証を実施している。また、金星に水メタノール噴射装置を追加して試験した結果から、ガソリンの噴射量に連動するように、水メタノール噴射量を調整しないと燃焼が安定しないことが判明した。
検討の結果、ガソリン噴射量自動調整装置と類似の機構により、過給圧やエンジン回転数に応じて水メタノールの噴射量を厳密に制御することが必要だと判明した。しかし、新規の制御装置は直ぐには入手できないことから、簡易制御機構で常に水メタノール噴射量を少ない方向に制御するという安全側の制御を対策とした。水メタノール噴射量を減少させれば、ブースト圧も下げる必要があり、最大馬力の低下につながる。この問題発生により、杉原技師は、改良型の燃料噴射と水メタノール噴射双方の機能を一体化する装置開発を開始することになった。
三菱では、今までは開発する発動機の機種ごとに、必要な設計人員を割り当てて、そのグループで担当発動機を全て設計する体制としていた。ところが18気筒発動機の設計からは、その発動機固有の担当技術者として全体の開発担当のみを一定数配置することとした。発動機各部の設計については、発動機の構成機能部ごとに担当グループを専門部隊として編成して、そのグループが担当分野の設計を行う体制に変更した。従って、他の発動機がまだ開発中であっても、専門グループは担当部分の設計が終われば、次の発動機の設計が可能となった。更に専門領域が指定されたので、その分野の技術を短時間で高めることが可能となった。試作機による動作確認は、全体の担当グループが性能と機能に責任を持つことと変更された。
昭和13年5月に佐々木技師が18気筒発動機の取りまとめとして開発主任に就任して方針を提示すると、各専門グループが担当範囲の設計に着手した。深尾所長からの最優先で開発せよとの指示で、ベテラン技術者も最初からこの発動機開発に参加した。
6月になって航空本部名でMK5Aの開発要求が発出されると要求性能が明らかになった。『性能は2,100馬力を達成のこと、可能なれば2,300馬力』が要求された。過給機については1段2速過給器が要求されて、段階的に2段過給機に移行するとされていた。なお、航空廠からは、空冷性能を改善した気筒及び、水・メタノール噴射と燃料噴射、振動対策等については金星50型で実証されている技術の採用を期待するとの意向が示された。佐々木技師は航空廠の意向は実質的には指示と受け取ったが、特に反対するような内容は存在していなかった。
私と永野技師、松崎技師と菊地技師の4名は、7月になると三菱で作成された発動機の詳細構成案を含む開発計画に対して審議を行った。おおむね、発動機の構成や機能については、航空廠から希望した事項の実現案も含めて想定外の事項はなく、その点では意外性の少ない打ち合わせとなった。
私から感謝を述べた。ついでに誉の知識を思い出して話してみる。
「MK5Aの設計が順調に進んでいることに感謝します。金星開発ではいろいろなことをお願いしましたが、今回の開発はそれらの実績が生かせることになり、今後も開発が滞りなく進んでいくことを期待しています。今まではあまり重量に対する意見を述べませんでしたが、18気筒化では重量が1トン近くになると想定されます。航空機に搭載される発動機ですので、軽量化の視点でも考慮をお願いします。例えば、クランクケースについては、ジュラルミンから鍛造の鋼製化などが考えられると思います」
佐々木技師が回答する。
「なるほどクランクケースの鋼製化ですか、さっそく検討します。型鍛造をした後の大型部材からの削り出しをどのようにするかの検討が必要ですね」
誉の影響を受けて、後に史実のハ-43でもこれは採用したはずなので、今回も同様の結果になるように助言しておいた。
三菱では、MK5Aで初めて採用することとなった、シリンダヘッドの二度鋳造植込み法については、実験を繰り返して慎重に準備を進めていた。このため、航空廠と共同で研究をしていた正田飛行機に対して、生産担当の技術者と生産現場の管理者を送り込んで技術を習得させた。加えて、正田飛行機の製造現場で使用されている鋳造機器や治具などと同様の機器を購入して、三菱の工場に設置した。従来の気筒ヘッドの製造ラインの横にこれらの機器による新規の製造ラインを構築して量産の準備をした。この結果、量産エンジンの気筒ヘッドの冷却フィンのピッチを3.5mm、フィン厚1.0mmとして溝の深さも改善することが可能となった。
また、燃料噴射装置については、今まで14気筒対応だったので、18気筒版へと設計変更を行い、先行して試験治具で検証を実施している。また、金星に水メタノール噴射装置を追加して試験した結果から、ガソリンの噴射量に連動するように、水メタノール噴射量を調整しないと燃焼が安定しないことが判明した。
検討の結果、ガソリン噴射量自動調整装置と類似の機構により、過給圧やエンジン回転数に応じて水メタノールの噴射量を厳密に制御することが必要だと判明した。しかし、新規の制御装置は直ぐには入手できないことから、簡易制御機構で常に水メタノール噴射量を少ない方向に制御するという安全側の制御を対策とした。水メタノール噴射量を減少させれば、ブースト圧も下げる必要があり、最大馬力の低下につながる。この問題発生により、杉原技師は、改良型の燃料噴射と水メタノール噴射双方の機能を一体化する装置開発を開始することになった。
93
あなたにおすすめの小説
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
戦神の星・武神の翼 ~ もしも日本に2000馬力エンジンが最初からあったなら
もろこし
歴史・時代
架空戦記ファンが一生に一度は思うこと。
『もし日本に最初から2000馬力エンジンがあったなら……』
よろしい。ならば作りましょう!
