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第一章
二択
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「やめてください。もう、逃げないと言っているでしょう」
ジェシーさんの声だ。
「信じられるか。仕事もおざなり、気が抜けた顔して訓練しやがって」
ブランクス先生の声が聞こえる。
私は少し緊張して待っていた。カツを入れるって、どうすればいいんだろう。
「来たぞ」
ブランクス先生がジェシーさんをヘッドロックしたまま、ずるずる引きずって現れた。
「いらっしゃいませ」
私はゆっくりと立ち上がって、頭を下げる。
「ジェシーさん、お久しぶりです」
ブランクス先生が手を離すと、ジェシーさんは慌てたように両手を広げて左右に振った。
「マリアちゃん、座って。無理しないで」
「大丈夫です。ほら、歩けるんですよ」
私は杖を使わずにゆっくりと歩いた。
「お前がウジウジしている間にマリアはここまで頑張ったんだぞ。恥ずかしくないのか」
ブランクス先生がジェシーさんを小突いた。ジェシーさんの顔が歪んだ。
「ジェシーさんのおかげでまた、命拾いしちゃいました。ありがとうございます」
「マリアちゃんの命を救ったのは神官だ。俺は何もできなかったんだ。マリアちゃんの手がどんどん冷たくなって……」
「ジェシーさんが治癒してくれなかったら、神殿にたどり着く前に死んでいました」
ブランクス先生が咳払いした。
「そうだ。お前は今まで幸運だったんだよ。自分が治癒している間に人が死ぬことを経験せずにすんでいたんだから。そして、今回も幸運にも命をつなぐことができたんだ。自分を誇っていいんだぞ」
私はさらに数歩、近づいた。
「ジェシーさん、私はジェシーさんのおかげで助かったのに、なぜ、そんなに自分を責めているんですか」
手を伸ばそうとして、バランスが崩れた。転んでしまう。そう思った時にはがっしりとジェシーさんに抱き止められていた。
「無理しないで。マリアちゃんが苦しむのは見たくないんだ」
切実な声でささやかれた。
「好きだ。やっぱり、どうしようもなく、好きなんだ。だから、君を治すことができなかったのが怖くてたまらないんだ。マリアちゃん」
「ジェ、ジェシーさん」
ブランクス先生が近づいてきて、また、ジェシーさんの頭を小突いた。
「お前は極端なんだよ」
ブランクス先生はジェシーさんを私から引き離すと椅子を持ってきてくれた。私はすぐに座り込む。
「言いたいことがあるなら、落ち着いて話せ。俺は部屋の隅にいるから」
ブランクス先生は部屋の隅に移動すると腕を組んだ。
ジェシーさんは頭を振ると、私の前にひざまづいた。
「ブランクスにだまされてきたので何も持ってきてないんだけど。マリアちゃん、結婚してください。そして、もう、無理なことはしないでください。俺はもっと、強くなります。治癒魔法も極めます。そして、マリアちゃんを守りますから」
「無理なことってなんですか」
びっくりするほど、冷たい声が自分から出た。
「エスメラルダ様の髪を整えない方がよかったですか? 店を開こうとしたのが間違いですか」
「間違いじゃない。でも、あんな奴らに目をつけられることもなかった」
「賠償金で別の場所に店を出そうと思っています」
「店を出すなんて、危険なことをしなくても、俺が養ってあげるから」
私がジェシーさんを好きだったら、嬉しく思うんだろうか。
「私は自分の力で店を開きたいんです」
ジェシーさんは唇を噛み締めた。それから、ポツリと言葉が漏れる。
「レオが好きなの? レオだったら、守らせてくれた?」
頬がカッと熱くなる。
「ごめんなさい。でも、それとこれとは別の話で」
「レオが店を開けるなって言ったら、言うことを聞くんでしょ」
レオさんなら、そんなこと言わない。でも、もし、レオさんが店を開けるなと言ったら。
ああ、無理だ。
「聞けません。私は仕事を続けます」
歯を食いしばって答える。仕事か恋人か。まさか、異世界でもそんな二択があるとは思わなかった。
「レオと別れることになっても?」
「別れるも何も付き合ってませんし」
嫌だ。嫌だ。レオさんに会いたい。でも、私は。
「私は夢を捨てられません」
「マリアちゃん、ごめん」
ジェシーさんが頭を下げた。
「レオのことが本当に好きなんだね」
「え?」
仕事を選ぶって言っているのに、なぜ?
