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聞こえててほしい、でも、
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「おい、アーサー!!一旦退くぞ!体制立て直してからの方がいい!」
「っ……分かった……。……………移転装置起動。早く!」
ブォン…と低い音の機械音がなったかと思えば、2人の戦士達の姿はその場から無くなっていた
「ふーーーーーー……、危なかったなあ!!」
汗を拭いながら岩の上に腰を下ろした男――――名をサウスという――――が大声で叫んだ。
こめかみからは血が吹き出し、滴る汗と混ざっている。
いつもなら光に当たると輝いて見える薄い茶髪も、この曇り空では血で濡れてぐしゃぐしゃなだけだ。
「……またそのような事を言って…。退却ばかりで悔しくないのか、貴公は。」
軽くサウスを睨みつけているアーサーと呼ばれたこの戦士。逸話に残るアーサーの名を冠してはいるが、その容貌は全く異なる。
一部の隙も許さぬ黒髪に、乱雑に切ったと思われる短髪。顔の中央に大きなバツ印の傷があるが、それも今日は他の傷に紛れてあまり目立たない。サウスと比べるとまだ体をなしている戦闘服の下は、過去の傷だらけだ。
唯一、伝説のアーサーと同じ点といえば、顔立ちが整っている事か。…あと、同じかどうかは知らないが馬鹿真面目で有名であった。
「んな事言ってもしょうがねえだろ。向こうはほとんど無尽蔵に出てきやがる。それに対して俺たちはどうだァ?たった2人だぜ?」
「2人であることに関しては詫びる。だがしかし、囚われた部下達を放って置けぬのだ………ッ」
悔しそうに歯を食いしばり、アーサーの全身に力が入る。部下を思う心が人一倍強いのはサウスにとって今に知った事ではない。ずっと副隊長として横で見守ってきたのだから当然だ。
「……それは、俺も一緒だって言ったろ?じゃなきゃついてこねぇよ。
俺だってアイツらを助けたいさ。でもなアーサー。お前は1つの事しか見られないとこがある。戦況の把握は苦手なはずだ。だから俺に任せろ。分かったか?」
「…ああ。少々考えなしだった。貴公には、いつも救われている。騎士隊長としての役目を果たす事に集中出来るのも、そのおかげだ。よろしく頼むぞ」
柔らかく微笑んだ顔をサウスへと向ける。傷だらけでも美しいと感じさせるその顔は、下手をすると今にも散りゆくものに思えた。
2人は立ち上がり、再び戦闘準備を整える。
「なあ、移転装置の残量いくつだ?」
「今から使うのを除けば2つだな。そのうち1つは救出後に使う予定だから実質あと1つだ。」
あとは、ない。
追い詰められた状況も相まってか、2人は快進撃を続けていた。宙を舞い、一度腕を振れば血飛沫があがる。太刀は機動力が低いため、自前の片手剣と使い分けながら道をその名の通り、切り開いて行く。
部下達の元まであと僅か。その時だった。
「……やっぱ、一筋縄じゃァ、行かせてくれねーよな………」
眼前に見える、敵軍の壁。施設の目の前に陣取り、ぐるっと囲うような陣形であった。入り込む隙間はない。
「アーサー……ちょっと、装置貸してくれ。」
「構わないが……もう戻るわけにはいかぬぞ?」
「分かってる。」
しばし無言で移転装置をいじっていたが、急にサウスの顔が輝いた。
「っしゃ…………ッ!やったぜ、アイツらの1人が、座標を持ってる…!飛べるぞ、一気に!!」
「何と……!流石は俺とサウスの部下だ。…ただでは転ばぬ。」
喜んだのもつかの間。今隠れている所からはこの簡易的な移転装置では届かない。
2人の出した決断は、強行突破だった。
「向こう着いたらすぐに本装置起動させて城に戻るぞ。できるだけ身軽にして、全部装置ん中入れとけ。」
「了解した。先に俺が行くから、サウスは後ろを頼む。」
鬼神のような強さで敵を薙ぎ払っていく。持っているのは短刀。王国内イチと噂される運動神経を存分に発揮し、頸動脈を掻き切るだけの動きで殺る。
それも、相手に囲まれるまでの話。
騎士隊長と副隊長でも、囲まれてしまえば下手に動けない。後、少しの距離で行けるというのに。僅か2、3mでいい。施設に近づきさえすれば……………っ…!!
