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第一章
魔力
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「では、今日も皆様、髪のお手入れ方法をしっかり覚えてください」
お風呂で声を張り上げる私。エスメラルダさんのお屋敷です。
目の前には十人もの侍女さんが並んでいる。みんな可愛いのに真剣な顔でこっちを見ているから、緊張してしまう。
パーティーの後、エスメラルダさんたちは辺境領に戻って年越しするらしい。侍女たちは私がいなくても、エスメラルダ様の髪を最高の状態に保ちますと張り切っている。
ヘアケア教室、第二回。第一回はシャンプーの仕方だけで終わってしまった。今回は髪の乾かし方だが、前回の復習として、目の前で洗ってもらう。
しかし、すごい屋敷だ。侍女用のお風呂がきちんとあって、しかも、十人も一度に入れる。
デルバールでの教室と違うのは、髪を洗うだけだからと、みんな服を着ているところだ。透けないように黒っぽい生地の服だ。その上に防水のケープを羽織ってもらった。サロン用に作ってもらったんだけど、やっぱり、便利。エスメラルダさんもたくさん買ってくれた。
「まずは前回の要領で髪を洗ってください。できた方からチェックしますので、私に声をかけてください」
みんな、前回、教えた通り、まず、ブラシで髪をとかしている。
「一人一人、髪の量は違うので、早く洗えたらいいわけじゃありませんよ」
「いいですか。髪の毛は濡れると、傷みやすくなるので乱暴に扱わないでください」
シャンプーを始めた侍女さんたちをまわって見ていく。
「マリアさん、できました」
手を挙げた侍女の髪を触って確認する。
「はい、合格です」
次に隣の侍女が手を挙げたので確かめる。
「不合格です。すすぎが足りていません。さわると、つるっとした感じが残ってます。キシキシとした感じが出るまですすいでください」
不合格になった侍女に自分の髪と合格した侍女の髪を触り比べてもらう。
「確かに違いますけど、つるっとしている方がいいんじゃないですか?」
不思議そうに質問された。
「それはシャンプーが残っています。残っていると、頭皮に問題が発生しやすくなります。つまり、吹き出物、痒み、フケ、抜け毛、薄毛の原因になる可能性があります。洗う時間の三倍の時間をすすぎに使ってください」
慌てて、すすぎ直す人が多い。ヘアケアの知識があまりないんだよなあ。お風呂やシャワーは立派な物があるのに。
全員合格したところで、タオルドライを説明する。
「濡れたまま、放置は禁止ですよ。すぐに髪の根本から拭いていってください。擦らないように」
また、全員の状態を確認して、いよいよ、ドライヤー。
「二人一組になって、それぞれお互いの髪を乾かしてもらいます」
髪が長いから大変だ。
「必ず、上から風を当てるようにしてください。耳の後ろから乾かすのがおすすめです」
実際にやって見せると、すぐにマスターしていく。さすが、エスメラルダさんの侍女は優秀。
「あれ」
一人の侍女の手が止まった。
「どうしました?」
「ドライヤーが止まってしまって」
「魔石切れじゃない? ジーナ、充填、お願い」
呼ばれたジーナという侍女がやってくると、ドライヤーのハンドル部分をスライドさせた。ゴツゴツした灰色の石がコロンと出てくる。魔力が無くなった魔石だ。
ジーナはそれをじっと握った。気のせいか、その手がぼんやりと光っているように見える。
「はい、充填完了」
石がかすかに蛍光している。その石をドライヤーに戻してスイッチを入れると、また、温風が出る。
「ジーナ、ありがとう」
それから、しばらくして、髪の乾燥を終了。質問タイムとなる。生徒たちと一緒にお茶を飲みながらなので、こんなの楽しくていいのかなと思ってしまう。今日はエスメラルダさんもハロルドさんもお出かけ中なので、気楽に話をするようにお願いしている。
「乾かし方でこんなにツヤが変わるんですね」