「泣かれると弱いんだよ」
「え?」
ブランクス先生がやってきて、タオルを差し出されるまで、私は自分が泣いていることに気づかなかった。
「あーあ、先生はひどいな。こういう結果になるの、わかってたんでしょ。落ち込んでいる俺を連れてきて、さらにどん底に落とすんだから」
ジェシーさんが伸びをしながら、立ち上がった。
「結果はわからなかったが俺は腑抜けた男は嫌いでね」
ブランクス先生が笑った。
「マリアちゃん、ありがとう。目が覚めたみたいだ。でも、また、元の関係に戻りたいな」
私は涙を拭いて答えた。
「命の恩人でこの世界の常識を教えてくれる先生ですね」
「そして、友人」
「もちろんです」
ジェシーさんが笑った。来た時の曇った顔じゃなく、スッキリとした顔だった。
ジェシーさんの声だ。
「信じられるか。仕事もおざなり、気が抜けた顔して訓練しやがって」
ブランクス先生の声が聞こえる。
私は少し緊張して待っていた。カツを入れるって、どうすればいいんだろう。
「来たぞ」
ブランクス先生がジェシーさんをヘッドロックしたまま、ずるずる引きずって現れた。
「いらっしゃいませ」
私はゆっくりと立ち上がって、頭を下げる。
「ジェシーさん、お久しぶりです」
ブランクス先生が手を離すと、ジェシーさんは慌てたように両手を広げて左右に振った。
「マリアちゃん、座って。無理しないで」
「大丈夫です。ほら、歩けるんですよ」
私は杖を使わずにゆっくりと歩いた。
「お前がウジウジしている間にマリアはここまで頑張ったんだぞ。恥ずかしくないのか」
ブランクス先生がジェシーさんを小突いた。ジェシーさんの顔が歪んだ。
「ジェシーさんのおかげでまた、命拾いしちゃいました。ありがとうございます」
「マリアちゃんの命を救ったのは神官だ。俺は何もできなかったんだ。マリアちゃんの手がどんどん冷たくなって……」
「ジェシーさんが治癒してくれなかったら、神殿にたどり着く前に死んでいました」
ブランクス先生が咳払いした。
「そうだ。お前は今まで幸運だったんだよ。自分が治癒している間に人が死ぬことを経験せずにすんでいたんだから。そして、今回も幸運にも命をつなぐことができたんだ。自分を誇っていいんだぞ」
私はさらに数歩、近づいた。
「ジェシーさん、私はジェシーさんのおかげで助かったのに、なぜ、そんなに自分を責めているんですか」
手を伸ばそうとして、バランスが崩れた。転んでしまう。そう思った時にはがっしりとジェシーさんに抱き止められていた。
「無理しないで。マリアちゃんが苦しむのは見たくないんだ」
切実な声でささやかれた。
「好きだ。やっぱり、どうしようもなく、好きなんだ。だから、君を治すことができなかったのが怖くてたまらないんだ。マリアちゃん」
「ジェ、ジェシーさん」
ブランクス先生が近づいてきて、また、ジェシーさんの頭を小突いた。
「お前は極端なんだよ」
ブランクス先生はジェシーさんを私から引き離すと椅子を持ってきてくれた。私はすぐに座り込む。
「言いたいことがあるなら、落ち着いて話せ。俺は部屋の隅にいるから」
ブランクス先生は部屋の隅に移動すると腕を組んだ。
ジェシーさんは頭を振ると、私の前にひざまづいた。
「ブランクスにだまされてきたので何も持ってきてないんだけど。マリアちゃん、結婚してください。そして、もう、無理なことはしないでください。俺はもっと、強くなります。治癒魔法も極めます。そして、マリアちゃんを守りますから」
「無理なことってなんですか」
びっくりするほど、冷たい声が自分から出た。
「エスメラルダ様の髪を整えない方がよかったですか? 店を開こうとしたのが間違いですか」
「間違いじゃない。でも、あんな奴らに目をつけられることもなかった」
「賠償金で別の場所に店を出そうと思っています」
「店を出すなんて、危険なことをしなくても、俺が養ってあげるから」
私がジェシーさんを好きだったら、嬉しく思うんだろうか。
「私は自分の力で店を開きたいんです」
ジェシーさんは唇を噛み締めた。それから、ポツリと言葉が漏れる。
「レオが好きなの? レオだったら、守らせてくれた?」
頬がカッと熱くなる。
「ごめんなさい。でも、それとこれとは別の話で」
「レオが店を開けるなって言ったら、言うことを聞くんでしょ」
レオさんなら、そんなこと言わない。でも、もし、レオさんが店を開けるなと言ったら。
ああ、無理だ。
「聞けません。私は仕事を続けます」
歯を食いしばって答える。仕事か恋人か。まさか、異世界でもそんな二択があるとは思わなかった。
「レオと別れることになっても?」
「別れるも何も付き合ってませんし」
嫌だ。嫌だ。レオさんに会いたい。でも、私は。
「私は夢を捨てられません」
「マリアちゃん、ごめん」
ジェシーさんが頭を下げた。
「レオのことが本当に好きなんだね」
「え?」
仕事を選ぶって言っているのに、なぜ?
「泣かれると弱いんだよ」
「え?」
ブランクス先生がやってきて、タオルを差し出されるまで、私は自分が泣いていることに気づかなかった。
「あーあ、先生はひどいな。こういう結果になるの、わかってたんでしょ。落ち込んでいる俺を連れてきて、さらにどん底に落とすんだから」
ジェシーさんが伸びをしながら、立ち上がった。
「結果はわからなかったが俺は腑抜けた男は嫌いでね」
ブランクス先生が笑った。
「マリアちゃん、ありがとう。目が覚めたみたいだ。でも、また、元の関係に戻りたいな」
私は涙を拭いて答えた。
「命の恩人でこの世界の常識を教えてくれる先生ですね」
「そして、友人」
「もちろんです」
ジェシーさんが笑った。来た時の曇った顔じゃなく、スッキリとした顔だった。
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