「あーらら…これ、俺達死ぬ感じか?」
「その、ようだな…。もう手が届くというのに。…………無様だ。」
「お前だけなら行けるだろ、助けに。」
睨み合っていた中、いきなりサウスが言い出した。覚悟が伺える声音で。
「どういう事だ。……俺だけ行く気はないぞ。お前も一緒でなければ駄目だ。そもそも、そうしないと帰れぬだろう。」
「でもな、このままだと2人とも死んで、部下達も救えず、我が国の技術まで奪われる可能性がある。それに比べりゃ、1人の命ぐらい安いもんだ。」
言うが早いが、超人的な跳躍力でアーサーを抱えて宙に浮いた。移転装置はいつでも起動できる状態になっており、あとは使用者がボタンを押すだけだ。サウスがアーサーに手を添えて、最終起動スイッチを押す。
「待て………っ!やめろサウス…、何を考えてるんだ………ッ…。お前も、……なぜ、………なぜ手を掴まないっ!!」
「お前がこの短刀持ってけ。陛下からの頂き物なんだ。返しといてくれ…あぁ、………でもなぁ…………………………」
装置が起動する。もう2人の間の距離は手を伸ばしても届かない。下には敵が今かと待ち構えていた。
落下感だけを感じて落ち続ける。次第に地上が近づいてくるのを感じる。 共に戦ってきた者が――――――――密かに、想いを寄せつつあった、命を賭してでも助けたかった者が、泣き叫んで手を伸ばしてくる。その声すらも聞こえない。ただ、僅かに残っていた未練が、サウスの頬を濡らした。
「……俺の形見ぐらい、好きな奴に持っててもらいてぇや…………」
この言葉は、アイツに聞こえただろうか。
「っ……分かった……。……………移転装置起動。早く!」
ブォン…と低い音の機械音がなったかと思えば、2人の戦士達の姿はその場から無くなっていた
「ふーーーーーー……、危なかったなあ!!」
汗を拭いながら岩の上に腰を下ろした男――――名をサウスという――――が大声で叫んだ。
こめかみからは血が吹き出し、滴る汗と混ざっている。
いつもなら光に当たると輝いて見える薄い茶髪も、この曇り空では血で濡れてぐしゃぐしゃなだけだ。
「……またそのような事を言って…。退却ばかりで悔しくないのか、貴公は。」
軽くサウスを睨みつけているアーサーと呼ばれたこの戦士。逸話に残るアーサーの名を冠してはいるが、その容貌は全く異なる。
一部の隙も許さぬ黒髪に、乱雑に切ったと思われる短髪。顔の中央に大きなバツ印の傷があるが、それも今日は他の傷に紛れてあまり目立たない。サウスと比べるとまだ体をなしている戦闘服の下は、過去の傷だらけだ。
唯一、伝説のアーサーと同じ点といえば、顔立ちが整っている事か。…あと、同じかどうかは知らないが馬鹿真面目で有名であった。
「んな事言ってもしょうがねえだろ。向こうはほとんど無尽蔵に出てきやがる。それに対して俺たちはどうだァ?たった2人だぜ?」
「2人であることに関しては詫びる。だがしかし、囚われた部下達を放って置けぬのだ………ッ」
悔しそうに歯を食いしばり、アーサーの全身に力が入る。部下を思う心が人一倍強いのはサウスにとって今に知った事ではない。ずっと副隊長として横で見守ってきたのだから当然だ。
「……それは、俺も一緒だって言ったろ?じゃなきゃついてこねぇよ。
俺だってアイツらを助けたいさ。でもなアーサー。お前は1つの事しか見られないとこがある。戦況の把握は苦手なはずだ。だから俺に任せろ。分かったか?」
「…ああ。少々考えなしだった。貴公には、いつも救われている。騎士隊長としての役目を果たす事に集中出来るのも、そのおかげだ。よろしく頼むぞ」
柔らかく微笑んだ顔をサウスへと向ける。傷だらけでも美しいと感じさせるその顔は、下手をすると今にも散りゆくものに思えた。
2人は立ち上がり、再び戦闘準備を整える。
「なあ、移転装置の残量いくつだ?」
「今から使うのを除けば2つだな。そのうち1つは救出後に使う予定だから実質あと1つだ。」
あとは、ない。
追い詰められた状況も相まってか、2人は快進撃を続けていた。宙を舞い、一度腕を振れば血飛沫があがる。太刀は機動力が低いため、自前の片手剣と使い分けながら道をその名の通り、切り開いて行く。
部下達の元まであと僅か。その時だった。
「……やっぱ、一筋縄じゃァ、行かせてくれねーよな………」
眼前に見える、敵軍の壁。施設の目の前に陣取り、ぐるっと囲うような陣形であった。入り込む隙間はない。
「アーサー……ちょっと、装置貸してくれ。」
「構わないが……もう戻るわけにはいかぬぞ?」
「分かってる。」
しばし無言で移転装置をいじっていたが、急にサウスの顔が輝いた。
「っしゃ…………ッ!やったぜ、アイツらの1人が、座標を持ってる…!飛べるぞ、一気に!!」
「何と……!流石は俺とサウスの部下だ。…ただでは転ばぬ。」
喜んだのもつかの間。今隠れている所からはこの簡易的な移転装置では届かない。
2人の出した決断は、強行突破だった。
「向こう着いたらすぐに本装置起動させて城に戻るぞ。できるだけ身軽にして、全部装置ん中入れとけ。」
「了解した。先に俺が行くから、サウスは後ろを頼む。」
鬼神のような強さで敵を薙ぎ払っていく。持っているのは短刀。王国内イチと噂される運動神経を存分に発揮し、頸動脈を掻き切るだけの動きで殺る。
それも、相手に囲まれるまでの話。
騎士隊長と副隊長でも、囲まれてしまえば下手に動けない。後、少しの距離で行けるというのに。僅か2、3mでいい。施設に近づきさえすれば……………っ…!!
「あーらら…これ、俺達死ぬ感じか?」
「その、ようだな…。もう手が届くというのに。…………無様だ。」
「お前だけなら行けるだろ、助けに。」
睨み合っていた中、いきなりサウスが言い出した。覚悟が伺える声音で。
「どういう事だ。……俺だけ行く気はないぞ。お前も一緒でなければ駄目だ。そもそも、そうしないと帰れぬだろう。」
「でもな、このままだと2人とも死んで、部下達も救えず、我が国の技術まで奪われる可能性がある。それに比べりゃ、1人の命ぐらい安いもんだ。」
言うが早いが、超人的な跳躍力でアーサーを抱えて宙に浮いた。移転装置はいつでも起動できる状態になっており、あとは使用者がボタンを押すだけだ。サウスがアーサーに手を添えて、最終起動スイッチを押す。
「待て………っ!やめろサウス…、何を考えてるんだ………ッ…。お前も、……なぜ、………なぜ手を掴まないっ!!」
「お前がこの短刀持ってけ。陛下からの頂き物なんだ。返しといてくれ…あぁ、………でもなぁ…………………………」
装置が起動する。もう2人の間の距離は手を伸ばしても届かない。下には敵が今かと待ち構えていた。
落下感だけを感じて落ち続ける。次第に地上が近づいてくるのを感じる。 共に戦ってきた者が――――――――密かに、想いを寄せつつあった、命を賭してでも助けたかった者が、泣き叫んで手を伸ばしてくる。その声すらも聞こえない。ただ、僅かに残っていた未練が、サウスの頬を濡らした。
「……俺の形見ぐらい、好きな奴に持っててもらいてぇや…………」
この言葉は、アイツに聞こえただろうか。
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いきなりごめんなさい!ただどうしても感想が言いたかったです
アルファポリスで私は読んでるだけなんですが、すごくこのお話が自分のツボに刺さりました。2人の関係がお話の中ではただの戦友という表現が強いのに、最後の方でサウスの心の中で思いが溢れていくところが特にでした。正直に言ってしまうと最後の最後で耐えきれず泣きました。もとより涙腺は緩い方ですがそれでもいい意味で辛かったです。短い文を重ねていくのも、お話の切羽詰まった感覚とマッチしてて好きでした。
サウスの方が攻めなんですよね?受けのが不器用で傷だらけなのも凄い好きです。もし、もし良ければこの2人の王国での暮らしとか、読んでみたいです………🙏厚かましくて申し訳ない。
語彙力なくて、ありきたな事しか書けませんが、文体、テーマ、人物の容姿表現等々好みでしか無かったです。いいお話をありがとうございました!
うわぁぁぁあっ!!ありがとうございます!!!!!!!!!!泣いてくださったんですか!!??!嬉しいです!私も書きながら涙腺ゆるゆるになってました!w
初めての感想を頂き「!」が多いですがお許しくださいね。
この2人、個人的にすごく気に入ってるので嬉しかったです!サウスが攻めのつもりで書きましたが、ご自由に考えてください〜。受けが死ぬのも好きですよ〜(聞いてない
)確かに王国での話書きたいですね〜……。時間が…← あと、書いてて私が辛くなりそうでwでも考えておきます( *˙ω˙*)و グッ!
短文重ねるのは苦手な方も多いと思ってたのでほっとしました…😅けど、どの話もこんな感じなので書き分けが…ね。長編の方も読んでくださってると言うことなので頑張ります(p`・ω・´q)