史実では中途半端な馬力だった『火星エンジン』を太平洋戦争前に2000馬力エンジンとして登場させます。そのために達成すべき課題を一つ一つ潰していく開発ストーリーをお送りします。
そして火星エンジンと言えば、皆さんもうお分かりですね。はい『一式陸攻』の運命も大きく変わります。
しかも史実より遙かに強力になって、さらに1年早く登場します。それは戦争そのものにも大きな影響を与えていきます。
え?火星エンジンなら『雷電』だろうって?そんなヒコーキ知りませんw
お楽しみください。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
改造空母機動艦隊
蒼 飛雲
歴史・時代
兵棋演習の結果、洋上航空戦における空母の大量損耗は避け得ないと悟った帝国海軍は高価な正規空母の新造をあきらめ、旧式戦艦や特務艦を改造することで数を揃える方向に舵を切る。
そして、昭和一六年一二月。
日本の前途に暗雲が立ち込める中、祖国防衛のために改造空母艦隊は出撃する。
「瑞鳳」「祥鳳」「龍鳳」が、さらに「千歳」「千代田」「瑞穂」がその数を頼みに太平洋艦隊を迎え撃つ。
本能寺からの決死の脱出 ~尾張の大うつけ 織田信長 天下を統一す~
bekichi
歴史・時代
戦国時代の日本を背景に、織田信長の若き日の物語を語る。荒れ狂う風が尾張の大地を駆け巡る中、夜空の星々はこれから繰り広げられる壮絶な戦いの予兆のように輝いている。この混沌とした時代において、信長はまだ無名であったが、彼の野望はやがて天下を揺るがすことになる。信長は、父・信秀の治世に疑問を持ちながらも、独自の力を蓄え、異なる理想を追求し、反逆者とみなされることもあれば期待の星と讃えられることもあった。彼の目標は、乱世を統一し平和な時代を創ることにあった。物語は信長の足跡を追い、若き日の友情、父との確執、大名との駆け引きを描く。信長の人生は、斎藤道三、明智光秀、羽柴秀吉、徳川家康、伊達政宗といった時代の英傑たちとの交流とともに、一つの大きな物語を形成する。この物語は、信長の未知なる野望の軌跡を描くものである。
札束艦隊
蒼 飛雲
歴史・時代
生まれついての勝負師。
あるいは、根っからのギャンブラー。
札田場敏太(さつたば・びんた)はそんな自身の本能に引きずられるようにして魑魅魍魎が跋扈する、世界のマーケットにその身を投じる。
時は流れ、世界はその混沌の度を増していく。
そのような中、敏太は将来の日米関係に危惧を抱くようになる。
亡国を回避すべく、彼は金の力で帝国海軍の強化に乗り出す。
戦艦の高速化、ついでに出来の悪い四姉妹は四一センチ砲搭載戦艦に改装。
マル三計画で「翔鶴」型空母三番艦それに四番艦の追加建造。
マル四計画では戦時急造型空母を三隻新造。
高オクタン価ガソリン製造プラントもまるごと買い取り。
科学技術の低さもそれに工業力の貧弱さも、金さえあればどうにか出来る!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる