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第12章 第二次ハワイ作戦
12.8章 誘引作戦
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1月23日へと日付が変わると、暗いうちから日本海軍の作戦が始動した。まだ夜明け前の薄暗いミッドウェーイースタン島の飛行場を3機の大型機が次々と離陸していった。暗い空に上昇してゆく4発機のシルエットが浮かび上がる。よく見ると胴体下部がぷっくりと膨らんでいる。高出力の電探を搭載した電探警戒型の連山が、南西のハワイ諸島の方位に機首を向けて、最も早く行動を開始した。
同じころ、ミッドウェー環礁内から3機の二式大艇が水しぶきを上げて離水していった。二式大艇は、連山とは異なりハワイ諸島の北端の島であるカウアイ島の更に北東側の海域を目指した。
飛行場では、電探警戒機が離陸してしばらくしてから、多数の連山が誘導路を滑走路端に進んでくると、長い距離を滑走して次々と離陸していった。離陸距離から、機内に燃料と爆弾を満載しているのがわかる。離陸していった機体は、合計12機になった。南東方向のハワイ諸島に向けて飛行しながら、速度を微調整して12機は1群の編隊となった。
先行してオアフ島西海域に飛行していた電探警戒型の連山が、米艦隊の動きを最初に探知した。前日に探知していた米機動部隊の位置を基準にして、オアフ島の西側から探索を開始した。やがて、島から見て西北西の海域に大型艦を含む複数の艦艇を電探で探知した。同じころ、オアフ島の西側を大きく回り込んで、島に接近するように飛行していたもう1機の電探警戒機が、別の艦艇群を電探で発見した。これも大型艦を含む複数の艦隊だ。
……
大淀艦上では、電探警戒機が探知した情報を、状況表示盤上に駒として張り付けていった。
状況表示盤を指さしながら、宇垣少将が自分の考えを述べた。
「山口長官、電探で探知したこの2隊の艦艇群は、まだ目視では確認していませんが、大型艦を含んでいることから間違いなく米軍の機動部隊です。恐らく、もう一群もオアフ島西北から西南方向の扇型海域のどこかにいるはずですので、まもなく見つかると思います。現在の米軍機動部隊が位置する海域は、我々が想定していた範囲に入っています。この位置は、これからの作戦の実行を妨げるものではありません。今の状況で作戦を発動して問題ないと考えます」
「そうだな、これ以上待つのは時間の浪費だ。現時点から行動開始だ。機動部隊と、攻略部隊、それにミッドウェー基地など、関係の部隊に作戦開始を伝えてくれ」
山口長官の決定を聞いて、周囲の参謀が動き出す。通信参謀の和田中佐も通信士官に指示している。多数の相手に作戦行動開始を伝えなければならないのだ。優先すべきは前線に航空機を既に飛ばしているミッドウェー基地の部隊と、オアフ島の西海域に向けて航行している連合艦隊の各空母部隊だ。
連絡を始めた直後に、オアフ島の南西海域を飛行していた電探警戒機から報告が入ってきた。
「長官、3つ目の米艦隊を発見したとのことです。オアフ島から南西に100浬(185km)程度、離れた海上を航行しています。これで全ての米艦隊の位置が判明しました。なお引き続き、電探警戒機は索敵を続けています。4番目の艦隊が出てこないとも限りませんから」
……
夜明け直前の薄明りの中で、ミッドウェー島から飛来した3機の二式大艇がハワイ諸島へと近づいていた。地上はまだ暗いが上空から見ていると、次第に夜明け前のオレンジ色の明りが東の空から広がってくる。カウアイ島の北東の海域へと飛行した二式大艇のうちの2機は飛行ルートを東方へ進んでいった。残りの1機はそれよりも西側を飛行していた。オアフ島は二式大艇の南東方側にあるはずだが、距離が離れているのでまだ見えていない。二式大艇は徐々に高度を上げてゆくと、高度7,000mまで上昇した。3機の二式大艇は同じ緯度で、西側から東側に一列になる位置で飛行していた。各機が決めた位置に達してしばらくすると、山口大将の作戦開始の決定が二式大艇の部隊にも伝えられた。
二式大艇2号機の大石中尉も基地経由で連合艦隊からの指令を受信した。それを機内の各搭乗員に伝える。
「基地から命令が来たぞ。作戦開始だ。米軍の機動部隊はハワイ西側の海域で北西から、真西と西南西の方面に位置していることを確認した。よって、我々はオアフ島北側の空域で作戦行動を開始する」
わかってはいたが、あえて主操縦士の加藤上飛曹が確認した。
「ということは、我々が飛行している事前に決めた現在位置で、散布を開始して問題ないということですね」
「そのとおりだ。加藤上飛曹、機首を真東に向けてくれ。各員、散布作業の準備を開始せよ」
しばらくして、加藤上飛曹が速度を落として機体の方位を安定させたことを報告する。
「飛行方位、真東、速度150ノット(278km/h)、直進飛行が安定しました」
「よしっ。散布開始。電波攪乱紙を散布せよ」
二式大艇は、作戦計画に従って、主翼付け根後方の胴体左右側面にあるブリスター型銃座の窓を開いて搭載していた荷物を次々と空中に落とし始めた。機内では、手の空いた搭乗員が酸素マスクをつけてバケツリレー方式で投下作業員に荷物を渡してゆく。後方に向けて投下すると、荷物から出た紐の一端につけられた布切れが風に流されていく。機体の後方で、布切れが小型の落下傘を引き出した。落下傘が開くと。その張力で荷物の底面につけられた切れ目が裂けて開口部から内容物が空中へとばら撒かれ始めた。
空中に広がっていった内容物が飛散してキラキラと光っている。二式大艇は繰り返し百個あまりの荷物を空中に落とした。1つが10kgとしても総計1トンの荷物だ。他の2機の二式大艇もそれぞれ3浬(5.6km)程度離れた空域で、同じ荷物を投下していた。3機の二式大艇が投下した荷物からばら撒かれたのは、オアフ島の電探で使用されている周波数を想定して、波長に合わせた長さに加工されたアルミ箔だった。厳密には、薄い紙にアルミを蒸着させて、短冊状に切断したものだ。電探の波長が複数存在していることも考慮して、無数のほうとう麺を異なる長さに切ったような短冊が放出された。
西から東にかけて、およそ長辺が15kmの長方形の領域に攪乱紙がばら撒かれた。偏西風に加えて、当日のハワイの気象も考慮して、上空の風が、東南東に向かって吹いている前提で散布している。これで、電探には、カウアイ島の北東の方向から徐々に東南東に移動して、オアフ島の北岸に近づいている反射波が映るはずだ。
……
散布後しばらくして、オアフ島の北側のオバナポイントのレーダーが、最初に目標を探知した。探知レーダーが、海岸の北側から100マイル(161km)離れた上空から大きな反射波を受信した。既に太陽が顔を出して、空は徐々に明るくなっていた。ハワイ方面陸軍司令長官のエモンズ中将は、日本軍が接近している非常事態なので、司令部に待機していた。
司令官室まで走ってやってきた通信士官が、早口で報告を始めた。
「オアフ島の北方海上にレーダーが未知の編隊を探知しました。オバナポイントのレーダー基地が西の海上約100マイルに編隊を探知しています。電波の反射が非常に大きいことから、大編隊と想定されます。続いて、カワイロアのレーダーでも同じ編隊を北方に探知しています。この時間に陸軍も海軍も編隊を飛行させていないことは確認済みです。私は、日本軍の艦載機によるオアフ島への攻撃だと判断します」
エモンズ中将は黙って報告を聞いてから、しばらく机の上に視線を落として考えていた。彼は、オアフ島航空部隊の指揮官として、左遷された前任者のようにならないためには、迅速に行動することが必要だと日頃から考えていた。基地に航空機を置いておけば、前回のように地上で撃破される可能性が高い。同じ間違いを避けるには、とにかく航空機を早く空に上げてしまうことだ。
「わかった。100マイルの距離を飛んできて、この島の基地への攻撃を開始するまでには、1時間もかからないだろう。これから、私は航空隊指揮官のダグラス少将に命令を出す。手遅れにならないうちに、わが軍の戦闘機隊をすぐに発進させよう。取り決めに従って海軍のマケイン大将にも通知する。海軍からも戦闘機を出してくれるだろう。君は敵編隊の情報を監視してくれ。オアフ島に向けて敵編隊が飛行してくれば、もっと多くのレーダーが探知するはずだ。敵の状況に変化があったら、直ちに報告してくれ。」
航空隊指揮官のダグラス少将はオアフ島基地の陸軍部隊の出撃を命じた。前日から日本艦隊が接近してくることはわかっていた。従って、オアフ島の基地航空隊は臨戦態勢で、いつでも出撃可能な準備をしていた。命令を受けて、直ちに迎撃戦闘機の離陸が始まった。
太平洋艦隊司令長官のマケイン長官にも、陸軍のレーダー基地が大編隊を探知したことはすぐに伝えられた。長官は、海兵隊のヴァンデグリフト少将とオアフ島海軍基地航空隊の指揮官であるマレー少将に航空部隊の出撃を要請した。
二人の少将は、直ちに麾下の航空部隊に出撃を命じた。まずは戦闘機隊に北方への迎撃を命じて、次に爆撃隊には、オアフ島の東方海上への空中避難を命じた。
しばらくして、マクモリス少将が、戦闘機の出撃が始まったことをマケイン長官に報告に来た。
「長官、海兵隊と海軍の戦闘機隊による迎撃を指示しました。各基地から戦闘機が発進しています。なお爆撃隊には、攻撃による被害を避けるために東方海上への避難を命じました」
「了解だ。マクモリス少将、オアフ島の全ての基地に日本軍の編隊が攻撃して来ることを通知してくれ。地上の対空砲も戦闘配備につかせる必要があるぞ。真珠湾内に残る艦艇にも戦闘配備につくように伝えるのだ。それと追加の偵察機を出してくれ。全ての敵の機動部隊がハワイの北側に回ったとは考えにくい。別の方面から仕掛けてくる可能性があるぞ」
……
一航戦や二航戦、五航戦などの機動部隊は、オアフ島陸軍の4発爆撃機から攻撃を受けて以降、夜間攻撃を警戒していた。昨夜は西方か南方に移動して、オアフ島から距離をとっていた。それが夜明け前には、米機動部隊に接近するように、オアフ島方向に艦隊の向きを変えた。山口長官からの作戦開始の指示を受けてからは、3群に分かれた米艦隊を攻撃範囲に収めるために全速で接近を開始していた。
……
オアフ島の北方でアルミの電波攪乱紙をばらまいた二式大艇は、しばらくハワイ北方海域で索敵を続けていたが、北側では米軍の艦隊を発見できなかった。その二式大艇が最初に米軍の航空機と接触することになった。
通信員の橘一飛曹が探知を報告した。
「電探に感あり、50浬(93km)に大編隊の航空機を探知。北に向けて飛行中です」
すぐに大石中尉が答える。
「攪乱紙にひっかかったな、すぐに連合艦隊司令部に報告してくれ。攻撃されてはたまらんから、退避するぞ。真北に向けて飛行する」
通信を担当していた川上二飛曹が二式大艇1号機の無線報告を捕まえた。
「1号機も、オアフ島から飛び立った米軍機を探知したようです。現状空域から北方に退避してゆくことを連合艦隊司令部に報告しています」
「わかった、これで作戦の第一段階はうまく進んでいるということだな」
……
オアフ島の基地航空隊からの離陸と北側への飛行状況は、連合艦隊司令部に通知された。
報告を受けて、直ちに山口長官が命令を発出した。
「オアフ島の米軍機が北方への飛行を開始した。各空母部隊に転電してくれ。計画通りだ。基地航空機が誘引されている間に、攻撃隊の発進を命令する。一航戦から五航戦の各空母部隊は、敵が攻撃可能な距離に入ったら、攻撃隊を発進させよ。ミッドウェーの連山隊も可及的速やかに米艦隊を攻撃せよ」
同じころ、ミッドウェー環礁内から3機の二式大艇が水しぶきを上げて離水していった。二式大艇は、連山とは異なりハワイ諸島の北端の島であるカウアイ島の更に北東側の海域を目指した。
飛行場では、電探警戒機が離陸してしばらくしてから、多数の連山が誘導路を滑走路端に進んでくると、長い距離を滑走して次々と離陸していった。離陸距離から、機内に燃料と爆弾を満載しているのがわかる。離陸していった機体は、合計12機になった。南東方向のハワイ諸島に向けて飛行しながら、速度を微調整して12機は1群の編隊となった。
先行してオアフ島西海域に飛行していた電探警戒型の連山が、米艦隊の動きを最初に探知した。前日に探知していた米機動部隊の位置を基準にして、オアフ島の西側から探索を開始した。やがて、島から見て西北西の海域に大型艦を含む複数の艦艇を電探で探知した。同じころ、オアフ島の西側を大きく回り込んで、島に接近するように飛行していたもう1機の電探警戒機が、別の艦艇群を電探で発見した。これも大型艦を含む複数の艦隊だ。
……
大淀艦上では、電探警戒機が探知した情報を、状況表示盤上に駒として張り付けていった。
状況表示盤を指さしながら、宇垣少将が自分の考えを述べた。
「山口長官、電探で探知したこの2隊の艦艇群は、まだ目視では確認していませんが、大型艦を含んでいることから間違いなく米軍の機動部隊です。恐らく、もう一群もオアフ島西北から西南方向の扇型海域のどこかにいるはずですので、まもなく見つかると思います。現在の米軍機動部隊が位置する海域は、我々が想定していた範囲に入っています。この位置は、これからの作戦の実行を妨げるものではありません。今の状況で作戦を発動して問題ないと考えます」
「そうだな、これ以上待つのは時間の浪費だ。現時点から行動開始だ。機動部隊と、攻略部隊、それにミッドウェー基地など、関係の部隊に作戦開始を伝えてくれ」
山口長官の決定を聞いて、周囲の参謀が動き出す。通信参謀の和田中佐も通信士官に指示している。多数の相手に作戦行動開始を伝えなければならないのだ。優先すべきは前線に航空機を既に飛ばしているミッドウェー基地の部隊と、オアフ島の西海域に向けて航行している連合艦隊の各空母部隊だ。
連絡を始めた直後に、オアフ島の南西海域を飛行していた電探警戒機から報告が入ってきた。
「長官、3つ目の米艦隊を発見したとのことです。オアフ島から南西に100浬(185km)程度、離れた海上を航行しています。これで全ての米艦隊の位置が判明しました。なお引き続き、電探警戒機は索敵を続けています。4番目の艦隊が出てこないとも限りませんから」
……
夜明け直前の薄明りの中で、ミッドウェー島から飛来した3機の二式大艇がハワイ諸島へと近づいていた。地上はまだ暗いが上空から見ていると、次第に夜明け前のオレンジ色の明りが東の空から広がってくる。カウアイ島の北東の海域へと飛行した二式大艇のうちの2機は飛行ルートを東方へ進んでいった。残りの1機はそれよりも西側を飛行していた。オアフ島は二式大艇の南東方側にあるはずだが、距離が離れているのでまだ見えていない。二式大艇は徐々に高度を上げてゆくと、高度7,000mまで上昇した。3機の二式大艇は同じ緯度で、西側から東側に一列になる位置で飛行していた。各機が決めた位置に達してしばらくすると、山口大将の作戦開始の決定が二式大艇の部隊にも伝えられた。
二式大艇2号機の大石中尉も基地経由で連合艦隊からの指令を受信した。それを機内の各搭乗員に伝える。
「基地から命令が来たぞ。作戦開始だ。米軍の機動部隊はハワイ西側の海域で北西から、真西と西南西の方面に位置していることを確認した。よって、我々はオアフ島北側の空域で作戦行動を開始する」
わかってはいたが、あえて主操縦士の加藤上飛曹が確認した。
「ということは、我々が飛行している事前に決めた現在位置で、散布を開始して問題ないということですね」
「そのとおりだ。加藤上飛曹、機首を真東に向けてくれ。各員、散布作業の準備を開始せよ」
しばらくして、加藤上飛曹が速度を落として機体の方位を安定させたことを報告する。
「飛行方位、真東、速度150ノット(278km/h)、直進飛行が安定しました」
「よしっ。散布開始。電波攪乱紙を散布せよ」
二式大艇は、作戦計画に従って、主翼付け根後方の胴体左右側面にあるブリスター型銃座の窓を開いて搭載していた荷物を次々と空中に落とし始めた。機内では、手の空いた搭乗員が酸素マスクをつけてバケツリレー方式で投下作業員に荷物を渡してゆく。後方に向けて投下すると、荷物から出た紐の一端につけられた布切れが風に流されていく。機体の後方で、布切れが小型の落下傘を引き出した。落下傘が開くと。その張力で荷物の底面につけられた切れ目が裂けて開口部から内容物が空中へとばら撒かれ始めた。
空中に広がっていった内容物が飛散してキラキラと光っている。二式大艇は繰り返し百個あまりの荷物を空中に落とした。1つが10kgとしても総計1トンの荷物だ。他の2機の二式大艇もそれぞれ3浬(5.6km)程度離れた空域で、同じ荷物を投下していた。3機の二式大艇が投下した荷物からばら撒かれたのは、オアフ島の電探で使用されている周波数を想定して、波長に合わせた長さに加工されたアルミ箔だった。厳密には、薄い紙にアルミを蒸着させて、短冊状に切断したものだ。電探の波長が複数存在していることも考慮して、無数のほうとう麺を異なる長さに切ったような短冊が放出された。
西から東にかけて、およそ長辺が15kmの長方形の領域に攪乱紙がばら撒かれた。偏西風に加えて、当日のハワイの気象も考慮して、上空の風が、東南東に向かって吹いている前提で散布している。これで、電探には、カウアイ島の北東の方向から徐々に東南東に移動して、オアフ島の北岸に近づいている反射波が映るはずだ。
……
散布後しばらくして、オアフ島の北側のオバナポイントのレーダーが、最初に目標を探知した。探知レーダーが、海岸の北側から100マイル(161km)離れた上空から大きな反射波を受信した。既に太陽が顔を出して、空は徐々に明るくなっていた。ハワイ方面陸軍司令長官のエモンズ中将は、日本軍が接近している非常事態なので、司令部に待機していた。
司令官室まで走ってやってきた通信士官が、早口で報告を始めた。
「オアフ島の北方海上にレーダーが未知の編隊を探知しました。オバナポイントのレーダー基地が西の海上約100マイルに編隊を探知しています。電波の反射が非常に大きいことから、大編隊と想定されます。続いて、カワイロアのレーダーでも同じ編隊を北方に探知しています。この時間に陸軍も海軍も編隊を飛行させていないことは確認済みです。私は、日本軍の艦載機によるオアフ島への攻撃だと判断します」
エモンズ中将は黙って報告を聞いてから、しばらく机の上に視線を落として考えていた。彼は、オアフ島航空部隊の指揮官として、左遷された前任者のようにならないためには、迅速に行動することが必要だと日頃から考えていた。基地に航空機を置いておけば、前回のように地上で撃破される可能性が高い。同じ間違いを避けるには、とにかく航空機を早く空に上げてしまうことだ。
「わかった。100マイルの距離を飛んできて、この島の基地への攻撃を開始するまでには、1時間もかからないだろう。これから、私は航空隊指揮官のダグラス少将に命令を出す。手遅れにならないうちに、わが軍の戦闘機隊をすぐに発進させよう。取り決めに従って海軍のマケイン大将にも通知する。海軍からも戦闘機を出してくれるだろう。君は敵編隊の情報を監視してくれ。オアフ島に向けて敵編隊が飛行してくれば、もっと多くのレーダーが探知するはずだ。敵の状況に変化があったら、直ちに報告してくれ。」
航空隊指揮官のダグラス少将はオアフ島基地の陸軍部隊の出撃を命じた。前日から日本艦隊が接近してくることはわかっていた。従って、オアフ島の基地航空隊は臨戦態勢で、いつでも出撃可能な準備をしていた。命令を受けて、直ちに迎撃戦闘機の離陸が始まった。
太平洋艦隊司令長官のマケイン長官にも、陸軍のレーダー基地が大編隊を探知したことはすぐに伝えられた。長官は、海兵隊のヴァンデグリフト少将とオアフ島海軍基地航空隊の指揮官であるマレー少将に航空部隊の出撃を要請した。
二人の少将は、直ちに麾下の航空部隊に出撃を命じた。まずは戦闘機隊に北方への迎撃を命じて、次に爆撃隊には、オアフ島の東方海上への空中避難を命じた。
しばらくして、マクモリス少将が、戦闘機の出撃が始まったことをマケイン長官に報告に来た。
「長官、海兵隊と海軍の戦闘機隊による迎撃を指示しました。各基地から戦闘機が発進しています。なお爆撃隊には、攻撃による被害を避けるために東方海上への避難を命じました」
「了解だ。マクモリス少将、オアフ島の全ての基地に日本軍の編隊が攻撃して来ることを通知してくれ。地上の対空砲も戦闘配備につかせる必要があるぞ。真珠湾内に残る艦艇にも戦闘配備につくように伝えるのだ。それと追加の偵察機を出してくれ。全ての敵の機動部隊がハワイの北側に回ったとは考えにくい。別の方面から仕掛けてくる可能性があるぞ」
……
一航戦や二航戦、五航戦などの機動部隊は、オアフ島陸軍の4発爆撃機から攻撃を受けて以降、夜間攻撃を警戒していた。昨夜は西方か南方に移動して、オアフ島から距離をとっていた。それが夜明け前には、米機動部隊に接近するように、オアフ島方向に艦隊の向きを変えた。山口長官からの作戦開始の指示を受けてからは、3群に分かれた米艦隊を攻撃範囲に収めるために全速で接近を開始していた。
……
オアフ島の北方でアルミの電波攪乱紙をばらまいた二式大艇は、しばらくハワイ北方海域で索敵を続けていたが、北側では米軍の艦隊を発見できなかった。その二式大艇が最初に米軍の航空機と接触することになった。
通信員の橘一飛曹が探知を報告した。
「電探に感あり、50浬(93km)に大編隊の航空機を探知。北に向けて飛行中です」
すぐに大石中尉が答える。
「攪乱紙にひっかかったな、すぐに連合艦隊司令部に報告してくれ。攻撃されてはたまらんから、退避するぞ。真北に向けて飛行する」
通信を担当していた川上二飛曹が二式大艇1号機の無線報告を捕まえた。
「1号機も、オアフ島から飛び立った米軍機を探知したようです。現状空域から北方に退避してゆくことを連合艦隊司令部に報告しています」
「わかった、これで作戦の第一段階はうまく進んでいるということだな」
……
オアフ島の基地航空隊からの離陸と北側への飛行状況は、連合艦隊司令部に通知された。
報告を受けて、直ちに山口長官が命令を発出した。
「オアフ島の米軍機が北方への飛行を開始した。各空母部隊に転電してくれ。計画通りだ。基地航空機が誘引されている間に、攻撃隊の発進を命令する。一航戦から五航戦の各空母部隊は、敵が攻撃可能な距離に入ったら、攻撃隊を発進させよ。ミッドウェーの連山隊も可及的速やかに米艦隊を攻撃せよ」
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