「ええ、髪が長いと、ドライヤーで乾かすのも大変だけど、頑張る甲斐があるでしょ」
「はいっ」
「でも、魔石の充填ってあんなふうに行うんですね。買ってきた魔石しか見たことがなかったので面白かった」
私の言葉に侍女長が答えた。
「この屋敷でも魔力の入った魔石を購入してますが、鉱山で掘り出された原石と比べると充填された魔石は消耗が早いんです。でも、さっきみたいにあと少しって時は充填した方が早いので」
「充填できるのはジーナさんだけなんですか?」
「ええ。この屋敷ではそうです。充填には魔力が高い人じゃないとできないので。魔力が高い人は辺境領に優先して配属されるんです。非常時の武器の充填とか大事な仕事ですから」
なるほど、大変だ。
「魔力が高い人って珍しいんですか。あ、私の国にはほとんどいなかったので」
いや、本当は一人もいないと思うけど。
「え、でも、マリアさん、強いんでしょう。魔石交換もせずにずっと、ドライヤーを使ってますよね」
「いえ、私の力じゃなくて、私のドライヤーは特別製で長持ちするようになっているんです」
ドライヤーが異世界チートを持っているなんて言えない。
「そうなんですか。我が国では魔力が高い人は全体の三分の一ぐらいかな。でも、コントロールが難しいので、騎士団や神殿で鍛えないと魔法として使うのは無理ですね。魔石の充填は簡単なんですけど」
そういえば、ジェシーさんの治癒能力はすごかったな。
と、あの間近で見た顔の破壊力を思い出してしまった。色気がある人は困る。冷静に考えられない。
そういえば、ブライアン王子もきちんと魔法を使っていたということは真面目に鍛えていたのか。へー、意外。
「レオさんも魔法を使えるんですかね」
「もちろんです。辺境領で魔獣が大発生した時、大活躍されたんですよ。炎系の魔法を使われるんですが、それはそれはお強いとお聞きしました」
見てみたいな。かっこいいんだろうな。
「マリアさん、レオさんが気になります? レオさんもマリアさんを意識してますよ」
いきなりそんなことを言われるから、私はお茶を吹き出しそうになった。
お風呂で声を張り上げる私。エスメラルダさんのお屋敷です。
目の前には十人もの侍女さんが並んでいる。みんな可愛いのに真剣な顔でこっちを見ているから、緊張してしまう。
パーティーの後、エスメラルダさんたちは辺境領に戻って年越しするらしい。侍女たちは私がいなくても、エスメラルダ様の髪を最高の状態に保ちますと張り切っている。
ヘアケア教室、第二回。第一回はシャンプーの仕方だけで終わってしまった。今回は髪の乾かし方だが、前回の復習として、目の前で洗ってもらう。
しかし、すごい屋敷だ。侍女用のお風呂がきちんとあって、しかも、十人も一度に入れる。
デルバールでの教室と違うのは、髪を洗うだけだからと、みんな服を着ているところだ。透けないように黒っぽい生地の服だ。その上に防水のケープを羽織ってもらった。サロン用に作ってもらったんだけど、やっぱり、便利。エスメラルダさんもたくさん買ってくれた。
「まずは前回の要領で髪を洗ってください。できた方からチェックしますので、私に声をかけてください」
みんな、前回、教えた通り、まず、ブラシで髪をとかしている。
「一人一人、髪の量は違うので、早く洗えたらいいわけじゃありませんよ」
「いいですか。髪の毛は濡れると、傷みやすくなるので乱暴に扱わないでください」
シャンプーを始めた侍女さんたちをまわって見ていく。
「マリアさん、できました」
手を挙げた侍女の髪を触って確認する。
「はい、合格です」
次に隣の侍女が手を挙げたので確かめる。
「不合格です。すすぎが足りていません。さわると、つるっとした感じが残ってます。キシキシとした感じが出るまですすいでください」
不合格になった侍女に自分の髪と合格した侍女の髪を触り比べてもらう。
「確かに違いますけど、つるっとしている方がいいんじゃないですか?」
不思議そうに質問された。
「それはシャンプーが残っています。残っていると、頭皮に問題が発生しやすくなります。つまり、吹き出物、痒み、フケ、抜け毛、薄毛の原因になる可能性があります。洗う時間の三倍の時間をすすぎに使ってください」
慌てて、すすぎ直す人が多い。ヘアケアの知識があまりないんだよなあ。お風呂やシャワーは立派な物があるのに。
全員合格したところで、タオルドライを説明する。
「濡れたまま、放置は禁止ですよ。すぐに髪の根本から拭いていってください。擦らないように」
また、全員の状態を確認して、いよいよ、ドライヤー。
「二人一組になって、それぞれお互いの髪を乾かしてもらいます」
髪が長いから大変だ。
「必ず、上から風を当てるようにしてください。耳の後ろから乾かすのがおすすめです」
実際にやって見せると、すぐにマスターしていく。さすが、エスメラルダさんの侍女は優秀。
「あれ」
一人の侍女の手が止まった。
「どうしました?」
「ドライヤーが止まってしまって」
「魔石切れじゃない? ジーナ、充填、お願い」
呼ばれたジーナという侍女がやってくると、ドライヤーのハンドル部分をスライドさせた。ゴツゴツした灰色の石がコロンと出てくる。魔力が無くなった魔石だ。
ジーナはそれをじっと握った。気のせいか、その手がぼんやりと光っているように見える。
「はい、充填完了」
石がかすかに蛍光している。その石をドライヤーに戻してスイッチを入れると、また、温風が出る。
「ジーナ、ありがとう」
それから、しばらくして、髪の乾燥を終了。質問タイムとなる。生徒たちと一緒にお茶を飲みながらなので、こんなの楽しくていいのかなと思ってしまう。今日はエスメラルダさんもハロルドさんもお出かけ中なので、気楽に話をするようにお願いしている。
「乾かし方でこんなにツヤが変わるんですね」
「ええ、髪が長いと、ドライヤーで乾かすのも大変だけど、頑張る甲斐があるでしょ」
「はいっ」
「でも、魔石の充填ってあんなふうに行うんですね。買ってきた魔石しか見たことがなかったので面白かった」
私の言葉に侍女長が答えた。
「この屋敷でも魔力の入った魔石を購入してますが、鉱山で掘り出された原石と比べると充填された魔石は消耗が早いんです。でも、さっきみたいにあと少しって時は充填した方が早いので」
「充填できるのはジーナさんだけなんですか?」
「ええ。この屋敷ではそうです。充填には魔力が高い人じゃないとできないので。魔力が高い人は辺境領に優先して配属されるんです。非常時の武器の充填とか大事な仕事ですから」
なるほど、大変だ。
「魔力が高い人って珍しいんですか。あ、私の国にはほとんどいなかったので」
いや、本当は一人もいないと思うけど。
「え、でも、マリアさん、強いんでしょう。魔石交換もせずにずっと、ドライヤーを使ってますよね」
「いえ、私の力じゃなくて、私のドライヤーは特別製で長持ちするようになっているんです」
ドライヤーが異世界チートを持っているなんて言えない。
「そうなんですか。我が国では魔力が高い人は全体の三分の一ぐらいかな。でも、コントロールが難しいので、騎士団や神殿で鍛えないと魔法として使うのは無理ですね。魔石の充填は簡単なんですけど」
そういえば、ジェシーさんの治癒能力はすごかったな。
と、あの間近で見た顔の破壊力を思い出してしまった。色気がある人は困る。冷静に考えられない。
そういえば、ブライアン王子もきちんと魔法を使っていたということは真面目に鍛えていたのか。へー、意外。
「レオさんも魔法を使えるんですかね」
「もちろんです。辺境領で魔獣が大発生した時、大活躍されたんですよ。炎系の魔法を使われるんですが、それはそれはお強いとお聞きしました」
見てみたいな。かっこいいんだろうな。
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いきなりそんなことを言われるから、私はお茶を吹き出しそうになった。
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